「永すぎた春」を超えて初試乗 日産のシンボルに相応しいBEVだ

日産アリア「新幹線フィール」は感動的 静かさも驚きのレベル

日産アリア B6 2WD 車両本体価格:539万円
発表からすでに2年近くが経過して、ようやく公道試乗がかなった日産アリア。発表時の衝撃はだいぶ薄まってしまったけれど、実際にドライブしたら、やはり「感動的な」ポイントも数々あった。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

感動ポイント①インテリアは質感も新機軸も◎

B6の発売は5月12日の予定。ボディ色はダークメタルグレー 今回試乗したB6 FWDは、もっともスタンダードなモデルだ。

新型クロスオーバーEVの「日産アリア」がオンラインで発表されたのは2020年7月15日のことだから、2年近くが経過している。同年12月23日にはノートが発売。翌2021年8月17日にはノート・オーラ、同年10月7日にはノートAUTECH CROSSOVERが発売され、街なかを走り回るようになった。市街地なり高速道路なりを走っているとノート・シリーズに遭遇する率は高く、すでに見慣れた存在になっている。

全長×全幅×全高:4595mm×1850mm×1665mm ホイールベース:2775mm
トレッド:F1585mm/R1590mm 最小回転半径:5.4m
車両重量:1960kg 前軸軸重1050kg 後軸軸重910kg

そういう状況でデリバリー間近に迫ったアリアを見ると、既視感たっぷりだ。言い換えると、新鮮味が薄い。新しい日産のデザインはアリアが先導役で、ノート・シリーズはアリアに寄せた格好のはずだが、ノート・シリーズで見慣れてしまっているせいで、クリーンなエクステリアのデザインも、フードのない大画面のメーターを見ても、見慣れた風景として脳を素通りしてしまう。

しかし、感動がないわけではなくて、木目調パネルに配されたエアコン操作スイッチが代表例だ。個人的には、「ようやく出てきたか」と感慨を覚えた。エアコン関連の絵文字類は、光がパーフォレーション(微細な穴)を透過して表示される仕組み。パワーOFFの状態では木目調そのままで、ONにすると表示が浮かび上がる。静電容量スイッチになっており、触れるとフィードバックが返ってくる仕組みだ。

電動で前後に150mmスライドするセンターコンソールにはドライブモードやePedal(アクセル操作のみで減速側のコントロールが可能になる)のスイッチが配されているが、こちらは感圧スイッチになっており、きちんと力をかけないと切り替わらないようになっている。誤動作を防ぐためだ。

加飾部品の表面にスイッチと表示機能を融合した技術は2018年5月の「人とくるまのテクノロジー展」でカルソニックカンセイ(現マレリ)が出展しており、当時、取材した。「何年かしたらこれを採用したクルマが出てくるのかなぁ」と漠然とそう思った記憶があるが、それがアリアだったというわけだ。未来が現実になった感覚を覚え、「ほぉ」と感嘆の声を挙げてしまった。(物理スイッチに比べて)使い勝手は必ずしも良くないが、新鮮ではある。

シート地はナッパレザー。運転席は電動パワーシート
木目調パネルに配されたエアコン操作スイッチ

新鮮といえば、前席足元の広々とした空間も新鮮だ。一般的にはソコにあるHVAC(空調ユニット)をエンジンルームならぬモータールームに押し込むことで、広々とした足元空間を実現している。ドアを開けた瞬間に抜けの良さが目に飛び込んできて新鮮だ。ステアリングホイールが2本スポークなのも、視覚的な抜けの良さに貢献しているだろうか。

ステアリングホイールは電動でチルト(上下)およびテレスコピック(前後)の角度・位置調整が可能だ。シートは助手席も含めて電動で位置や角度の調整が可能である。もう少しだけ低く座りたいと感じながらの運転だったが、聞けば物理的には可能だそうで、メーター視認性との絡みのようである。ステアリングをもう少し下、あるいは着座位置をもう少し下にしてしまうと、ステアリングのグリップ部に隠れて警告灯が見えなくなってしまうそう。メーター視認性を確保するためにシートの最も低い位置とステアリングのチルト下端が規制されている。大きなディスプレイも考え物だなと、愚痴をこぼしておく。慣れによって違和感は解消に向かうが、サイズの合わない靴を履いているような落ち着かない感じはつきまとった。

感動ポイント②高い静粛性をもたらす新開発モーター

形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm バッテリー容量:66kWh 総電圧:352V

動き出しから低〜中速域までは静寂そのもので、感動的だ。採用例の多い永久磁石型同期モーターではなく、永久磁石を使わない巻線界磁型同期モーターを採用したのは、巡航走行時の低いモーター音を歓迎したため。巻線界磁型は高回転時に逆起電力打ち消す電力消費を回避することができ、高速走行時の効率が高いのもメリットだ。空調ユニットをモータールームの中に収めることができたのは、新開発したこのモーターがコンパクトにできている恩恵でもある。

試乗車は、アリアの商品バリエーションのうち、ベーシックモデルの位置づけとなる「B6 2WD」だった。駆動用バッテリーの総電力量は66kWhで、WLTCモードの一充電走行距離は470km。フロントに搭載し前輪を駆動するモーターの最高出力は160kW、最大トルクは300Nmである。

車両重量が1920kgに達するとはいえ、モーターのスペックから考えれば俊敏な出足を期待してもよさそうだ。だが、アリアはあえて、穏やかに動き出す制御としている。「新幹線フィールと呼んでいます」と商品性を評価する技術者は説明してくれた。「スルスルスルと音もせずに出て行くのが走り出しの狙い。そうした特性に合わせて作り込んでいます」

アクセルペダルの踏み込みに対する反応は、穏やかなだけでなく、なめらかでもある。いっぽうで、パッチをあてたような補修跡が連続していたり、段差があったりして車体がドタバタとせわしなく揺れたり、強い入力があったりしたときは、穏やかでもなめらかでもいられなくなるのが気になった。荷物を運ぶのが主目的のクルマなら許容範囲だろうが、アリアは心地良さをウリにするクルマである。そこで馬脚を現してどうする、と突っ込みたくなる仕上がりに感じた。ただ、このまま放っておくはずはなく、5月に入って実際にデリバリーされる車両は別物になっている可能性はある。

婚約から結婚ならぬ、発表から発売までの“永すぎた春”を過ごしたせいで新鮮味はいくらか薄れてしまったが、アリアは新しい日産を象徴するモデルであることに変わりはなく、興味深い商品なのは確かだ。EVは総じて静かだけれども、予想を超える静かさがアリアの大きな魅力だろう。

ダンロップ製 SPORT MAXX 050「サイレントコア(特殊吸音スポンジ)」を採用
タイヤ:F&R 235/55R19
フロア下のバッテリーは容量66kWh
フロントサスペンションはストラット式 ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク/Rベンチレーテッドディスク
アリアのバリエーションは B9(91kWh)e-4ORCE=290kW(航続距離580km) B9(91kWh)FWD=178kW(航続距離640km) B6(66kWh)e-4ORCE=250kW(航続距離430km) B6(66kWh)FWD=160kW(航続距離470km)
日産アリア B6 2WD
 全長×全幅×全高:4595mm×1850mm×1665mm
 ホイールベース:2775mm
 車重:1960kg
 サスペンション:Fストラット式/Rマルチリンク式 
 駆動方式:FWD
 駆動モーター
 形式:AM67型交流同期モーター
 定格出力:45kW
 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm
 最大トルク:300Nm/0-4392rpm
 バッテリー容量:66kWh
 総電圧:352V
 交流電力量消費率WLTCモード:166Wh/km
  市街地モード 159kW/km
  郊外モード 170kW/km
  高速道路モード 176kW/km
 一充電走行距離(WLTCモード):470km
 車両本体価格:539万円
 試乗車はop付き
 オプション:BOSEプレミアムサウンドシステム13万2000円/プロパイロット リモートパーキング+ステアリングスイッチ+ヘッドアップディスプレイ+アドバンストアンビエントライティング+ダブルシャークフィンアンテナ+パノラミックガラスサンルーフ+プロパイロット2.0 57万3500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…