クルマの出来は素晴らしい。実質184.8万円からの価格設定も破格! 欲を言えば‥‥【三菱eKクロスEV 試乗記】

日産サクラと共同開発された三菱eKワゴンEVに公道で試乗機会を得た。すでに5000台近い受注を得るなど好評も伝えられている。シャシーの剛性感や安定感は、床下にバッテリーを置いたEVならでは。ありあまるトルクで余裕の走りを披露する。
REPORT:佐野弘宗 PHOTO:高橋 学
日産サクラ-デイズの関係とは異なり、「eKクロスEV」の場合、内外装のスタイリングはガソリンエンジン車の「eKクロス」と細部を除き共用されている。写真のミストブルーパール×カッパーメタリックのツートーンカラーは、eKクロスEVのイメージカラーだ。

三菱としてはi-MIEVに続く電気自動車(以下、EV)となるeKクロスEVは、ほかの三菱軽乗用車(以下、軽)同様、日産との協業によって生み出されたクルマであり、日産のサクラと基本骨格や走行コンポーネンツを共有する。設計開発はeKクロスEVも含めて日産が担当しているが、生産は逆にサクラとともに三菱の水島工場がおこなう。

ボンネット下にはエンジンに代わってモーターユニットが収まる。モーター型式はMM48。最高出力は軽自動車の自主規制値47kWに収まるが、自主規制値のない最大トルクは195Nmと、軽ターボ車の約2倍という数値。

eKクロスEVとサクラの、最大にしてほぼ唯一の違いが内外装デザインだ。軽フラッグシップという位置づけのサクラが内外装とも専用デザインなのに対して、三菱版はその見た目や車名からも分かるように、ガソリン版のeKクロスと基本的に同じデザインである。この点は「EVをあくまで普通のクルマとして普及させたい」という三菱の商品企画によるもので、そこはi-MIEVという軽EVの前例を持つことも無関係ではないのかも。

インテリアデザインも、外観同様、eKクロスに準ずる。ホワイト×ブラックの配色が、軽自動車とは思えない高級な印象をもたらす。
「P」に標準装備のスマートフォン連携ナビゲーションは、9インチの大画面。
7インチカラー液晶メーターは、ナビ画面表示や残電力表示画面にも対応する。

デザインにおけるEV専用部分は、外観ではEVらしく開口部が縮小し(て、かわりにメッキが増え)たフロントグリルバンパー、内装では7インチカラー液晶メーターやシフトレバー、エアコンパネル、センターディスプレイといったところだ。ガソリン版と共通デザインの是非はともかく、全体的な質感自体は最新の軽としては悪くないが、日産の軽フラッグシップに位置づけられるサクラはさらに高いのも事実だ。ただ、サクラではオプション扱いの本革ステアリングホイールがeKクロスEVでは全車標準になるのは嬉しい。

圧倒的な足元スペースの広さもeKクロス同様。シートスライドの採用で、荷室容量の拡大も簡単。
前席もベンチタイプを採用。ステッチが上質な印象だが、シートデザイン自体はeKクロスと同一だ。

eKクロスEVを単独で乗っているかぎり、走りについては良くも悪くもサクラと選ぶところはほとんどない。ありまあるモータートルクがあり、しかもアクセルオンからラグを感じさせない高応答でありながら、あくまで上品で滑らかなマナーをくずさないパワートレーンのしつけは、さすがというほかない。

eKクロスの4WDと同じ荷室容量を確保。バッテリーの搭載で荷室を犠牲にしておらず実用的だ。

シャシーの剛性感や安定感も文句なし。いかにも床下に電池を配置した低重心らしい身のこなしである上に、eKクロスより重いとはいっても1.1tそこそこ。重さによる弊害もあまり感じさせない。テールがどっしりと安定した小型FFらしからぬ旋回姿勢ながら、アクセルペダルを思い切り踏み込んでも、フロントが暴れたりトラクションが不足するそぶりすら見せないのは、トルク制御が巧妙だからだろう。

普通充電ポート(上)と急速充電ポート(下)は使いやすいリヤフェンダーに配置。
「P」は165/55R15サイズのアルミホイールを標準装着。「G」グレードは14インチスチールを履く。

まあ、意地悪に観察すれば、日産サクラよりわずかにロードノイズが目立つ感はなくはない。聞けば、その理由は、eKクロスEVと共通のボディパネルにあるようだ。というのも、上屋もEV専用となるサクラでは、ロートノイズ低減のために、ボディパネルの見えない部分の穴もガソリン版より少なくしているとか。とはいえ、これも路面やタイヤによっては分かりにくくなる程度の差でしかない。

eKクロスEVの本体価格は、今回の試乗車でもある上級の「P」グレードで290万円台、売れ筋の「G」で230万円台となっている。その価格は両グレードとも結果的にサクラとほぼ同等だが、日産と三菱が相談して価格を決めることは、独占禁止法で許されていない。国から出るCEV補助金(最大55万円)を差し引くだけでも「G」なら実質価格は180万円台まで下がる。さらに自治体独自の補助金を加えて、さらに安く買える地域も少なくない。

この価格がeKクロスEVとサクラの“バカ売れ”といえる人気の原動力となっていることは間違いないだろう。eKクロスEVの発表から1カ月半ほど経過した7月6日時点での受注台数は4600台(月販目標850台)を超えているとか。ちなみに、サクラは同時期で1.8万台以上を受注している。

……と、もしかしたら日本におけるEV普及のひとつの潮目となる可能性もあるeKクロスEVは、クルマ自体のデキも素晴らしい。ただ、不満があるとすれば価格だ。いや、絶対的にはEVとして破格ではあるのだが、前記のようにそれはサクラとほぼ同等である。

サクラが全身専用デザインで質感もさらに高めていることを考えると、良くも悪くもガソリン車と同デザインのeKクロスEVは、わずかでもいいから、サクラよりはっきり割安な価格をつけてほしかったところだ。それなら納得感もより高まって、より冷静に日産と三菱の軽EVを比較できる。……とかいいつつ、サクラとeKクロスEVの大人気で、昨今では各種補助金の枯渇も心配される事態になりつつある。今年度中に欲しい人は急ぐべし。

三菱 eK X EV P


全長×全幅×全高 3395mm×1475mm×1655mm
ホイールベース 2495mm
最低地上高 145mm
車両重量 1080kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F ストラット式 R トルクアーム式3リンク
タイヤ 165/55R15

原動機型式 MM48
定格出力 20kW
最高出力 47kW/2302-10455rpm
最大トルク 195Nm/0-2302rpm
交流電力量消費率(WLTC) 124Wh/km
一充電走行距離(WLTC) 180km

価格 2,932,600円

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