大砲やランチャーが盛り盛りの“昭和の最強艦”「はたかぜ」が39年の役目を終え退役

VLS(垂直発射装置)もなければ、ステルス性も一切考慮されていない昭和の護衛艦「はたかぜ」。それゆえに洗練された現代艦にはない無骨さが魅力的だ(写真/アメリカ海軍)
3月17日、海上自衛隊の練習艦「はたかぜ」が退役した。昭和61年(1986年)に就役した、いまや数少ない昭和の護衛艦であり、近年の最新鋭艦とは武装が大きく異なる。「はたかぜ」とは、どんな武装を持ち、どんな能力を持った船だったのだろうか?【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

「イージス」の一世代前の防空ミサイル艦

「はたかぜ」は「はたかぜ」型ミサイル護衛艦の1番艦だ。「ミサイル護衛艦(DDG)」とは中-長射程の艦対空ミサイルを装備し、敵の対艦ミサイル攻撃から味方艦隊を守る役割がある。当時の仮想的であるソ連軍は艦艇や爆撃機に長射程の対艦ミサイルを多数装備しており、この脅威に対抗する手段が必要とされたのだ。現代のDDGは「イージス・システム」という防空戦闘システムを搭載し、俗に「イージス艦」と呼ばれているが、「はたかぜ」型が搭載するのは一世代前の「ターター・システム」である。現在のイージス・システム同様に、ターター・システムも高価で、就役当時としては“期待の新鋭艦”として大いに注目されたようだ。

ターター・システムで特徴的なのが甲板上でグルングルンと回るアーム式のMk.13ミサイルランチャーだ。主兵装である艦対空ミサイル「スタンダードSM-1」の発射機だ。射撃時にはランチャーが目標方向に指向してミサイルを発射する。ランチャーの下にミサイルが格納されており、艦内からニョキ!とミサイルが上昇して再装填されるという、男ごころをくすぐる仕掛けとなっている。YouTubeで「Mk13 launcher」と検索すると、旋回や再装填の動画が見つかるので、ぜひ見て欲しい。

アーム式の艦対空ミサイル発射装置Mk.13の射撃の瞬間。ミサイルを保持するアームが目標方向に旋回する。Mk.13はターター・システム搭載艦で用いられた(写真はスペイン海軍のフリゲート)

ターター・システムの能力と限界

ターター・システムは、艦対空ミサイルの目標への誘導を艦橋上部に設置しているAN/SPG-51射撃指揮レーダーが行なう。ミサイルは、このレーダーが照射したレーダー波が目標から返ってくる反射波をキャッチして目標に向かう。レーダーは2基なので、「はたかぜ」1艦で2目標に向けてミサイルを誘導できる。

艦橋上部、ふたつのパラボラアンテナがAN/SPG-51射撃指揮レーダー。目標に向けてミサイル誘導のためのレーダー波を照射する。その上の黒い四角形はAN/SPS-52C三次元レーダーで、ターター・システムを構成する一部。グルグルと回転しながら目標捜索を行なう(写真/アメリカ海軍)

優れた誘導システムではあるのだが、前述したソ連軍の対艦ミサイル攻撃は「とにかく沢山の対艦ミサイルを発射して、相手の防空能力を圧倒する」という戦い方であったため、対処できるミサイルの数の少なさは致命的な問題だった。そこで開発されたのが、複数目標への同時対処能力を備えたイージス・システムというわけだ。

鋭角で力強い面構えの「はたかぜ」

さて、「はたかぜ」型はMk.13ランチャーを艦首側に置いている。これは当時、海上自衛隊が保有していたDDG(「あまつかぜ」および「たちかぜ」型)が艦尾側にMk.13ランチャーを装備していたため、これらの艦と組み合わせて艦隊の前後両方向をカバーするためだ。

側面より。「はたかぜ」型以前のDDGがMk.13を艦尾側に置いていたため、「はたかぜ」型は艦首側に配置した。5インチ速射砲は艦首と艦尾の計2門を装備しているが、以降に建造された護衛艦は1門のみとなったため、この点にも昭和感が漂う(写真/アメリカ海軍)

Mk.13ランチャーを艦首に置いたため、その運用のための作業スペース確保しつつ、凌波性を高めるため、護衛艦には珍しく艦首側甲板を覆うブルワーク(囲い板)が設けられており、鋭角で力強いシルエットを生み出している。また、Mk.13ランチャーに続いて、5インチ速射砲とアスロック対潜ロケット発射機が並び、装備の“盛り盛り”感がハンパないことも「はたかぜ」型の特徴だ。これらの設計から、斜め前から見たときにもっとも“イケメン”な護衛艦だと、筆者は感じているのだが、どうだろうか?

ブルワークを設置したことで、剣先のような鋭角のシルエットとなった艦首。さらにMk.13ランチャー、5インチ速射砲、そして箱型のアスロック対潜ロケット発射機が並ぶ重武装ぶり。現代艦は艦対空ミサイルや対潜ロケットが汎用性の高いVLSに収納されたため、シルエットがだいぶスッキリしてしまった(写真/アメリカ海軍)

「はたかぜ」は2020年に護衛艦から練習艦に艦種を変更し、近年は人員の育成に活躍していたが、このたび除籍となった。最新の護衛艦と比べると野暮ったさもあるが、それゆえに野武士のような力強さを感じさせる昭和の護衛艦。「はたかぜ」の引退に、時代の変化を感じざるを得ない。なお、同型艦「しまかぜ」は引き続き練習艦としての現役だが、こちらも近年の除籍の方針が示されている。

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著者プロフィール

綾部 剛之 近影

綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…