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素材がいいから味付けの違いがよくわかる
GR86は18インチタイヤを装着した最上級グレードのRZ、SUBARU BRZは17インチタイヤを標準装着する下位グレードのRに乗った。GR86は6速MT、BRZは6速ATの組み合わせである。箱根の芦ノ湖に近いホテルを拠点に、芦ノ湖を右回りで周回するような格好で箱根駅伝の往路のゴール(復路のスタート)地点を通りすぎ、勾配を駆け上がって芦ノ湖スカイラインに入り、湖を見下ろしながら湖尻に出て、そこから森の中を走ってホテルに戻るルートを選んだ。
最初に乗ったのはGR86、18インチ、MTである。広大なホテルの敷地内のアスファルトは結構な荒れ具合で、乗り心地を評価するのに適していた。そんな道を微低速で通過すると、脚の硬さが尻を通じて伝わってくる。「硬い」が第一印象。「でも、嫌な硬さじゃない」との感想が続く。脚は路面の凹凸に追従してよく動いており、入力はボディがしっかり受け止めている様子が伝わってくる。
公道に出て曲率の小さなカーブに進入しようとステアリングを切り込んだ瞬間「ほぅ」と心の中で声を挙げた。鼻先が軽く感じられ、すっと向きを変えてくれる。よく曲がる感覚だが、内側に入りすぎるというわけでもない。絶妙なところでまとまっており、30km/h〜40km/hで通過するカーブですら、曲がる行為が楽しい。ペースを上げてもその印象は変わらない。電動パワーステアリング(EPS)のアシストが強くて、軽い操舵力で曲がるから「軽い」と感じるのではなく、鼻先の質量そのものが軽く感じられる。路面からのインフォメーションはしっかり手に伝わってくるので、操っている実感は濃厚だ。
このあたり、BRZとは味つけが違う。GR86を基準にすれば、BRZの動きはもっと穏やかだ。簡潔にキャラクターを表現すると、動きが俊敏でキビキビ走ろうとするのがGR86、動きが穏やかで扱いやすさを重視したのがBRZということになるだろう。18インチではなく17インチを履き、MTではなくATの仕様は、ラインアップのなかで最もコンフォートな仕様といえるだろうか。
だからといって、退屈ではなかった。キビキビ走って元気いっぱいなGR86から乗り換えたにもかかわらずだ。要するに好みの問題で、活発なキャラクターを好むか、穏やかな性格を好むかということだ。優柔不断なようだが、どっちもいい。筆者は基本的にはMT派なのだが、2代目86/BRZに関しては、ATを否定する材料が見あたらない。変速制御に手を入れた効果が刺激を呼び込んでいる。スポーツモードを選択すると、減速度や加速度からスポーツ走行をしていると判断。減速時はブリッピングしながらシフトダウンし、コーナー立ち上がりではすぐにシフトアップせず、高回転側まで引っ張る。MTだったらきっとそうしているだろうという制御をクルマ側が自動で行なってくれる。だから、痛快だ。
GR86 RZ(6MT)
SUBARU BRZ R(6AT)
数値より「感」を重視した開発
GR86の開発に携わった技術者から話を伺う機会があったので、以下、いくつかのエピソードを紹介しておきたい。GR86に限らないが、あるクルマがモデルチェンジを行なう際、それがスポーツモデルであれば必ず性能向上がターゲットになる。当然、2代目86も初代より性能は向上している。代表例は水平対向エンジンで、排気量は2.0Lから2.4Lになり、最高出力/最大トルクは152kW(207ps)/212Nm(MT)から173kW(235ps)、250Nmになった。「高性能化するなかで、86らしさを残すのに苦労しました」と、その開発者は言った。
「我々開発陣も86らしさについて自問自答しました。それを確かめるため、AE86を含めて一気乗りをやったりもしました。いいクルマを作るのは当然として、86を作らなければいけない。じゃあ、それって何だと。結論としては、速さではなくて楽しさだと。絶対的なスペックには表れない楽しさ、気持ち良さを徹底的に追求することが大事だという思いで、チームの意志が固まっていきました」
鉄をアルミに置き換えれば軽くなるのは自明の理。軽量化は性能向上に導く正攻法だが、それが楽しさ、気持ち良さにつながるとは限らない。BRZがアルミ製のナックル(車輪を支持する部品)を採用したのに対し、GR86が開発の終盤で鉄に戻したのは、“感”を重要視したからだ。
「剛性“感”が違います。鉄の(ナックルの)ほうが、路面のザラザラをなぞっているのがわかるくらい、ステアリングに伝わる響きが違う。据え切りしただけでも違いがわかるくらいです。鉄とアルミによるフィーリングの差がどこからくるのか、人間が感じる感応の部分と数値については、まだ完全には解明できてはいません。(操舵系の)締結点の剛性も関係しているのかもしれません」
フロントのスタビライザーを中実ではなく中空にしたのも、“感”を重視してのことだ。
「はじめは軽量化のために中空にしていたのですが(BRZは中空)、中空だとどうしても断面の形状の関係で、切り込んでいったときの特性に変曲点が出てしまう。そこで、重くなるけど中実に戻そうということになりました」
アルミから鉄のナックルに戻すことで左右合わせて3kg、スタビライザーを中実に戻すことで0.5kgの重量増になる。スポーツカーにとって軽量化は命のはずだが、86らしさを表現するために、“感”に優れる材料を選択した。BRZとの違いを出そうとしたのではなく、86らしさを追求した結果だ。
「初代のときはばね(コイルスプリング)とショックアブソーバー(ダンパー)の設定が86とBRZで違いました。ところが、マイナーチェンジを重ねるごとにお互いが近い関係になっていった経緯があります。2代目は差をつけたいという考えもありましたが、それ以上に、キャラクターを振ることができる素材ができたのが大きい。ボディ剛性が上がったのが利いています。ひとつ1つの部品を換えたときに、その影響がすごくよくわかるクルマになっている。先代で同じことをやっても、どこかで遮断されてしまい、違いがわかりづらかった。2代目は基本性能が磨かれたこともあって、感度が高くなっています」
トヨタGR86 RZ
SUBARU BRZ R
素材がいいから感度が高く、小さな諸元の変更がきちんとクルマの動きの違いになって返ってくる。その素性の良さを生かし、GR86は俊敏に動く方向に、BRZは穏やかな走りに振ったということだ。楽しさの種類が違うだけで、走らせて気持ちいいことに変わりはない。どちらか1台を選ぶのは、なかなか悩ましい選択である。
トヨタGR 86 RZ(6MT) ボディサイズ 全長×全幅×全高=4265mm×1775mm×1310mm ホイールベース:2575mm 車重:1290kg 駆動方式:FR エンジン:2.4リッター水平対向4気筒DOHC エンジン型式:FA24型 排気量:2387cc ボア×ストローク:94.0mm×86.0mm 圧縮比:12.5 最高出力:235ps(173kW)/7000rpm 最大トルク:250Nm/3700rpm 燃料供給:D-4S(DI+PFI) 使用燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク容量:50ℓ WLTCモード燃費:11.9km/ℓ 市街地モード8.0km/ℓ 郊外モード12.8km/ℓ 高速道路モード14.2km/ℓ トランスミッション:6速MT 車両価格 334万9000円
スバルBRZ R(6AT) ボディサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm ホイールベース:2575mm 車重:1280kg 駆動方式:FR エンジン:2.4リッター水平対向4気筒DOHC エンジン型式:FA24型 排気量:2387cc ボア×ストローク:94.0mm×86.0mm 圧縮比:12.5 最高出力:235ps(173kW)/7000rpm 最大トルク:250Nm/3700rpm トランスミッション:6速AT WLTCモード燃費:11.8km/ℓ 市街地モード7.3km/ℓ 郊外モード12.8km/ℓ 高速道路モード15.0km/ℓ トランスミッション:6速AT 車両価格 334万9000円