【MF自転車部】 試乗レポート TREK Rail 9.7 チョイ乗りからエクストリームまで! どこでも使えるハイパフォーマンスの魅力

オールラウンドに使えるハイエンドeBIKE TREK Rail 9.7

モビリティを考えるとき、現在一般的なのは自動車とバイクだ。モーターファンも、この2大自動車を中心に紹介を行なっているのだが、そのほかにも魅力的なモデルは少なくない。特に注目なのは電動アシスト自転車だろう。これまではママチャリが一般的だったが、欧米ではマウンテンバイクやロードバイクに電動アシストユニットを搭載したモデルがすでに普及し高い人気を得ている。これらをママチャリと分けてeBIKEと呼ぶことも多いのだが、ここではそんなモデルの新情報も発信していきたい。今回紹介するのはTrek Rail 9.7だ。

カーボンボディを持つトップスペックモデル

今回試乗するのはトレック(TREK)の電動化されたマウンテンバイク。レイル(Rail) 9.7という2021年型の上位モデル。価格はなんと86.9万円(税込)。(現在は2022年モデルへとアップデートされており、税込価格は90.42万円)

トレックというブランドは、1976年に北米ウイスコンシン州で誕生した自転車メーカー。トレックとはトレッキングでも知られるように、徒歩など自力での旅行を意味する。その冒険性をモデルに与えた。

現在では全米シェアでナンバーワンのメーカーとなるが安全意識の高いメーカーとしても知られ、傘下のパーツメーカーであるボンドレガーでは脳震盪(のうしんとう)などの頭部損傷を防止するヘルメットや、2km先からでも確認できるサイクリングライトなどの開発も行なっている。何よりもライダーを守る意識が強く、フレームには創業当初の1976年のモデル以来、ずっと生涯保障がつけられている。

Trek Rail 9.7 カーボン素材による滑らかなフレームが魅力的。

そんなトレックのハイクラスのeマウンテンバイクのレイル9.7は、カーボンフレームを採用した贅沢なモデルで、ボッシュ製電動アシストユニットを搭載する。ドライブユニットはパフォーマンスラインCX(重量2.9kg)、バッテリーはパワーチューブ625(重量3.5kg) というボッシュの中でもハイエンドのコンビ。1充電あたりの走行距離は100km(Turboモード)〜175km(ecoモード)だ。これに小型多機能ディスプレイであるKioxを採用する。単体で持つとけっこう重いバッテリーながら、カーボンフレームの恩恵でバイク全体の重量は22.8kg程度 (Mサイズ)におさえ込まれている。

ホイールは29インチと競技用といえるサイズで、前1段、後12段のギヤを駆動。ブレーキは前後ともシマノ製で、なんと4ピストンの油圧式だ。2022モデルでは新たなランナップとなっていることは、お断りしておこう。

Kioxという小型ディスプレイを採用。モードセッテイングの他、消費カロリーなど
の表示なども可能。スマホと同期させることで、走行データの記録もできる。

実際にこのモデルと対面してみると、シンプルさに少し唖然とする。電動アシストということであれば、バッテリーや駆動モーターがその存在をアピールするのかと思ったのだが、一切そんなことがない。むしろフレーム構成の美しさが印象的なほど。

現在のe-BIKEは、バッテリーをフレームに内包するスムースな造形となっているものが多いが、それ以上にRail9.7はチューブを溶接して構成したのではない、滑らかな一体感がある。

それはやはり、カーボンフレームがなせる技だ。ラインアップに同プロポーションのRail 5というアルミボディのモデルがあるのだが、こちらも基本的なデザインはほぼ一緒なのに、フレームはチューブを溶接することによって構成されるので少し違う印象となってくる。こちらも絶妙な溶接による構造も魅力的で、まさに工芸品の美しさがありながらパワー感がみなぎる。

対するRail 9.7のカーボンフレームは、どちらかというと力感を見せないスマートささがある。しかしそれ以上に、まだまだ出し尽くされていない大きな可能性があると思う。

カーボンフレームによる高い可能性とeBIKEならではのポテンシャル

電動アシストというパワーユニットを組み込んだことによって、フレームとのシナジーを生んでいくのではないだろうか。今後、チューブ内にユニットを取り込むといったデザインをさらに突き詰めて考えるとするならば、カーボンの一体成型の可能な基本造形は、これ以上に都合のいい素材はないはずだ。

金属系フレームは、自動車でいえばスペースフレームのまま。それが、カーボンなど樹脂系素材の採用が一般化されるにつれて、部分的にモノコック的な考え方に進める可能性もあるのではないだろうか。

BOSCH製ハイエンド・ドライブユニット、パフォーマンスラインCXを搭載。

また、ドライブユニットのパフォーマンスライン CXは、2019年にドイツの厳格なデザインアワードである レッドドットアワード(Red Dot Award)を受賞している。この賞を取るのは非常に難しく、単なる美しさだけではなく製品としての総合的な評価となる。日頃デザインの解説をしている身からすると、レッドドットを取ってしまうなんてかなりの驚きだ。

今回走ったのは街中と多摩川沿いのサイクリングコースを日常的に、そして若干のダート。乗ってまず驚くのが、乗り心地の良さだ。ハイスペックのオフロード仕様でもあるので、普段乗りはどうなのかな? と思っていたのだが、細かい段差を超えるときにフロントでちょっとコツンと感じるものの、それだけのことでリヤにはまったくと言っていいほど衝撃は感じない。大きなストロークに対しては、実に安定した動きを見せてくれる。振動の吸収には、ソフトなオフロード用タイヤも貢献しているように思う。

またカーボンフレームはアルミフレームに比較して、硬すぎないことが快適性にも寄与しているということらしい。

そしてこのパワフルさ。「電動アシスト」という響きを聞いていると本当にアシスト程度なのかなと思ってしまうが、その感覚を率直にいうなら自分がサイボーグになった感じと言ってもいいかもしれない。もしくはこれって電動バイクなんじゃないか、という感覚。

アシストモードは、Eco、Tour、eMTB、Turboの4種類。この電動モーターの最大可能駆動トルクはなんと85Nmと、数値だけ見ればノンターボの軽自動車より大きい。が、もちろん実際の力の強さは時間あたりの回転力なので発生回転数が数千回転/分と、桁違いになるので到底、660ccのエンジン並みというわけにはいかない。

ハンドル左側にはKioxnのコントロールスイッチ。そしてレバーは、サドルの高さを
調整できるロックリリース用。ハードな山岳走行などで便利。

とはいえ、85Nmというトルクを出すためには、現在の日本の自転車のレギュレーションでは人力の倍まで出せるということで、42.5Nmの人力が必要になる。この辺りまで出せる人がいるのか? と思うところだがスポーツ経験者の男性が立ち漕ぎ気味の発進時には出すことができるレベルだという。ただ一般的には20-30Nmとのこと。つまり、トレーニングをしなければこのモデルのポテンシャルは使いきれないということだ。

加速感は圧倒的で、Turboに設定しておけばトップギヤのままでもほとんど問題なくクルージングすることができる。ただし加速を楽しんだり、もっと積極的に走ろうとすれば、低いギヤから車のようにシフトアップして行くのがおすすめ。あっという間に速度は24km/hを超えてしまう。

これは何を意味するのかといえば、電動アシストが機能するのは24km/hまで。それ以上は自力のみでということになるのだが、アシストがオフとなるのが非常に自然なのと、25km/hを超えても舗装路のクルージングであれば意外に快適に走ることができる。

実際には移動用として一般道路を走ることも多かったのだが、アシスト領域内で走ることの快適性は普通の自転車とは格違い。気がつけば、かなりの距離を疲れのないままに走れてしまう。もちろん乗り心地もいい。となれば、車をチョイ乗りする分の移動ならこちらに代えてもいいのでは? とも思えてしまう。

ハンドル右側には12段変速用のレバー。それぞれプッシュ式でアップとダウンの
2つが設置される。

今回の試乗ではヒルクライムや悪路などは走る機会はなく、一部川沿いのグラベル(砂利道/非舗装路)は走行することができた。まさに水を得た魚のようで砂利や小さなうねりをいなしながらのソフトな走行フィールが印象的。発進では、後輪を沈めズルッとトラクションをわずかに失いながら加速する様はちょっと痛快だ。

電動アシストらしくない、といえるほどスマートなボディ。
バッテリーは下のフレーム、TREKの文字の部分に格納される。

新しい時代のギアとして、ママチャリとは概念のことなるモデルとしてさらに注目されるのがeBIKE。実はこの後、TREKだけでなく、いくつかのモデルで山道での走行などを行なってみたので、追って報告したいと思う。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…