清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第6回 

脱・温暖化その手法 第6回 —地震と火山噴火以外の天変地異は温暖化で説明できる-

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

熱中症による死亡者数が増加

日本は災害列島などと呼ばれることがあるが、地球全体で見ると恵まれた国である。それを表す指標として最もわかりやすいのは、平均寿命であり、日本は世界一、スイスと韓国がそれに続く。

それでも温暖化の影響で、年々寿命が縮む影響が出ている。

まず温暖化により顕著に表れているのが熱中症である。熱中症には気温と湿度の双方が影響するが、日本のように元々夏の湿度が高いところではより発症の頻度が高くなる。その結果、2000年から2005年(平成12-17年)の平均で年間に亡くなっている人が約300人だったものが2010年(平成22年)からの10年で約1,000人に増えている。

熱中症対策推進会議による報告では、熱中症による死亡者数が
増加していることがわかる。

台風の接近数が増加

次に人間の生命を奪う原因は台風である。台風はフィリピン沖で発生することが多い。台風が発達するのは海水温が28℃以上の条件とされており、温暖化による海水温の高い領域が日本に近づくことによって発達する時間が長くなり、かつ、日本近海まで発達を続けることによって、日本に近づく台風はより強力になる。

気象研究所の山口宗彦氏と高層気象台の前田修平氏の、日本に近接する過去40年の台風の変化の分析によると、東京に近づく数はこの40年で年間平均1.4個から2.4個に増えている。さらに台風の進む速度も遅くなっており、これも台風の被害を大きくする要因になる。

気象研究所(一般財団法人・気象業務視線センター)の令和
2年8月のプレスリリースによれば、東京に接近する台風は過
去40年で前半20年に対して後半20年は1.5倍となっている。

台風同様、集中豪雨の被害も大きくなる。温暖化により、水分蒸発量が増えることで、一度に降る雨の量が増えることになる。

温暖化は気象の変化を激しくして大雪の降る可能性も高まる

ところで、温暖化によって雪の量が減るのだろうか。

日本海側に降る大量の雪は、シベリアの冷たい空気が日本海を渡って来る間に日本海で水分を吸収して湿気を持つことによるものだ。これに伴い、風の温度は暖かくなるのだが、日本列島の山々に衝突して上昇気流となって再び温度が下がり水分が凝結して雪になるというプロセスを踏む。

温暖化すると日本海での水分蒸発量は増えるので、日本に降る水分の量は多くなる。そして、それが雨になるか雪になるかについては、平野部と山沿いの気温の低い場所とでは異なる状況となる。山沿いではドカ雪が今よりも多くなるという場合もあるのだ。今年の冬(2022年)に日本海側での冬の雪の多さは記憶に新しいが、この現象は温暖化の影響で説明出来るのだ。

おそらくみなさんも実感していることだろうが、温暖化の影響で命を落とす事態がこの10年で増えてきた。毎年夏の暑さが厳しくなり、熱中症が増え続けている。また、台風の被害や集中豪雨の被害を自ら受けるのではないか、という不安は大きくなっている。雪国では温暖化したら豪雪が少なくなるのではないかと期待されていたが、実際には逆のことが起きている。それに伴い、雪に関係した事故で命を落とす人が出ている。

そしてこれらの影響は、これから増々増えてくるだろう。

この10年で起きた影響より、次の10年で起こる変化は大きいだろうということは容易に想像できる。「このところ気象の変化が大きくなり、身の危険を感じることが増えたな」と感じることは、温暖化のアラートなのだと気がつくべきなのである。

1996年に開発した、シリーズハイブリッドの高所作業車。
150kWの電動モーターで駆動し、1トンの鉛電池を用いて
20kWの発電用ガソリンエンジンを搭載していた。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…