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いま、どうして「直6」なのか?
直列6気筒エンジンは、なにより振動特性に優れている。完全バランスの直6はかつては高級車用のエンジンとして隆盛を極めていた。しかし、90年代以降、直6エンジンの長いエンジン長ゆえにFFレイアウトでは使いにくいし、厳しくなる衝突安全規制に対応するのも難しいということで、姿を消していった。
2010年代以降、その直6が復活してきている。その理由は、まず振動特性の素性の良さ、シリンダーブロックと吸排気、そして高価な排気後処理装置も1セットで済むコストメリット、衝突安全技術の進化にある。
それに加えて、エンジンのモジュラー開発の進化で3気筒/4気筒/6気筒を作り分ける手法のおかげもある。直4から直6は作れるが、V6を作るのは難しい。ダウンサイジングの時代に8気筒は多すぎる。となるとV6ではなく、直6の出番だ。ただし、直6をフロントに横置きするのは、難しい。したがって必然的に縦置き用のユニットとなるから、車格的には上級、サイズ的には中~大型車用ユニットとなる。大市場である北米では「V型」に対する愛着が依然として強いが、その北米でも、大排気量V8自然吸気のダウンサイザーとして、直6ターボエンジンが登場してきている。
さて、現在乗用車向けに直6ディーゼルを持っているのは、BMW、ダイムラー(メルセデス・ベンツ)、ジャガー・ランドローバー(JLR)、そしてマツダである。
BMW B57型3.0ℓ直列6気筒ディーゼルターボ
まずは、直6の老舗、BMWだ。最新のBMWエンジンシリーズは、「B型」でガソリンとディーゼルで開発思想を同じにしているモジュラーエンジンだ。
1.5ℓ直3ガソリン=B38型 1.5ℓ直3ディーゼル=B37型
2.0ℓ直4ガソリン=B48型 2.0ℓ直4ディーゼル=B47型
3.0ℓ直6ガソリン=B58型 3.0ℓ直6ディーゼル=B57型
ということで、単筒容積500ccで3/4/6気筒のガソリンとディーゼルを作り分けている。
直6ディーゼルのB57型は、3シリーズ、X3からはじまって7シリーズ、X7まで幅広く使われている。登場は2015年。最新仕様ではコモンレール式の燃料供給の最大噴射圧は270MPa(2700bar)のピエゾインジェクターを使う。また過給のシングルターボから3基のターボ(クワッドターボ)まで設定している(クワッドターボ仕様はどうやら終了したようだが)。
最大トルクは620Nm~700Nm(クワッドターボ仕様は760Nm)の仕様がある。
■BMW B57型 Specifications
形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ排気量:2992cc ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm 圧縮比:16.5 最高出力:340ps(250kW)/4400rpm 最大トルク:700Nm/1750-2250rpm
メルセデス・ベンツOM656型3.0ℓ直列6気筒ディーゼルターボ
メルセデス・ベンツの直6ディーゼルエンジンは、3.0ℓと表記したが、2925ccだから正確には2.9ℓと言ったほうがいいかもしれない。OM656型のデビューは2017年。ボア×ストロークは82.0mm×92.3mm。もちろん、4気筒版もある。
2.0ℓ直4ディーゼル=OM654型
3.0ℓ直6ディーゼル=OM656型
となっている。
アルミ合金製ブロックにスチール製のピストンを組み合わせる。シリンダーにはNANOSLIDEという溶射技術(コーティング)を使う。排ガス浄化のための低温燃焼を実現する手段として、ディーゼルとしては世界初の可変バルブリフト機構CAMTRONICを排気側に装備している。インジェクターの最大噴射圧は250MPa(2500bar)。Sクラス用のOM656型のターボは大小2基のターボで過給する2ステージターボ。最大トルクは700Nm、600Nm仕様もある。
■メルセデス・ベンツ OM656型 Specifications
形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ排気量:2925cc ボア×ストローク:82.0mm×92.3mm 圧縮比:15.5 最高出力:330ps(243kW)/3600-4200rpm 最大トルク:700Nm/1200-3200rpm
JLR AJ300D型3.0ℓ3.0ℓ直列6気筒ディーゼルターボ
ジャガーランドローバーの最新モジュラーエンジンシリーズは、インジニウム(Ingenium)だ。これもガソリン、ディーゼルの両仕様がある。
1.5ℓ直3ガソリン=AJ150型
2.0ℓ直4ガソリン=AJ200型 2.0ℓ直4ディーゼル=AJ200D型
3.0ℓ直6ガソリン=AJ300型 3.0ℓ直6ディーゼル=AJ300D型
である。搭載モデルはランドローバー系(ディフェンダー/レンジローバースポーツ/レンジローバーetc.)である。また基本的に48Vマイルドハイブリッドシステムと組み合わせて使われる。過給は2基のターボチャージャーによるシーケンシャルツインターボ。1サイクル最高5回噴射できるインジェクターの最大噴射圧は250MPa(2500bar)。最大トルクは570Nm/600Nm/650Nm/700Nmの仕様がある。
■JLR AJ300D型 Specifications
形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ排気量:2997cc ボア×ストローク:83.0mm×92.3mm 圧縮比:15.5 最高出力:350ps(257kW)/4000rpm 最大トルク:700Nm/1500-2500rpm
マツダ SKYACTIV-D3.3 3.3ℓ直列6気筒ディーゼルターボ
世界でもっとも新しい直6ディーゼルがマツダのSKYACTIV-D3.3だ。排気量は、欧州勢より300cc大きい3.3ℓ(3283cc)である。これは、ベースになっている直4のSKYACTIV-D2.2(2188cc)の直6版だからだ。過給はシングルターボ。最新ディーゼルらしく燃料の最大噴射圧は250MPa(2500bar)。
2.2ℓ直4ディーゼル=SKYACTIV-D2.2
3.3ℓ直6ディーゼル=SKYACTIV-D3.3
SKYACTIV-D3.3の特徴は、DCPCI燃焼だ。Distribution Controlled-PartiallyPremixed Compression Ignitionの略語で、「空間制御予混合燃焼」という意味だ。リーンな混合気を上死点で燃やすコンセプトだ。
マツダは最新技術を惜しみなくSKYACTIV-D3.3に投入している。最大トルクは550Nmで直6ディーゼルと比較すると明らかに控え目だ。これは、最大トルクを抑え、その分を燃費とエミッションという環境性能の向上代に使ったということだ。SKYACTIV-D3.3の狙いは「リーンな排気と燃費を高次元でバランスさせること」なのだ。理想の燃焼を実現したことで、排気後処理が楽になる。日本仕様は尿素SCRシステムなしで排気規制に対応。欧州仕様はSCR付きを準備するが、それでもSCRシステムひとつで対応する。最近の欧州勢が採る二連のSCRシステムは必要ないという。
■SKYACTIV-D 3.3 Specifications
形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ排気量:3283cc ボア×ストローク:86.0mm×94.2mm 圧縮比:15.2 最高出力:254ps(187kW)/3750rpm 最大トルク:550Nm/1500-2400rpm