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サンクコストは「こんなにお金を掛けたのにもったいない」を可視化する
岸田政権における「新しい資本主義」において、個人資産について『貯蓄から投資へ』という方針であることが話題となっています。投資というと博打のようなもので、そんな危ない世界に国民の貴重な財産をシフトするなんてとんでもない! と感じている人がいるかもしれませんが、金融工学という言葉もあるように投資というのはある程度はロジックで説明できる世界であり、運任せのギャンブルとは違うともいえます。
金融工学的なアプローチが有効ということは、資金をあくまでも数字と捉えて、感情を排することができれば良い結果につながるという見方もできます。それとは逆に、感情に引きずられて損をしてしまうケースを示す言葉として、投資関連でよく見かけるのが「サンクコスト(Sunk Cost)」という言葉です。
サンクコストというのは日本語では「埋没費用」と表記できる言葉で、過去に投資したものの既に回収が期待できない金銭的・時間的・労力的なコストを指します。これが単なる事実を示す言葉であれば、損をしたなあと認識すれば済む話ですが、費やした資金や時間、労力を「これだけコストを掛けたのだから、ここで引き下がってはもったいない」と惜しむことで”損”を認められない状態に陥るケースがあります。そうした状態を『サンクコスト効果』に影響されていると呼んだりします。
正しい意思決定が遅れることは、よりマイナスを増やしてしまうことにつながるため「サンクコスト」を明確に認識するとは経営や投資において重要なのです。
カーライフにも「損切り」という発想を適用することで泥沼化を防ぐ!?
個人レベルの投資であっても、サンクコストを意識すべきシチュエーションは多くあります。株式投資などで「損切り」という言葉が使われますが、これは上がる見込みのない銘柄を持っているときに、損を覚悟で株を売却することです。そのまま所有していても株価が下がる一方であれば早めに売却した方がキズは浅くて済むからです。そのときに「あれだけ企業研究して投資したのだから、まだ戻る可能性はある」などと失敗を認めずにズルズルと損切りできないのも、サンクコスト効果といえるでしょう。
同じようなことはカーライフにおいても起きるのです。
例えば、20万円で車検を通した半年後にエンジンが故障してしまった場合。エンジン修理に15万円掛かると言われても、「車検が1年半も残っているから、直して乗り続けよう」と考えがちかもしれません。しかし、エンジンが故障するようなコンディションのクルマですから、エンジンを直しても次はエアコン、その次は電気系が寿命となるかもしれません。
そのほかカーナビも旧型で、ETCも新型に変えないといけない……という風に、今後掛かるコストがそれなりに予想できるとすれば、車検費用はサンクコストと捉えて、いっそクルマを買い替えた方がトータルでの経済的負担を抑えることにつながるケースもあり得ます。
メンテナンス費用におけるサンクコストを考慮することで、グッドタイミングで「損切り(乗り換え)」することができれば、結果的には負担の少ないカーライフを送ることにつながる可能性があるのです。
お金だけがすべてじゃない。愛情をもって乗り続けるのもカーライフのひとつの姿
はたして、「サンクコスト」だの「損切り」といった投資的な視点によってカーライフを見直すことは絶対的な正義なのでしょうか。
あくまでもクルマを道具として捉えるのであれば、投資コストとベネフィット(利益)の関係からベストの方法というのは数字を計算することで導くことができるという話です。極論すれば、クルマを売ってシェアリングに変えたほうがいいというケースもあるでしょうし、逆にクルマの使用頻度が高い場合を考えると公共交通機関に頼るよりマイカーを持っている方がトータルでのベネフィットは大きいというケースもあるでしょう。
某自動車メーカーの社長がよく言うように「クルマというのは愛車と呼ばれ、愛がつく工業製品」という一面もあります。愛情や趣味性という感情は単純な損得勘定に置き換えことができない領域です。
「これ以上直してもサンクコストになるから、いまのクルマは損切りして、新しく乗り換えよう」という考え方がどんなときにも正しいわけではなく、「コストをかけて愛車のコンディションを維持して、自分が納得するまで乗り続けよう」というのは、ある意味で理想的なカーライフの姿といえます。周囲からはサンクコストに見えても本人にとっては、愛車を所有する満足度で掛かったコストを回収できるというのであればサンクコストにはならないといえるからです。
とはいえ、いずれ乗り換えたり、手放したりすることを前提としているのであれば、サンクコスト効果によってそうした判断が遅れてしまうのはカーライフにとってマイナスです。世の中にはサンクコスト効果があって、その影響を受けてしまうケースが少なからずあるということを認識していれば、自分のカーライフにおいても適切な判断ができるといえるかもしれません。