Porsche 911 GT3 S/C
徹底した軽量化

シュトゥットガルトにあるポルシェ本社から南へ約90km、ハイキングやサイクリングコースとして有名な山脈エリア、シュウェービッシェ・アルプで「911 GT3 S/C」の国際試乗会が行われた。ポルシェの試乗会といえば、SUVでもセダンでもサーキット走行がつきものだが、今回のコースは911のしかもGT3の名がつくモデルであるにも関わらずサーキットもなければ高速道路もなし。1日で約270kmをひたすらに市街地とワインディングを駆け抜けるというものだった。その心は、走り終えるころ身にしみてわかることになる。
試乗会当日の朝、プレゼンテーションを行った開発者、GTモデルライン(911)のプロジェクトマネジャーであるヨルグ・ユンガー氏は、開発の経緯をこう述べた。「2019年に991をベースとした『911スピードスター』を発表しました。GT3の技術とオープンカーの要素を融合させた初のモデルでしたが、限定生産車でありルーフの開閉機構も手動式のものでした。
2023年には、軽量化のためのあらゆる要素を盛り込み、私たちがこれまで造った中で最も軽量な992である『911 S/T』を発表しました。それから現行のラインナップには『911 GT3ツーリング』があります。そこで私たちは、これらの技術やアイデアを融合させ、新しい解釈を導き出そうと試みました。その結果生まれたのが、この『911 GT3 S/C』なのです」
現行911カブリオレシリーズ最軽量モデル!

車名を「GT3カブリオレ」としなかったのは、単なるGT3のオープンバージョンではないということだ。軽量化のためにS/Tのコンポーネントを使っていることから車名にも相関性をもたせるためS/Cと韻を踏んだのだという。
ドアやフロントフェンダー、フロントリッド、そしてアンチロールバーやサブフレーム(シアープレート)はカーボン製。ホイールはマグネシウム製でセンターロック式。ブレーキはPCCBとこれらはS/T譲りのものだ。ホイールで約9kg、PCCBで約20kgの、またバッテリーを小型のリチウムイオンにすることで約4kgの軽量化を実現。2シーターのみ、6速MT(PDK比で約17kg軽量)のみというシンプルな構成で車両重量は1497kgとスピードスター比でわずかに+30kg、現行の911カブリオレシリーズのなかでは最軽量となっている。
車内に乗り込もうとドアハンドルに目をやると、オーソドックスなプルハンドルになっている。クーペのGT3はカレラなどと同様に電動のポップアップ式だったと記憶しているが理由を尋ねてみると「ドアがカーボンだから」といたってシンプルな答えだった。したがってS/TとGT3 RSと、このS/Cはプルハンドルになる。個人的にはこちらのほうが好みだとユンガー氏に話すと「私もそう思う」と頷いていた。
明らかに軽いドアを開き、真っ赤なバケットシートに腰掛ける。一見するとフルバケットタイプだが背もたれが折りたたみ式になっている。オプションでリヤに収納ボックスも用意されており、日常での使い勝手にも配慮されている。
所有する喜びを満たすパーツの数々


エンジンの始動はカレラシリーズが使っているスタート/ストップボタンではなく、911の伝統であるステアリングの左側に配置されたロータリー式のノブによって行う。キーシリンダーをまわすようにひねるという作法がGT3クーペと同じくS/Cにも残されている。1段階ひねるとデジタルメーターに伝統の5連メーターが表示され、黄色の針とS/Cのロゴが浮かび上がる。そしてもう1段階進めば低いうなり声をあげるようにエンジンが始動する。
S/TやGT3譲りのマニュアル6速GTスポーツトランスミッションは、ショートストロークで節度感があり、コク、コクッと気持ちよくエンゲージする。クラッチの重さはいたって普通で、アクセルを入れることなく軽くミートするだけでスルスルと前に動き出す。ドライブモードは「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3種類だが、サスペンションの硬さはスポーツがデフォルトで、トラックと2種類になっている。それでも乗り心地は意外なほど良好だった。同じくS/TやGT3譲りのフロントダブルウィッシュボーンやバネ下の軽さが運動性能だけでなく、乗り心地のよさにもかなり効いているようだ。
市街地をぬけワインディング区間に入ると、スポーツモードへと切り替える。エキゾーストノートが高まり、オートブリップがオンになる。アクセルペダルに力を込めれば、4000rpmを超えたあたりから音がかわり、そして9000rpmまで一気に吹け上がる。自然吸気ならではの、そしてチタン製コンロッドや鍛造ピストンなどを惜しげもなく用いたレース直系エンジンならではの精緻な回転感に感動を覚え、体を包み込んだ音が風とともに後方へ流れていく抜けのよさに快感を覚える。抜群の安定感をもってコーナーをクリアし、ブレーキのフィールも素晴らしい。ピッチングなど皆無で、4つの車輪に均等に荷重がかかっているかのようにビッタビタに止まる。
清水和夫師匠の言葉をおかりするならば、まさに宇宙一のブレーキだ。カブリオレというとボディ剛性の低下を気にする声も聞かれるが、少なくともこの日はボディも内装も、一度たりともミシリと言わなかった。
吸い込まれるようにエンゲージされるMTが最高!



途中スコールにみまわれ、電動カブリオレルーフの恩恵に預かった。50km/h以下であれば走行中でも12秒で開閉が可能。大きな雨粒がルーフをうちつけても傘の下にいるような騒音に悩まされることはなく、車内は静かなものだ。聞けばルーフはベースのカブリオレと同じものというが、そもそもフレームなどにはマグネシウムを用いた軽量設計になっているという。ルーフを閉じた状態でしばらく走行していると、車内に籠もる音が気になってきた。S/Cはルーフを開け放ってこそ本当の価値があるのだと気づく。ニュルのタイムアタックをしないGT3があってもいい。S/Cの主戦場はサーキットでも高速道路でもないのだ。
気になるのは、この自然吸気4.0リッター水平対向エンジンをいつまで作り続けることができるのかということ。この11月からは新たな排ガス規制のユーロ7が施行されると聞く。先のユンガー氏にそれについて尋ねると少し表情が曇った。
「ユーロ7に関しては最終決定が先送りにされているため、確実なことはわかりません。今後、2、3年後にどうなるのかを正確に把握することは非常に難しい状況です。いずれ導入されることは間違いありませんし、我々も備えなければなりません。補足するならば、ユーロ7に適合する自然吸気エンジンをつくることは可能です。ただし、いまのエモーショナルな魅力を維持することは難しい。それでも自然吸気を維持することに意味があるのか、それともまったく別のコンセプトを考案すべきなのか、検討する必要があります」
ルーフを開けてこそ、S/Cの真価が目を覚ます

買えるものならば、欲しい。GT3クーペやRSにも試乗したことはあるけれど、楽しさという点においてもっとも感動的なモデルだった。
REPORT/藤野太一(Taichi FUJINO)
PHOTO/Porsche AG
MAGAZINE/GENROQ 2026年9月号
SPECIFICATIONS
ポルシェ911 GT3 S/C
ボディサイズ:全長4570 全幅1852 全高1279mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1497kg
エンジン:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)
最大トルク:450Nm(45.9kgm)
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/45R18 後255/45R18
最高速度:313km/h
0-100km/h加速:3.9秒
車両本体価格:3843万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

