私がジムニー(JB64)ではなくジムニーシエラ(JB74)を選んだ理由をお伝えします

相変わらず大人気のスズキ・ジムニー。よし、買おう!と決めたはいいけれど、迷ってしまうのはジムニーとジムニーシエラのどちらを選ぶか、ということ。両車にそれぞれメリットがあるからなかなか選べない、という方も多いはず。本企画の筆者である山崎友貴さんは「自分が買うならジムニーシエラ」と言うが、その理由は何なのだろうか?

TEXT◎山崎友貴(YAMASAKI Tomotaka)

個人的ベストバイはジムニーシエラのJLグレード(AT)、セーフティサポート装着車だ

金銭的なメリットは軽自動車のジムニーに分があるが…

自粛生活は何とか一段落しているものの、相変わらず先が見えないのがジムニー(JB64)とジムニーシエラ(JB74)の納期。スズキは、インドにある合弁会社「スズキ・モーター・グジャラート(SMG)」のグジャラート工場において、世界のすべてのジムニーシエラの生産を行なう予定にしているようだ(編集部註:いまのところグジャラート工場ではバレーノ、スイフト、ディザイアが生産されている)。

現在、ジムニーとジムニーシエラは静岡県の湖西工場で生産されているが、ジムニーシエラの生産がインドに移ると、国内の生産能力のすべてをジムニーに注力できるようになる。これでバックオーダーが大幅に解消できる見込みだが、コロナ禍はインドにも及んでいるため、工場稼働が遅れる可能性も捨てきれない。

そんなニュースを聞きながら、自身もどのタイミングでジムニーを注文するか、なかなかタイミングが掴めないでいる。ジムニーは納車まで1年から1年半、ジムニーシエラは1年弱と言われている。それをを聞いて、「じゃあ、納期が短いジムニーシエラにしよう」という人はなかなかいないと思うが、僕自身はジムニーシエラを注文しようと少し前から決めている。

今回はその理由についてお伝えしていこうと思う。

スズキ ジムニーの真正面
スズキ・ジムニーの全幅は軽規格いっぱいの1475mm。
ジムニーの真横
ジムニーの全幅も軽規格の上限となる3395mm。
スズキ ジムニーシエラの真正面
スズキ・ジムニーシエラはオーバーフェンダー装着のため、全幅は1645mmに拡大。
スズキ ジムニーシエラの真横
ジムニーシエラの全長は3550mmと、ジムニーより155mmも長い。

まず、ジムニーを「軽自動車だから選ぶ」という人には、今日のテーマは合わないかもしれない。自動車税を比較すると、ジムニーが年間1万800円に対して、シエラは3万500円も払わなければならない。高速道路料金だって、軽自動車にはメリットがある。NEXCO三社(NEXCO東日本、中日本、西日本)の料金設定を見てみると、軽自動車は普通車1kmあたりの料金×0.8になっているのだ。

軽自動車の金銭的なアドバンテージを考えて、ジムニーを選ぶ人も少なくないだろう。ジムニーとジムニーシエラを比較した時、ジムニーがことさら劣っている点はそれほどない。先代ジムニー(JB23)と比較するとどうかなと思う点はあってもだ。とは言え、その小さな差が人によっては大きなポイントにはなってくるかもしれない。

1.5Lエンジンはジムニーシエラのキャラにベストマッチ

ジムニーシエラは運転席&助手席シートヒーターと、電動格納式&ヒーテッドドアミラーが全グレード標準装備なんて話は置いておこう。

それよりも動力性能だ。エンジンの排気量が1.5L(最高出力102ps/最大トルク130Nm)のJB74に対して、JB64は660cc(最高出力64ps/最大トルク96Nm)しかないのだから当然だと言う人もいると思うが、先代のJB23/43はむしろ逆だった。1.3Lのジムニーシエラの方がレスポンスが悪く、高速道ではまるで速度が伸びず、普通車としてのメリットは運動性能に若干長けているくらいだった。

スズキ ジムニーシエラのエンジン
ジムニーシエラはK15B型エンジンを積む。1460cc直列4気筒DOHCで、最高出力102ps/6000rpm、最大トルク130Nm/4000rpmというスペック。

しかし、現行型になってからは、ジムニーシエラは税金を多く払った分のメリットをしっかりと享受できるようになっている。K15B型1.5Lエンジンのフィーリングが、きわめてジムニーシエラというモデルにマッチしているのだ。ことさらレスポンスがいいとか、パワフルとかいうわけではないが、欲しいところできっちりとトルクを発生する。M13A型エンジンと比べると、高速道の上り勾配でも、親の敵のようにアクセルを踏み込むこともなくなった。

一方、ジムニーに搭載されるR06A型は、決して悪いエンジンではないが、とにかくECUの制御が微妙。せっかく先代のK6A型よりも圧縮比を高くして、過給圧が低い状態から気持ち良く立ち上がっていくハズなのに、調子にのってグッと踏み込むと途中で出力がカットされるという残念な現象が起きるのだ。

スズキ ジムニーのエンジン
ジムニーが搭載するR06A型エンジン。660cc直列3気筒DOHCターボで、最高出力64ps/6000rpm、最大トルク96Nm/3500rpmを発生する。

さらにオフロードでは、ブレーキLSDトラクションコントロールという電子デバイスが加わるから厄介だ。ブレーキLSDトラクションコントロールは4H時の全域と、4Lの発進時に利く機能だが、タイヤが空転をし始めると自動でブレーキを利かせて、さらにエンジンの出力を抑えることでトラクション(タイヤと路面の摩擦で前に進もうとする力)を回復するようになっている。

これはABSユニットを流用することで実現できるデバイスなので、昨今では様々なメーカーがSUVに採用している。深雪や砂地などからの脱出が容易になるという、ありがたい装備だ。しかし、ジムニーではこれが迷惑になることがある。

過酷な林道でもジムニーシエラが扱いやすさでリード

例えば、荒れた林道で発進する時、ジムニーというキャラのクルマであればものともしないはずなのに、大きくアクセルを開けると制御が働いてエンジンストールを起こしてしまうのである。初めてこれを体験した時は、電気系が故障したのかと思ってしまった。しかし、MT車である以上はアクセルを少し開けないと発進できないし、目の前の大きな石を乗り越えることはできない。

例えば、オフロードの長い急な登り坂。路面が乾いている時は、タイヤが空転しやすい。しかも後輪荷重気味になるから、前輪は結構ズルズルとスリップしている。そこでアクセルを多めに踏もうものなら、いきなり出力カット。ECUに不満を言っても仕方がないが、空気が読めないことこの上ない。

スズキ ジムニーの登坂シーン
ジムニーお得意の場面…だが、山崎さんの印象ではブレーキLSDトラクションコントロールが扱いづらいという。

しかし、こういったことはジムーシエラではほとんど起きない。一般道でもオフロードでも、実に「普通」だ。もちろん、1.5Lという排気量が生み出すパワー&トルクの余裕のおかげということもある。ブレーキLSDトラクションコントロールこそこちらもイマイチだが、それが働かない4Lではトルクを使ってのんびりとオフローディングを楽しむことができる。一般道を走っている時に、いきなり失速するようなこともない。

併せて運転のしやすさに寄与しているのが、運動性能だ。外観の通り、ジムニーシエラはジムニーに比べてワイドトレッドである。ジムニーシエラが前1395mm/後1405mmに対して、ジムニーは前1265mm/後1275mm。現行型ジムニー・シリーズは、先代よりも高重心になったため、ジムニーもトレッドを40mmも広げているのだが、それでも峠道などに行くと十分だとは言い切れない。フワッとしたアッパーボディの挙動を感じてしまうのである。ジムニーは先代(JB23)に比べるとエンジンが前に移動しており、加えて高重心になったことから、ヨーイングが強まっているという人も多い。

意外と知られていないが、そもそもジムニーシエラは海外をターゲットにしたモデルだ。スズキは、先々代ジムニーの北米用モデル・サムライが「横転事故の危険が高い」と告発・提訴された過去がある(裁判の結果はスズキ側の勝訴)、その経験ゆえに、開発陣もジムニーシエラのコーナリング性能のセッティングには相当の注力をしているはずだ。

ロングドライブではジムニーシエラの余裕がありがたい

ジムニーとジムニーシエラの差は日常よりも、ロングドライブ時に思い知らされる。様々なシチュエーションを長時間走っていると、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積されるものだが、ジムニーシエラは疲労度が圧倒的に少ないのだ。仕事で遠くに出かける時、老体の僕としては取材車両がジムニーシエラだと正直安堵する。

スズキ ジムニーシエラの走行シーン
ロングドライブ時の快適性ではジムニーシエラに軍配。排気量の差が疲れにくさとなってあらわれる。

だからと言って、ジムニーがダメなクルマわけではない。ECUの制御問題については、メーカーによるデータアップデートを期待したいところだが、とりあえず現状での不満はカスタムで解消できる。ただダメ押しになってしまうが、自分ならジムニーシエラ(JLグレードのAT)、そしてセーフティサポート装着車を選ぶだろう。税金も高速代もジムニーより高いが、燃費はそれほど変わらないし、何よりも長距離移動を楽にしてくれるからだ。

いずれにせよ、納期問題が解決してくれないと、ジムニーもジムニーシエラも手に入れられるのは当分先になってしまうわけだが…。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…