水素カローラで鍛えた技術を量産車へ

進化を続けるGRカローラの最新版が「GRカローラ25式後期」だ。開発の出発点は、2021年からスーパー耐久シリーズに参戦している、いわゆる「水素カローラ」である。水素エンジンを搭載したこの競技車両の開発を通じて鍛えた内容を量産車であるGRカローラに投入してきた。

最初のモデルは2022年に発表された22式である(デリバリーは2023年年初より開始)。先にGRヤリスに搭載されたG16E-GTS型1.6L直列3気筒ターボエンジン(304ps)に「GR-FOUR」と呼ぶ4WDシステムを組み合わせている。ボディはカローラスポーツ比で前後フェンダーを片側約30mm拡幅。トレッドはフロントを60mm、リヤを85mmワイド化した。スポーツカーに求められる高いパフォーマンスと5ドア、5人乗りの高い実用性を兼ね備えているのが特徴だ。
23式では主に以下の領域に手を入れて走りを進化させた。
・運転操作に対するダイレクト感向上のため、前後のサスペンション締結部に締結剛性向上ボルトを採用
・ドライバー操作との一体感向上のため、フロントバンパーダクト形状を改善し、ホイールハウス内の空気の流れを最適化。また、バッテリーアース特性を改善
25式前期で走りの土台を大きく進化

2025年の25式前期では多くの進化を遂げている。富士スピードウェイを基準コースに据え、社内のテストコースと合わせて走り込みを行なって検討を重ね、サーキットと一般道の両立を狙ってアイテムを開発したという。主な変更内容は以下のとおりだ。
・新開発8速ATのGR-DATを追加設定
・エンジンの最大トルクを370Nmから400Nmに向上
・旋回中の車両安定性を向上させるため、前後ショックアブソーバーにリバウンド(伸び)側で作動するスプリングを内蔵。旋回内輪の浮き上がり抑制が狙い

富士スピードウェイの100Rのような高速コーナーでは、強いGがかかった際に内輪が浮いて荷重が抜け、ドライバーが意図しないオーバーステア症状が出ることがあったそう。リバウンドスプリングの追加はこの挙動への対処である。
・加速時の沈み込み低減と旋回性能向上のため、リヤサスペンションのトレーリングアーム取り付け点位置を変更(30mmアップ)しアンチスコート率をアップ。さらに、ロワーアーム前側取り付け点を5mmアップ。リヤコイルスプリングとスタビライザーを見直し
・GR-DAT搭載車に水冷式ATFウォーマー&クーラー、空冷式ATFクーラーを標準装備し、サブラジエーターを設定
・ステアリングコラムや前後サスペンション部品の締結ボルトの一部に締結剛性の高いボルトを採用。応答性とステアリング操作に対するリヤのグリップ感を向上
・タイトコーナーでのアンダーステア抑制のため、4WDモードのひとつであるTRACKモードの制御内容を変更。前50:後50の固定配分から、前後左右Gなどの信号を元に状況に応じて60:40〜30:70に可変制御

TRACKモード可変制御で立ち上がりの姿勢を改善
4WDの制御はそれまで可変制御を試してきたが、ドライバーの意図に反して自動で切り替わる違和感が拭いきれなかったという。そこを細かくチューニングしていくことで、ドライバーにとって違和感なく、自然に、路面コンディションに合わせて前後配分を制御できるようになった。そこで25式前期での実装を決断したという。

従来は富士スピードウェイの最終コーナー立ち上がりでプッシュアンダーが出がちだったが、25式前期の制御変更により、ドライバーが気持ち良く加速態勢に移行できるようになったという。
・ABS制御の最適化。上下Gが発生するようなコーナーでもしっかり止まれるよう、上下Gセンサーを活用した荷重抜け判定を行ない、制御を改善した。
・車内外の静粛性向上のため、ECOモード使用時の排気バルブ閉機能を実装
ECOモードで静かになる3本出しマフラー
排気バルブ閉機能については、実際に確認した。GRカローラは「トヨタで一番排気音がにぎやか」(GR担当者)な仕立てとなっている。狙って野性味を与えた結果だ。しかし深夜早朝の住宅街や、インナーガレージでエンジンを始動した場合などは、野性味ある重低音サウンドが耳障りに感じることがある。
そんな音の問題への対策として、ECOモード選択時に3本出しマフラーの中央に設置されているバルブを閉じる機能を追加した。試しにドライブモードをECOに切り換えてみると、一瞬のバルブ作動音ののち、排気音が明らかに静かになった。

25式後期はニュル評価でボディ剛性を強化
2025年9月に発表した25式後期モデルの開発においては、富士スピードウェイだった基準コースにニュルブルクリンクを追加した。評価の基準をより厳しい側に引き上げたことになる。厳しい基準をクリアするため、三次元の厳しいGに耐えるボディ剛性の向上が必要になった。25式後期モデルに施した主な改良点は以下のとおりだ。
・国内サーキットよりも強烈な上下左右Gがかかる海外サーキットでの安定走行を狙い、RZ比+13.9m、合計32.7mの構造用接着材を塗布。フロントボディ、フロア、リヤホイールハウス付近を中心に補強し、質量増を最小限に抑えつつ高剛性化

「25式前期で主に足まわりの部分をアップデートした結果、限界性能は上がったし、街乗りも含めて総合的なバランスをレベルアップできました」と開発者のひとりは語る。「そこで、いよいよニュルで評価したいよね、という話になったのが、25式前期の開発終盤でした。ニュルで走らせてみたところ、国内のサーキットでは受けないような入力が入ったときの安心感、しっかり感が足りないと感じました」
ブレースの追加で対処できないか、足まわりのセットアップで解決できないかなど、さまざまな方法を検討したが、ボディ剛性を上げるのが効果的との結論に達したという。新旧を乗り比べると、「最初のひと転がりで違いがわかる」ほどの進化になった。別の開発者のひとりは次のように話す。
「今までのがダメというわけではありません。(25式後期は)とくに高周波のビリビリした振動を減衰する効果があるようで、ステアリングのインフォメーションがよりクリアになり、感覚がつかみやすくなっています。ニュルのように大きな縦Gがかかるところは下山のテストコースにもあり、そういうところでは違いが非常にわかりやすい。接地性変化、荷重変化に対して非常にうれしさがある進化です」
吸気冷却とサウンド体験も最新型の進化点
さらに吸気の冷却と走行音のサウンドにも、以下のような進化が見られる。
・エアクリーナー下方に配置した2次吸気口に、フロントグリルから直接外気を導くクールダクトを追加。吸気温度の上昇を抑え、高負荷連続走行でもエンジンのポテンシャルを発揮させる。
・JBLプレミアムサウンドシステム(メーカーオプション)にサブウーハーを追加し、8→9スピーカー化。合わせてアクティブノイズコントロール(ANC)のチューニングを最適化し、こもり音を低減。また、新たにアクティブサウンドコントロール(ASC)を追加し、加減速や駆動力変化に応じたスポーツサウンドを車内に再現。アクセルオフ時はバブリング音も再現し、街なかでも「レーシングカーのようなサウンド体験」を安全に楽しめる

実は22式開発の際もASCの開発を行なっていたという。だがサブウーハーがない状態だとサウンドの再現性にいまひとつ欠け、ギミック感が強く採用を見送った経緯がある。サブウーハーを追加した25式後期ではサウンドの再現性が高くなったこともあり、ASCの採用に至った。バブリング音(SPORTモード選択かつVSCスイッチ単推しで効果最大になる)、テールパイプから響いているのかと錯覚するくらいリアルだ。街乗りの速度域でも充分に効果が味わえるのがいい。
GRカローラ、25式後期ではハードに走行する領域だけでなく、普段使いでも体感できる進化が施さ、魅力が一段と増している。

