「ゼロインチアップ」がジムニーのカスタムで新たなブームの兆しあり!

5ドアのノマドもデビューし、ますます人気が沸騰しているスズキ・ジムニー。カスタムの世界も大いに盛り上がっているが、そこに新潮流が現れた。ノーマルサスと同じ長さのスプリングとダンパーをインストールする「ゼロインチアップ」が、ブームの兆しを見せているのだ。

TEXT:山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka) 写真提供:APIO

ノーマル車高をキープしながら、乗り味をグレードアップ!

スズキ・ジムニーのカスタムの定番メニューと言えば、「サスペンションリフトアップ」「ショートバンパー化」、そして「タイヤ大径化」だ。これらのカスタムは悪路走破性を向上させる手段だったが、よりヘビーデューティなエクステリアにできることから、街乗り派の間でもスタンダードなものとなった。

しかしリフトアップを行なうと、時として日常性を犠牲にすることもある。もちろんすべてのサスペンションキットがそうとは言えないが、大抵の場合はオフロードでの脚の伸び、つまりトラベル量を増やすために、ノーマルより自由長の長いコイルスプリングを付ける。

コイルはバネレートの設定や線径、巻き数などによって動きが変わってくるが、オフロード指向のものだとバネレートが柔らかめというのが一般的で、スタビライザーを付けないと舗装路でユラッとしてしまったりする。これはノーマルサスペンションにもある傾向だ。

オフロードを低速で走った場合にしなやかに動く脚と、オンロードを高速で走った場合にしっかり踏ん張る脚は、なかなかバランスが難しい。ノーマルサスはオン/オフ性能のバランスを考えてセッティングを決めるため、どうしても日常での乗り心地の面でユーザーに不満を感じさせてしまう。それでも、現行型のJB64型(軽自動車版)、74型(シエラ)は歴代モデルの中でもいい着地点を見つけている。

リフトアップは見た目の迫力は確実に出るが、重心が高めなJB64型、74型では、クロスカントリー4WDに不慣れな人には運転が難しくなることもある。そこでジムニー業界は、数年前から「チョイ上げ」というメニューを用意している。リフトアップを1インチ前後に抑えておけば、オンロードでの操縦性、運動性にそれほど影響が出ない。加えて、タイヤサイズの選択肢もノーマルサスよりは広がる。もちろんサイズは限られるが。

このチョイ上げは、派手なリフトアップを敬遠するユーザーを中心に広がった。加えて、カスタムの予算が少ないという人にも好評だ。というのも、2インチ以上のリフトアップをした場合、ホーシングの位置が変わってしまったり、前後アームの長さが足りないという事象が発生し、補正アームやらブッシュやらバンプストッパーやらが必要になる。

さらに昨今のクルマは自動ブレーキなどの安全装備が付いているが、リフトアップをすると正常に働かなくなることがある。そのため「エーミング」という調整作業が必要となるのだが、これにもコストがかかるわけだ。

チューニングはあの「オリジナルボックス」國政代表が担当!

こうした背景があって、チョイ上げが広がったわけだが、ここにきて新たなジムニーカスタムがトレンドになりそうなのである。それが「ゼロインチアップ」だ。スポーティカーのチューニングで「純正形状」という手法が一時トレンドになったが、これに似ている。

要はノーマルサスと同じ長さのスプリングとダンパーをインストールするのだが、当然ながらバネレートや減衰力は異なっており、ハンドリングや乗り心地を容易にグレードアップできるというチューニングメニューだ。

その先鞭をつけたのは、老舗ジムニーカスタムショップの「APIO」。同社がこの度リリースした『ゼロライズ』は、その名の通り“上げない”サスペンションキット。ノーマル車高をキープしながら、乗り味が変えられるというものだ。

ゼロライズを装着したAPIOのジムニー(JB64型)
ゼロライズを装着したAPIOのジムニー(JB64型)
ゼロライズを装着したAPIOのジムニー(JB74型)
ゼロライズを装着したAPIOのジムニー(JB74型)

このサスペンションの開発を担当したのは、レースシーンなどでも名を馳せている「オリジナルボックス」代表の國政久郎氏だ。

「ノーマルサスペンションがダメということではないんです。ただ、あらゆるレベルのドライバーがあらゆる状況を走ることを想定しているから、一定以上のレベルのドライバーが走らせると“フラフラ”するということになります」

國政氏によれば、ノーマルサスペンションは一般的に「低バネレート、高減衰力」のセッティングになっているという。それを「中バネレート、中減衰力」にすることで、バランスの良さを実現しているという。

開発に参加したレーシングドライバーの青木琢磨氏によれば、ダンパーを付けずにゼロライズのコイルスプリングだけで走行したら、驚くほど乗り心地やハンドリングが向上していたという。國政氏の思想としては、「いいスプリングがあれば、ダンパーは所詮添え物」ということらしい。とは言えキットは、ゼロライズのコイルスプリングの性能をより発揮させるために、専用セッティングのダンパーがセットになっている。

APIO ゼロライズ(JB64型用)
APIOゼロライズ(JB74型用)

今回、同キットを装着したJB64型、74型に試乗する機会を得たが、その効果が瞬時に体感できた。まず、スポーツサスペンションを装着すると、得てして乗り心地が悪くなるのだが、それがない。路面のハーシュネスをいなす“余白”が作られている。それでいて、カーブではスプリングから上がユラッとすることがなく、タイヤをしっかりと路面に押しつけて、狙った通りの走行ラインをトレースしていくのである。ハンドルを切った時の応答性も、ノーマル状態とはまるで違う。

ちなみにノーマルと同じ最低地上高となるため、悪路走破性が格段に向上するわけではないが、オフロードでもノーマルと同じ性能を保持できているという。

加えて、大幅なタイヤ&ホイールのサイズアップもできない。それゆえ、ドレスアップ効果という面では限定的な範囲に留まる。しかし写真をご覧いただくとわかると思うが、ノーマルと大差ないサイズでもラギッドなトレッドパターンのタイヤを履かせれば、十分にヘビーデューティな雰囲気になるはずだ。また、ショートバンパーとのマッチングも悪くない。

このような「ゼロインチアップ」がこれから流行するのでは…という予測の根拠は、「ジムニーノマド」の登場にある。すでに一部のカスタムショップは、ノマド用のリフトアップサスペンションをリリースしている。装着後の外観を見ると、それはそれで迫力が出ていい。ただ、ノマドというモデルはノーマル車高で外観バランスが完成させているというのが私見で、せいぜい1インチアップがいいのではないかと思うのだ。

ノマドはJB64型、74型よりもロングホイールベースになっているが、開発陣は何よりも横転防止に注力したという。つまりそれは、あまりリフトアップをするとその危険が高くなる可能性があるのだ。

加えて、ノマドのユーザーはファミリー層が中心になると思われる。そういったユーザーが乗降性が変わってしまうリフトアップをするというのは、あまり現実的がない。つまりノマドでは、乗り心地やハンドリングのみを向上させるノーマル車高サスを付けるカスタムがスタンダードになる気がするのだ。

『ゼロライズ』は近日中の発売を予定している。なお、ノマド用ゼロライズの開発はこれからということだが、こちらの出来上がりにも大いに期待できそうだ。

APIO https://www.apio.jp

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…