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一充電走行距離180km、バッテリー20kWhのBEV
サクラとeKクロスEVは、基本的なハードウェアを共有する兄弟車だ。だが、デザインテイストは大きく異なる。サクラはミニ・アリアとも呼べる新しいエクステリア/インテリアを与えられた。一方のeKクロスEVはエンジン車のeKクロスの「EV版」でデザインもほぼ同じだ。
三菱は、ことさらBEVらしさを強調するのではなく、eKクロスで、「ガソリンを選ぶかBEVを選ぶか」というような選択肢として考えている。日産はサクラに、新時代の軽BEVとして、アリアと共通する特別なデザインが与えた。どちらが消費者の心に響くか。
販売目標は三菱が850台/月、つまり約1万台/年と発表している。日産は販売目標を明らかにしていないが、「デイズと同じような存在感にしたい」という。デイズの2021年の年間販売台数は5万3000台だから、そのあたりが目標になるのだろう。
つまり、サクラとeKクロスEVで年6万台の販売を目論むということだ。
165分の6の意味
2021年の軽自動車の販売台数は165.3万台。もし、このうち6万台がBEVになると仮定したとしたら、3.6%がBEVに置き換わるわけだ。
わずか3.6%だが、サクラとeKクロスEVが与えるインパクトは大きい。
まずは価格だ。
サクラ
X:239万9100円
G:294万0300円
eK クロスEV
G:239万8000円
P:293万2600円
が車両価格だが
国のCEV補助金が55万円
地方自治体の補助金(たとえば東京都のZEV補助金は45万円)
などの補助金を受ければ、軽のエンジン車の上級グレードと同程度の予算で購入できる。
サクラのXを東京で購入する場合、国の55万円、都の45万円で合計100万円の補助金が受けられる。すると、Xは約140万円で購入できることになる。この価格なら、「1台、購入してみようか」という人も出てきそうだ。
国のCEV補助金55万円はサクラ/eKクロスEVでは車両価格の22.9%
となる。つまりサクラ/eKクロスEVは「2割引」で買えるのだ。東京で買えば「4割引」になる。補助金によるお得感は450万円クラスのマツダMX-30 EVやHonda eの比ではない(MX-30 EV/Honda eでは12%)。
(ただし、現在は「補助金あり」が前提だ。補助金の源泉は税金である。いつもまでも多額の補助金がBEVに投入されるのが妥当かどうか、先行きは不明だ。ここも留意しておきたい)
地方だと軽自動車は一人に1台。都会でもセカンドカーとしての需要がある。メインに長距離走れるガソリン車・ハイブリッド車があれば、BEV1台を使うのは、さほどハードルが高くなさそうだ。
昨今の電力事情(災害や需給逼迫による停電)なども1台BEVが自宅あればいいかな、と思わせる。また、ガソリンスタンドの廃業が相次ぐ地方では、給油のために数10km走るより自宅で充電できた方がうれしい。
となると、今度は180km(WLTCモード一充電走行距離)をどう考えるか、だ。
マツダMX-30 EVやHonda eの一充電走行距離は256km(MX-30 EV)283km(Honda e)だ。この一充電走行距離に対しては「短すぎる!」という声が強かった。実走行では200km程度。これに対して価格が
MX-30 EV/Honda eともに451万円~と高価だ。
サクラとeKクロスEVの180kmは、実走行では150km程度かもしれない。安心してドライブできるのは120~130kmくらいかもしれない。
短い過ぎる、と考える人もいるかもしれない。しかし、そもそも現状では「BEVとはそういうもの」なのだ。BEVはタウンユースで短距離使用でこそ活きる。インターシティ(都市間)で往復300、400~500kmの走行が頻繁に想定されるユーザーは現状ではICE搭載車を選ぶのが合理的だ。だからサクラとeKクロスEVの180kmはアリだと考える、そんな人が増える予感がする。
充電はどうか?
サクラとeKクロスEVの充電は
普通充電:200V/14.5A 2.9kW)
8時間 バッテリー残量警告灯点灯~100%)
急速充電:30kW
約40分 バッテリー残量警告灯点灯~80%)
となっている。あくまでもメインは普通充電で急速充電はエマージェンシー用だ。
30kWの充電では理論上、30分間で充電できるのは15kW。それも、限りなく空っぽの状態から80%の場合である。現在の急速充電は従量制ではなく時間制だ。
たとえば日産のシンプルプラン 基本料金550円/月
急速充電 550円/10分だ。
10分で充電できるのは最高で5kWh
ということは、1kWh=110円ということになって、非常に割高になる。
高出力の充電に対応しているアリア(130kW対応)だと、10分で充電できるのは21.7kW(あくまでも理論上。130kW以上の充電器を使った場合)。1kWh=25.3円だ。
つまり、サクラとeKクロスEVは急速充電ではなく普通充電でドライブするのが理想的なBEVということになる。
重要なのは、サクラとeKクロスEVが計画通り売れれば、新たに6万軒の家庭に200Vの充電設備が入るということだ。毎年6万+αずつ家庭の充電設備が増えれば、BEVの普及を推し進める力になるかもしれない。また、エマージェンシーとはいえ急速充電ができる車両がどっと増えれば、急速充電の適正なルールが確立、広まっていくかもしれない。
そもそも、高出力の急速充電器をどういうペースで、どこにどの程度設置していくべきか、についても議論が進むのではないだろうか。
さらにもっと重要なのは、サクラとeKクロスEVを買う層は、これまでBEVを購入していた「アーリーアダプター」ではなく、「アーリーマジョリティ」になる可能性が高いということだ。新しいモノ好きではなく、普通の人たちが、「給油の面倒がない」「ガソリン代より電気代のほうが安い」「普段使いなら、航続距離も問題ない」ということでサクラとeKクロスEVがヒットしたら、これまでと違った流れが生まれるかもしれない。
軽の電気自動車、サクラとeKクロスEVの登場が日本の自動車市場に与える衝撃は、想像以上に大きくなる可能性がある。軽自動車(シティカー)こそ、BEVにふさわしい。そうなるかもしれない。