目次
「空飛ぶガソリンスタンド」の役割
空中給油機とは、文字通り他の航空機に空中で給油を行なう航空機で、「空飛ぶガソリンスタンド」ともいわれる。これにより戦闘機の活動範囲は広がり、また基地に戻ることなく作戦空域に長時間とどまることも可能となる。東西1000kmにおよぶ南西海域では、移動だけでも少なくない燃料を消費するため、空中給油機が欠かせない。
また、有事には長距離ミサイル等により南西諸島の飛行場が攻撃されるおそれがあり、戦闘機部隊は空中に避難したり、本州などの飛行場まで退くことになるかもしれない。そうなれば、ますます空中給油機無しでは戦うことができないだろう。
給油操作を誤り、戦闘機を傷つけてしまう!?
航空自衛隊は双発旅客機ボーイング767-200ERをベースとした「KC-767」を2007年から運用しているが、「KC-46A」はKC-767の米空軍向け発展型というべき機体で、機体サイズはほぼ同じながら燃料搭載量が1.3倍に増え、赤外線妨害装置等により生存性も向上した。日本とアメリカ、イスラエルが導入し、イタリアでも採用が決定している。
いっぽうで、いくつかの欠陥の存在が、アメリカ軍内で指摘されている。もっとも大きな問題が給油操作のための映像システムの不具合だ。「フライング・ブーム」方式と呼ばれる給油方式は、給油機から突き出したブームを、給油機のオペレーターが操作して、受け手側の給油口に挿し込むというものだが、KC-46Aはオペレーターがブームの動きを見るための映像システムに不良があり、日光などの影響で不意に画面が真っ黒や真っ白になってしまうのだ。また、夜間用の長波赤外線映像にも問題があるという。これによりブーム操作を誤り、受け手側の機体を損傷する可能性があり、特にステルス機にとってはステルス性を損なう致命的な問題にもなりかねない。
もちろん、アメリカ軍やボーイング社は改修を急いでおり、応急措置としてソフトウェア変更で対応しつつ、新規設計の映像システム開発を進めているが遅延している状況だ。航空自衛隊は、この問題について運用面の工夫で対応可能としているが、やはり楽観はできないのではないだろうか。
KC-46A導入は間違いだったのか?
KC-46Aのライバル機としては、エアバス社製の「A330 MRTT」があり、評価が高い。英豪仏やスペイン、シンガポール、韓国など各国が採用を決定しているA330 MRTTは、日本でもKC-46A導入の段階で比較検討されとも言われており、長引く同機の不具合を受けて「日本もA330 MRTTにするべきだったのでは?」との声も聞かれる。
だが、A330 MRTTを航空自衛隊が運用するには問題がある。A330 MRTTはKC-767やKC-46Aと比べて一回り大きく重量があるため、航空自衛隊基地を含めて国内の空港で対応できる滑走路が少なく、運用に制限が出てしまうのだ。また、日本の航空会社で運航されておらず、国内に運用の基盤が乏しい点も問題だろう。KC-767の運用実績がある航空自衛隊にとって、KC-46Aは妥当な選択であったと言える。欠陥問題の早期の解決を願うばかりである。
※2022年の安全保障関連三文書において、今後10年における「KC-46A“等”」の13機調達の方針が示された。“等”とあり、KC-46A以外も含む可能性がある。