「KC-46A」の導入で強化される航空自衛隊の空中給油部隊。しかし“欠陥機”との声も……【自衛隊新戦力図鑑】

航空自衛隊のKC-46A。現在までに2機が納入されており、美保基地(鳥取県)の第405飛行隊に配備されている。写真/菊池雅之
広大な日本の南西海域での戦いを見据えて、航空自衛隊は最新鋭の空中給油・輸送機「KC-46A」の導入を進めている。現在までに6機を発注し2機が納入され、13機の追加導入の方針[※]も示されている。一方で同機には、さまざまな問題点も指摘されている。KC-46Aとは、どのような航空機なのか?
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

「空飛ぶガソリンスタンド」の役割

空中給油機とは、文字通り他の航空機に空中で給油を行なう航空機で、「空飛ぶガソリンスタンド」ともいわれる。これにより戦闘機の活動範囲は広がり、また基地に戻ることなく作戦空域に長時間とどまることも可能となる。東西1000kmにおよぶ南西海域では、移動だけでも少なくない燃料を消費するため、空中給油機が欠かせない。

また、有事には長距離ミサイル等により南西諸島の飛行場が攻撃されるおそれがあり、戦闘機部隊は空中に避難したり、本州などの飛行場まで退くことになるかもしれない。そうなれば、ますます空中給油機無しでは戦うことができないだろう。

こちらは以前より航空自衛隊が使用しているKC-767。同機の発展型であるKC-46Aを導入することは、理に適った判断と言える。同型機だけあってKC-46と外見上の違いはわかりにくいが、KC-46のほうが、わずかに大きい。写真/航空自衛隊

給油操作を誤り、戦闘機を傷つけてしまう!?

航空自衛隊は双発旅客機ボーイング767-200ERをベースとした「KC-767」を2007年から運用しているが、「KC-46A」はKC-767の米空軍向け発展型というべき機体で、機体サイズはほぼ同じながら燃料搭載量が1.3倍に増え、赤外線妨害装置等により生存性も向上した。日本とアメリカ、イスラエルが導入し、イタリアでも採用が決定している。

いっぽうで、いくつかの欠陥の存在が、アメリカ軍内で指摘されている。もっとも大きな問題が給油操作のための映像システムの不具合だ。「フライング・ブーム」方式と呼ばれる給油方式は、給油機から突き出したブームを、給油機のオペレーターが操作して、受け手側の給油口に挿し込むというものだが、KC-46Aはオペレーターがブームの動きを見るための映像システムに不良があり、日光などの影響で不意に画面が真っ黒や真っ白になってしまうのだ。また、夜間用の長波赤外線映像にも問題があるという。これによりブーム操作を誤り、受け手側の機体を損傷する可能性があり、特にステルス機にとってはステルス性を損なう致命的な問題にもなりかねない。

フライング・ブーム方式でF-16に給油するアメリカ空軍のKC-46A。この方式では、後方を飛行する戦闘機の背面(上面)にある給油口に向けて、KC-46Aのオペレーターがブームを操作して挿入する。オペレーターはカメラを介してブームの状況を確認するのだが、この映像システムに問題があるのだという。U.S. Air Force Photo by Tech. Sgt. John Raven

もちろん、アメリカ軍やボーイング社は改修を急いでおり、応急措置としてソフトウェア変更で対応しつつ、新規設計の映像システム開発を進めているが遅延している状況だ。航空自衛隊は、この問題について運用面の工夫で対応可能としているが、やはり楽観はできないのではないだろうか。

KC-46Aの図解。同機はフライング・ブーム方式のほか、給油ホースを用いるプローブ&ドローグ方式にも対応し、機体後方下部にそれぞれの給油管を備えている。また、翼下に給油ポッドを搭載し、そこからも給油できる。イラスト/ボーイング

KC-46A導入は間違いだったのか?

KC-46Aのライバル機としては、エアバス社製の「A330 MRTT」があり、評価が高い。英豪仏やスペイン、シンガポール、韓国など各国が採用を決定しているA330 MRTTは、日本でもKC-46A導入の段階で比較検討されとも言われており、長引く同機の不具合を受けて「日本もA330 MRTTにするべきだったのでは?」との声も聞かれる。

オーストラリア空軍のエアバスA330 MRTT(同国では「KC-30」の形式番号で呼ばれる)。KC-46Aのライバルであり、現在各国で採用が進んでいる。U.S. Air Force Photo by Christian Turner

だが、A330 MRTTを航空自衛隊が運用するには問題がある。A330 MRTTはKC-767やKC-46Aと比べて一回り大きく重量があるため、航空自衛隊基地を含めて国内の空港で対応できる滑走路が少なく、運用に制限が出てしまうのだ。また、日本の航空会社で運航されておらず、国内に運用の基盤が乏しい点も問題だろう。KC-767の運用実績がある航空自衛隊にとって、KC-46Aは妥当な選択であったと言える。欠陥問題の早期の解決を願うばかりである。

※2022年の安全保障関連三文書において、今後10年における「KC-46A“等”」の13機調達の方針が示された。“等”とあり、KC-46A以外も含む可能性がある。

キーワードで検索する

著者プロフィール

綾部 剛之 近影

綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…