シビックRS登場!「誰でも楽しく操れる進化型MTスポーツ」に初試乗

2024年秋にマイナーチェンジを受けるホンダ・シビック。このマイナーチェンジの目玉的存在といえるのが、「RS」の追加だ。専用のエクステリア、脚周り、減速操作に遭わせてエンジン回転数を自動的に合わせてくれるレブマッチの採用など、スポーツ派ドライバーには気になる存在だ。さっそく初試乗した。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)

マイナーチェンジするシビックの”目玉”がRS

ホンダ・シビックRS ボディ色はクリスタルブラック・パール
RSは、サッシュ/ドアモールディングをハイクロス(現行はクロムめっき)とし、精悍さを演出する。

ホンダは2024年秋にシビックのマイナーチェンジを予定している。目玉はRSの新設定だ。マイナーチェンジ前の、いわゆるシビック21年モデルには、1.5L直列4気筒ターボエンジンを搭載するガソリン車が設定されており、LXとEXの各グレードそれぞれに6速MTとCVTの設定があった。

マイナーチェンジ版の25年モデルにもLXとEXグレードは設定されるが、トランスミッションはCVTのみの設定となる。その(価格面を含めて)上位に、6速MTを搭載するRSが新設される。

初代シビックRS。1.2L直4OHCエンジンの出力は76psだった。

RSのバッジを付けたシビックは、初代に存在した。1974年の発売である。当時のシビックRSの位置づけについて、現在シビックシリーズの開発責任者を務める明本禧洙氏は、「悠々と気持ち良くハイウェイを走りたいという想いを込めてRSを誕生させました」と説明する。RSはロードセーリングの略とするのが定説だ。

MMC後のボディサイズは未発表だが、現行型(写真は新型RS)は全長×全幅×全高:4550mm×1800mm×1415mm ホイールベース:2735mm

最新のRSにロードセーリングの表現は似合わない。なぜなら、高速道路を悠々と走ることなど、現代のクルマにとって当たり前だからだ。

「50年経って時代が変わりました。(高速道路を)セーリングするのは、昔はあこがれでしたけど、今では当たり前。言い換えるいいタイミングかなと思っています。今回、RSのバッジは引き継ぎつつ、現代版として定義づけし直すタイミングだと思っています」

RSが何を表すのかについてホンダ側から明確な回答はないが、もはやロードセーリングでないことは確か。「より気持ち良く走りたいという想いは不変なので、その想いに応えるホンダの回答が、最新技術をまとったシビックRSです」と説明する。

RSはレーシングスポーツの意と決めつけたくなるが、サーキット直系のシビックならタイプRがある。RSは気軽に「クルマを操る喜び」を体験できるモデルであり、「誰でも楽しく操れる進化型MTスポーツ」の位置づけだ。

現行型よりシャープになったフロントフェイス。ヘッドライトリングも現行のシルバーめっきからブラックに変更されている。

軽量フライホイールとレブマッチシステム

エンジンはL15C型1.5L4気筒DOHC直噴ターボ。RSは慣性モーメントを30%、重量を23%下げたシングルマス軽量フライホイールを採用。レブマッチシステムと組み合わせる。

デザインはRS専用だ。前後に赤いRSバッジが付いているだけでなく、ヘッドライト、ドアミラー、ドアサッシュ、アンテナ、エキパイフィニッシャー、ホイールがブラック加飾の専用品となる。インテリアでは、空調のアウトレットに赤いピンストライプが入り、スエードのシート地にも赤いステッチが入る。ボディカラーはシビックシリーズ共通の全5色で、シーベッドブルー・パールが新色だ。

シートはスエードでブラックに赤のステッチが入る。
タイプRと違ってRSの後席は3人乗れる(乗車定員5名)

RSは見た目が他のガソリンエンジン搭載モデルやハイブリッドのe:HEVと違うだけではない。走る楽しさを最大化する技術が投入されている。

最大の変化点は軽量フライホイールとレブマッチシステムを適用したことだ。21年モデルのMT車は変速する際のエンジン回転の落ちが鈍いため、シフトアップ時は回転が落ちてくるのを待つ必要があり、運転のリズムが乱される傾向があった。この点については、「回転の遅さが気になる」と、市場からも声があったという。

エンジン回転の降下レスポンス向上については、重量を23%、慣性モーメントを30%低減した軽量フライホイールの採用とエンジンの制御で実現。エンジン回転を上昇させる際のレスポンス向上は軽量フライホイールの効果だ。

MTを操る気持ち良さのために、エンジン回転低下レスポンスを50%アップ、エンジン回転上昇レスポンスを30%アップした。

レブマッチシステムはシフトダウンの際、ドライバーに代わってクルマ側がエンジンの回転合わせ(ブリッピング)を行なってくれる機能である。有り体に言えば、軽量フライホイールとレブマッチシステムはシビック・タイプRの技術を移植したもの。つまり、ドライバーの変速操作に応じて意のままにエンジンをコントロールする気持ち良さは、タイプRと同等ということになる。

この点、クローズドのコースで試したが、まるっきりその通りだった。エンジンの回転落ちが速いので、変速がスパスパと決まって気持ちいい。レブマッチシステムは人間が、少なくとも筆者が自分で回転合わせを行なうより正確だし、スムースである。自分でやりたければ自分でやればいいし(エンジンの反応がいいので、それはそれで気持ちいい)、レブマッチシステムに任せてブレーキとステアリング操作に集中してもいい。

気分に合わせて使い分けられる。レブマッチシステムがオンの場合でも、制御が介入する前にドライバーの足が早く動いてアクセルペダルを踏むと、人間の操作が優先されるようになっている。「お、今回はうまくいったぞ」と思っても、実際は制御だったということも大いにあり得るわけだが、制御が実によくできているので、どっちにせよ違和感はない。

シフトノブは21年モデルの球形から、やや細身の紡錘形に変わっている。アルミ削り出しのタイプRの形状に近いが、グリップ部は革巻きだ(夏は熱くないし、冬も冷たくないはず)。クランクしたレバー機構はタイプRから移植しており、ニュートラル位置は10mm程度ドライバー側にオフセットしている。

日本専用に仕上げた脚周り

フロントサスペンションはマクファーソンストラット式。ダンパーは微低速での応答性を上げている。フロントコンプライアンスブッシュは液封からソリッドラバー化した。
リヤはマルチリンク式。
サスペンション/スタビライザーの剛性アップでロール剛性は11%アップ。ダンパー径アップとバルブ適正化も行なった。

ステアリングとサスペンションもRS専用セッティングだ。ステアリングはラックバーにつながる部分にあるトーションバーの径を従来比で60%太くし、ねじり剛性を向上させた。転舵した際の応答性を向上させるためだ。これも有り体にいうと、タイプRで適用した技術を移植した形になる。

ドライブモードには既存のNORMAL、ECOにSPORT、INDIVIDUALが追加された。SPORTを選択すると、アクセル開度に対する加速レスポンスがとくに低〜中開度でアップする。また、電動パワーステアリング(EPS)の特性も変わり、反力が強くなる(重くなる、とも言える)。ダイレクト感が増す方向だ。

サスペンションはダンパー径をアップ。コンプライアンスブッシュは液封からソリッドラバーとし、車高は5mm下げた。グローバルに展開しているシビックは北米にスポーツモデルのSi(これまたシビックにとってなじみの深い名称である)が設定されているが、そのSiのサスペンションを移植した格好だ(実はシフトノブもSiからの移植)。

ただしサスペンションは日本の路面に合わせて専用のチューニングを施している。荒れた路面への追従性を高める方向で、ダンパー内のバルブは専用。荒れた路面での追従性を高めようと減衰を抜く方向でセッティングすると接地感が薄れる背反が生じるが、微低速域では反力を出す方向でチューニングしたという。結果、荒れた路面を上手にいなしながら、きちんと接地感を伝える脚に仕上げている。

現行シビックEX(1.5L直4ターボ+6MT)モデルも相変わらず気持ちのいいが、新型RSの乗るとその爽快さに驚かされる。

21年モデルの脚の仕上がりも秀逸だったが、乗り心地が良く、フラットライド感があり、路面のインフォメーションが着実に伝わるので安心して踏んでいける気持ち良さは受け継ぎつつ、ポテンシャルが上がっているのを感じる。ばねレートはフロントで40%、リヤで60%上げているというが、硬さやヒョコヒョコ感は感じず、路面状況や運転シーンを問わず、ただただ気持ちいい。

フロントブレーキのサイズを15インチから16インチにアップしたことで熱容量は6%アップ、ブレーキパッドの面積・熱容量は17%も工場している。ブレーキ踏力設定の最適化も行なった。

フロントブレーキもRS専用で、21年モデルの15インチから16インチに大径化。熱容量が大きくなったのはスポーツ走行時の安心材料につながる。合わせてペダル反力を見直し、剛性感、フィーリングを向上させた。

タイプRほどガチではなく、もっとカジュアルに、だけどスポーティにMTの走りを楽しみたい人にRSは向いている。5人乗車ができて荷物も積める、使い勝手の良さも魅力。肩肘張らずに日常からスポーツ走行まで、MTの走りを楽しめるバランスの取れたクルマが、シビックに新設されたRSだ。さて、となるとRSは何の略とするのが妥当だろう。シーンを選ばずに気持ち良く走れるという意味で、やはりロードセーリングだろうか……。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…