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「イージス」の一世代前の防空ミサイル艦
「はたかぜ」は「はたかぜ」型ミサイル護衛艦の1番艦だ。「ミサイル護衛艦(DDG)」とは中-長射程の艦対空ミサイルを装備し、敵の対艦ミサイル攻撃から味方艦隊を守る役割がある。当時の仮想的であるソ連軍は艦艇や爆撃機に長射程の対艦ミサイルを多数装備しており、この脅威に対抗する手段が必要とされたのだ。現代のDDGは「イージス・システム」という防空戦闘システムを搭載し、俗に「イージス艦」と呼ばれているが、「はたかぜ」型が搭載するのは一世代前の「ターター・システム」である。現在のイージス・システム同様に、ターター・システムも高価で、就役当時としては“期待の新鋭艦”として大いに注目されたようだ。
ターター・システムで特徴的なのが甲板上でグルングルンと回るアーム式のMk.13ミサイルランチャーだ。主兵装である艦対空ミサイル「スタンダードSM-1」の発射機だ。射撃時にはランチャーが目標方向に指向してミサイルを発射する。ランチャーの下にミサイルが格納されており、艦内からニョキ!とミサイルが上昇して再装填されるという、男ごころをくすぐる仕掛けとなっている。YouTubeで「Mk13 launcher」と検索すると、旋回や再装填の動画が見つかるので、ぜひ見て欲しい。

ターター・システムの能力と限界
ターター・システムは、艦対空ミサイルの目標への誘導を艦橋上部に設置しているAN/SPG-51射撃指揮レーダーが行なう。ミサイルは、このレーダーが照射したレーダー波が目標から返ってくる反射波をキャッチして目標に向かう。レーダーは2基なので、「はたかぜ」1艦で2目標に向けてミサイルを誘導できる。

優れた誘導システムではあるのだが、前述したソ連軍の対艦ミサイル攻撃は「とにかく沢山の対艦ミサイルを発射して、相手の防空能力を圧倒する」という戦い方であったため、対処できるミサイルの数の少なさは致命的な問題だった。そこで開発されたのが、複数目標への同時対処能力を備えたイージス・システムというわけだ。
鋭角で力強い面構えの「はたかぜ」
さて、「はたかぜ」型はMk.13ランチャーを艦首側に置いている。これは当時、海上自衛隊が保有していたDDG(「あまつかぜ」および「たちかぜ」型)が艦尾側にMk.13ランチャーを装備していたため、これらの艦と組み合わせて艦隊の前後両方向をカバーするためだ。

Mk.13ランチャーを艦首に置いたため、その運用のための作業スペース確保しつつ、凌波性を高めるため、護衛艦には珍しく艦首側甲板を覆うブルワーク(囲い板)が設けられており、鋭角で力強いシルエットを生み出している。また、Mk.13ランチャーに続いて、5インチ速射砲とアスロック対潜ロケット発射機が並び、装備の“盛り盛り”感がハンパないことも「はたかぜ」型の特徴だ。これらの設計から、斜め前から見たときにもっとも“イケメン”な護衛艦だと、筆者は感じているのだが、どうだろうか?

「はたかぜ」は2020年に護衛艦から練習艦に艦種を変更し、近年は人員の育成に活躍していたが、このたび除籍となった。最新の護衛艦と比べると野暮ったさもあるが、それゆえに野武士のような力強さを感じさせる昭和の護衛艦。「はたかぜ」の引退に、時代の変化を感じざるを得ない。なお、同型艦「しまかぜ」は引き続き練習艦としての現役だが、こちらも近年の除籍の方針が示されている。