目次
ノンハイブリッドのAWDモデルの存在価値
パワートレーンはガソリンエンジンとハイブリッド(e:HEV)の2種類だ。ガソリン仕様(1.5L直4自然吸気、最高出力87kW、最大トルク142Nm)はCVTとの組み合わせで、駆動方式はAWDのみの設定。MMC前のガソリン仕様にはFFの設定もあったが、WR-Vの導入にともないラインアップを整理した格好。
ヴェゼルと同様に1.5L直4エンジンとCVTを組み合わせるWR-V(209万8000円〜248万9000円)にはFFの設定しかなく、降雪地帯で多いAWDのニーズに応えることはできない。そのニーズの受け皿としての役割が与えられたのが、ヴェゼルのガソリン仕様(264万8800円)というわけだ。
ベースグレード(G)とはいえMMC前と異なりステアリングはウレタンではなく本革巻きだし、WR-Vには設定のない電動パーキングブレーキ(EPB)が付いており、室内もエクステリアもひとクラス上のクオリティを感じる。サイズは同程度だ(WR-Vの全長は4325mmに対し、ヴェゼルは4340mm)。
ところで、WR-VもそうだがMMC版ヴェゼルも停止時のアイドリングストップ機構は付いていない。ヴェゼルについていえば、MMCを機に廃されたことになる。アイドリングストップを廃止した理由についてホンダ側は、「燃費の取り分と商品性を総合的に判断した結果」と回答している。
アイドリングストップは信号待ちなどでエンジンを停止することで燃費向上や騒音低減に寄与する技術だ。いっぽうで、再始動時にショックをともない、これを不快に感じるユーザーがいるのも事実。アイドリングストップなしに対してシステムコストは高くなるし、アイドリングストップ対応の12Vバッテリーが必要になるので、交換時はアイドリングストップなしの仕様に比べてユーザーの負担が大きくなる。
それらを含めて総合的に判断したということだ。筆者の好みでいえば、スターターモーターではなくISG(スターター兼用のオルタネーター)でベルトを介しエンジン再始動を行なうシステムを搭載している場合は、おおむね再始動のレスポンスが良く、ショックも少なくスムースなので、この場合はあり。スターターモーター式の場合はレスポンスとショックの面で難がある場合が多いので(よくできているクルマもある)、なくても可という印象だ。
ヴェゼルのガソリン仕様、エンジンが低回転から豊かなトルクを発生するのに加えてCVTのタイトなしつけもあり、日常使いで動力性能面に不足を感じることはなさそうだ。余力があるようにも感じないが、決定的に足りなくもない。後述するが、ガソリン仕様にはハイブリッド仕様に行なった静粛性向上策は講じられていない。
それで騒々しいかというとそんなことはなく、それよりもワンランク上質になったインテリアに包まれて移動するうれしさのほうが大きい気がする。
e:HEVの格段に進化していた
MMC前と同様、ヴェゼルの主力はハイブリッド仕様だ。そのためか、ホンダ独自のハイブリッドシステムであるe:HEV(イー・エイチイーブイ)には大がかりな手が入っている。制御面が中心で、狙いは静粛性の向上だ。
MMC前はエンジン始動と停止の頻度が高く、音圧変化によってドライバーを始めとする乗員に耳障りな印象を与えることがあった(ユーザーから指摘があったそう)。バッテリーに蓄えたエネルギーでモーターを駆動して走るEV走行時はとても静かなので、エンジンが始動するとエンジン音自体はたとえ静かでも、音圧の変化が大きく耳障りに感じてしまう。
そこでMMCモデルでは、バッテリーの使用容量をMMC前に対して約8%拡大。EVモードで走行できる範囲を拡大することで、エンジン始動と停止の頻度を大幅に減らした。また、MMC前は、ある程度高い車速で下り坂を走行している状況ではEVモードとなり、平坦になるとエンジン(直結)モードに切り替わって、登り勾配になると必要なパワーを得るためハイブリッドモードに切り替わり、エンジン回転が上昇した。
この制御のパターンだと、エンジンをかけていてもうるさく感じない領域(下り坂)なのにエンジンを止めてEV走行を行ない、登り坂では回転数の上昇によりロードノイズや風切り音を上回るほどにエンジンノイズが発生することがあった。MMCにあたってそこを修正。バッテリーの使用容量見直しも生かし、勾配の変化によるエンジンの回転数変動を抑える制御を取り入れた。
ポイントは音圧変化である。エンジン始動/停止の頻度を減らし、音が気にならない状況でエンジンをかけ、ロードノイズや風切り音以上にノイズを発生させないようにした。
加えて、防音対策を徹底した。ボンネットフード裏のインシュレーターは吸音材容量を28%アップ。車室とエンジンルームを仕切るバルクヘッド前面側のダッシュアウターインシュレーターは目付量を40%増やした。車室側のダッシュインシュレーターはフイルム層を追加したハイブリッドインシュレーターに変更し、ルーフライニングのインシュレーター層は2倍にした。これらの策によって、静粛性向上を図ったのである。エンジン始動の有無にかかわらず、EVモードで走っている際も効果があるアップデートだ。
e:HEVの制御と防音材の追加などによる静粛性向上策により、MMC版ヴェゼルのe:HEVは感激するほどに静かなクルマになっている。エンジンがかかった際の音が耳に届かないわけではないが、実際の距離以上に遠くでエンジン音が響いている感じだ。
MMCにあたっては「改良の余地がある」と判断したFFだけ足まわりの仕様を変更し(ダンパースピードが遅い小入力時はしっかり足が動くようなダンパーの減衰力特性にした)、足まわりの仕様変更に合わせ、EPS(電動パワーステアリング)のパラメーターを調整した。大入力があった際はこれまで同様、しっかり減衰を出す設定である。
AWDの足まわりは変わっていないのだが、よりしなやかな動きになっているように感じた。それを技術者に伝えると、「音が抑えられると振動が抑えられたのと同じで上質に感じる傾向があり、足まわりは変わっていなくても上質に感じる。開発陣も同じ印象を持っています」との回答が返ってきた。
MMC版のヴェゼルはエクステリアやインテリアの見た目や使い勝手だけでなく、動きの面でもクオリティが上がっている。魅力が大いに増したのは間違いない。