清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第7回 

脱・温暖化その手法 第7回 —温暖化の対策のために せっせとする努力には限界があるー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

日本では一人当たり年間10トンのCO2を排出

日本のCO2発生量は年間約13億トンで、人口1億3,000万人であるから、1人当たりの発生量は10トンである。体重を50kgとすると、体重の200倍のCO2を出している。

これに対して人々がやれる削減策は数多い。

電気はこまめに消しましょう。冷房温度は上げましょう。暖房温度は下げましょう。夏は涼しい服にしましょう。冬も厚着しましょう。車を使わず、鉄道や自転車を使いましょう。3つのRすなわちReduce(削減)、Reuse(再使用)、Recycle(リサイクル)しましょう。燃費の良い車に乗りましょう。屋根には太陽電池を付けましょう。

1991年には私が思いついた100の温暖化対策を書籍にまとめている。

1991年に書いた、温暖化対策に関する100の項目。
「地球を救う エコ・ビジネス100のチャンス」
にっかん書房 1991年4月発売 
商品コード9784526029233

温暖化対策の数々は政府からも提唱され、ほとんどの国民に理解され、多くの人々が実践している。

特に定着したのはクールビズで、夏の服装は大いに変わった。人間は楽な変化はすぐ取り入れると言われているが、クールビズはその典型で、これで服装が楽になったため、取り入れられ、定着した。

環境省によるクールビズのポスター
服装の変化は室温28度など冷房を抑える努力を推進した。

温暖化という問題は2000年には人々に認識され、2010年過ぎにはその影響を実感するようになって、人々の間に「何をかしなくちゃ」という意識が大きくなってきている。その結果、CO2削減が実際に進んだかについては、2013年には14億1,000万トンであったものが2019年には12億1,000万トンにまで下がっている。その削減量は14%となる。この減少は好ましいものである。

その削減理由として、環境省の報告では、省エネなどによるエネルギー消費の減少、太陽光発電に代表される再生エネルギーの拡大等を挙げている。これはとりもなおさず政府の施策、企業の努力、人々の活動の結果がこの数字に表れている。

住宅など個人単位でのカーボンニュートラルから、その先へ

そして今、カーボンニュートラルが言われ始めた。2050年までに排出するCO2量を実質ゼロにするという目標である。そのために、まず2030年までの削減として26%の削減目標が環境省から出されている。

これを実現するためには、住宅が消費する化石燃料による電力をゼロにするZEH(ゼッチと読む)、太陽光発電のようなさらなる再生エネルギーを増やすことが必要となる。このZEHとは、住宅業界では現在は一般的課題となっているnet Zero Energy Houseの略で、家自体が断熱と省エネルギー、エネルギー創出を行うことによって消費エネルギーを実質ゼロにするという取り組みだ。 これによって暖房、冷房、換気、照明、給湯の電力を圧縮し、再生エネルギーで賄うというものだ。

住宅によるZEHの考え方。建物の構造や素材の革新によって、消費エネルギーを削減。それを再生可能エネルギーによって賄うというもの。(資料:神奈川県HP)

さらに電気自動車、PHEV、水素自動車の普及、工場での省エネルギー化と化石燃料起源の削減に加えて、地方自治体による実質的削減努力も含まれている。

人々はこれまでも削減に努力をして来た。その努力を2030年をひとつの目標に進めなければならない。そして2050年にはそれをさらに強化しなければならない。

人々には気の抜けない努力が求められることになるのだが、個人の努力の積み重ねで解決ができるかと考えるとそれはできない。

何故なら、どれだけ節約しても電力消費をゼロにすることはできないし、ほとんどの人は車をやめることはできないためである。

さて、では我々はどうしたらいいのだろうか。しかし、私はここで悲観的な未来を強要する気持ちは一切ない。むしろ、未来はこれまでよりも明るいものになるのだと思っている。そのための取り組みを、これ以降説明して行きたいと思う。

1997年に科学技術庁からの研究予算で開発した「ルシオール」。このルシオールと
は、フランス語の「蛍」の意味。前後2人乗り、後輪にはギヤリダクション式のイン
ホイールモーターを搭載。バッテリービルトイン式フレームの概念を初めて実行。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…