三菱としてはi-MIEVに続く電気自動車(以下、EV)となるeKクロスEVは、ほかの三菱軽乗用車(以下、軽)同様、日産との協業によって生み出されたクルマであり、日産のサクラと基本骨格や走行コンポーネンツを共有する。設計開発はeKクロスEVも含めて日産が担当しているが、生産は逆にサクラとともに三菱の水島工場がおこなう。
eKクロスEVとサクラの、最大にしてほぼ唯一の違いが内外装デザインだ。軽フラッグシップという位置づけのサクラが内外装とも専用デザインなのに対して、三菱版はその見た目や車名からも分かるように、ガソリン版のeKクロスと基本的に同じデザインである。この点は「EVをあくまで普通のクルマとして普及させたい」という三菱の商品企画によるもので、そこはi-MIEVという軽EVの前例を持つことも無関係ではないのかも。
デザインにおけるEV専用部分は、外観ではEVらしく開口部が縮小し(て、かわりにメッキが増え)たフロントグリルバンパー、内装では7インチカラー液晶メーターやシフトレバー、エアコンパネル、センターディスプレイといったところだ。ガソリン版と共通デザインの是非はともかく、全体的な質感自体は最新の軽としては悪くないが、日産の軽フラッグシップに位置づけられるサクラはさらに高いのも事実だ。ただ、サクラではオプション扱いの本革ステアリングホイールがeKクロスEVでは全車標準になるのは嬉しい。
eKクロスEVを単独で乗っているかぎり、走りについては良くも悪くもサクラと選ぶところはほとんどない。ありまあるモータートルクがあり、しかもアクセルオンからラグを感じさせない高応答でありながら、あくまで上品で滑らかなマナーをくずさないパワートレーンのしつけは、さすがというほかない。
シャシーの剛性感や安定感も文句なし。いかにも床下に電池を配置した低重心らしい身のこなしである上に、eKクロスより重いとはいっても1.1tそこそこ。重さによる弊害もあまり感じさせない。テールがどっしりと安定した小型FFらしからぬ旋回姿勢ながら、アクセルペダルを思い切り踏み込んでも、フロントが暴れたりトラクションが不足するそぶりすら見せないのは、トルク制御が巧妙だからだろう。
まあ、意地悪に観察すれば、日産サクラよりわずかにロードノイズが目立つ感はなくはない。聞けば、その理由は、eKクロスEVと共通のボディパネルにあるようだ。というのも、上屋もEV専用となるサクラでは、ロートノイズ低減のために、ボディパネルの見えない部分の穴もガソリン版より少なくしているとか。とはいえ、これも路面やタイヤによっては分かりにくくなる程度の差でしかない。
eKクロスEVの本体価格は、今回の試乗車でもある上級の「P」グレードで290万円台、売れ筋の「G」で230万円台となっている。その価格は両グレードとも結果的にサクラとほぼ同等だが、日産と三菱が相談して価格を決めることは、独占禁止法で許されていない。国から出るCEV補助金(最大55万円)を差し引くだけでも「G」なら実質価格は180万円台まで下がる。さらに自治体独自の補助金を加えて、さらに安く買える地域も少なくない。
この価格がeKクロスEVとサクラの“バカ売れ”といえる人気の原動力となっていることは間違いないだろう。eKクロスEVの発表から1カ月半ほど経過した7月6日時点での受注台数は4600台(月販目標850台)を超えているとか。ちなみに、サクラは同時期で1.8万台以上を受注している。
……と、もしかしたら日本におけるEV普及のひとつの潮目となる可能性もあるeKクロスEVは、クルマ自体のデキも素晴らしい。ただ、不満があるとすれば価格だ。いや、絶対的にはEVとして破格ではあるのだが、前記のようにそれはサクラとほぼ同等である。
サクラが全身専用デザインで質感もさらに高めていることを考えると、良くも悪くもガソリン車と同デザインのeKクロスEVは、わずかでもいいから、サクラよりはっきり割安な価格をつけてほしかったところだ。それなら納得感もより高まって、より冷静に日産と三菱の軽EVを比較できる。……とかいいつつ、サクラとeKクロスEVの大人気で、昨今では各種補助金の枯渇も心配される事態になりつつある。今年度中に欲しい人は急ぐべし。
三菱 eK X EV P 全長×全幅×全高 3395mm×1475mm×1655mm ホイールベース 2495mm 最低地上高 145mm 車両重量 1080kg 駆動方式 前輪駆動 サスペンション F ストラット式 R トルクアーム式3リンク タイヤ 165/55R15 原動機型式 MM48 定格出力 20kW 最高出力 47kW/2302-10455rpm 最大トルク 195Nm/0-2302rpm 交流電力量消費率(WLTC) 124Wh/km 一充電走行距離(WLTC) 180km 価格 2,932,600円