運転する軽自動車から運動できるKスポーツへ
仕様・諸元(一部)
駆動方式(RS-X・RS-S):2WD(FF)
(RS-R):フルタイム4WD
型式(RS-X・RS-S):M-CA72V
(RS-R):M-CC72V
エンジン:F5A型DOHC4バルブ直列3気筒インタークーラー付きターボ
ボア×ストローク:62.0 mm×60.0mm
総排気量:543cc
トランスミッション:5速MT
全長×全幅×全高:3195mm×1395mm×1380mm(RS-R 1405mm)
ホイールベース:2175mm
トレッド:フロント1225mm(RS-R 1230mm)/リヤ1200mm
車両重量:RS-X・RS-S 610kg/RS-R 650kg
乗車定員:2名(後部座席使用時4名)
最大積載量:200kg(4名乗車時)
車両規格:昭和51年1月施行 旧々軽自動車規格
最新最強のスペックを誇った初代アルトツインカムターボワークス
ツインカム12RSからの究極進化形。パワーマネーレシオが光る、魅力の1台だった
ボディ―の基本。フロントがストラット式、リヤがI.T.L.式のサス。フロントがディスク式のブレーキ。以上はベースのツインカム12RSと同様だ。
初代の特徴は、まず外観がフルエアロチューン。装着タイヤは、軽自動車初のサイズ145/65R13。そして軽自動車初の目玉、ターボ仕様のF5A型DOHCエンジンが搭載された。
トランスミッションは5MT一本。駆動方式にはFFのRS-Xと、フルタイム4WDのRS-Rを設定。
車両価格は各99万円、109万円でツインカム12RSの約20万円アップ。最高出力が22ps増、その性能と装備から、お得な魅力ある1台だった。
メカと性能は軽自動車初。だがその本領は封印された
総排気量543cc、専用エンジンは最高出力64ps。
DOHC4バルブ+ターボの専用F5A型3気筒エンジンは、軽自動車初のメカ。
最高出力64psも軽ナンバーワン。そのパワーソースは、IHI製RHB31タービンだ。エンジンの横にはエアスクープから冷却用の外気を取り入れる、大型インタークーラーも組まれた。
制御系は圧力センサーを使う方式で、EPIと新機能ESA電子進角もあわせ、0.9kg/㎠の高過給に対応した。当時らしい主張は「リッター馬力117.8ps」。543cc唯一の64psだから、こう言えた。でも64psは、やむなく抑えた自主規制値だ。
ツインカム12RSに同じタービン・補機を組み、過給をかけたとすれば、単純計算で84ps。予定した実の力に合点がいく。
「運転じゃない。これは運動だ。」スズキは唱えた
回転力を表す、レッドゾーンは9500rpmから。定格は最高出力64ps/7500rpm、最大トルク7.3kgm/4000rpm。圧縮比がツインカム12RSの10.0に対して8.0と低く、ターボの特性もあって最大ブースト到達が3500rpm前後、そこからトルクが急に高まる。
回転上昇が勢いつき、タコメーターの指針が9500rpm以降のレッドゾーンに向かって躍った。ライバル車より1000回転は多く、確実に上まで引っぱれた。登場時点では、軽自動車一の回転力だ。
ブン回してこそ、乗る醍醐味があった。ワークスの操作は「運転じゃない。これは運動だ。」スズキは、そう唱えた。
エンジン内部はNA仕様を強化。高回転対応・高剛性化にカムの装着に凝る
ブロック側はNA仕様からピストン、コンロッド、クランクが強化を受けた。油温対策に水冷式オイルクーラーもつく。
ヘッド側はNA仕様と同じく小径の点火プラグも使って、燃焼室のバルブ面積を稼ぐ。カムはターボ用。そのカムの装着が、DOHCのF5A型は凝っていた。
カムはヘッドでなく、エンジン最上部のカムカバー風のカムハウジングに収まる。これはアルミ製の一体もので、カムキャップはない。カムを真横にある穴から差し込んで組む。
高回転でのカム周辺の剛性が保て、ロッカーアームでのバルブ開閉を確かにする仕組みだ。ヘッドの小型化とF5A型のDOHC化成立、車両への搭載にもつながっていた。構造上、困難になるバルブクリヤランスの調整は、ラッシュアジャスターによる自動調整を実現。馬力のみならず、まさに精密な最新専用機だった。
RS-Rのフルタイム4WDはラリーでは勝利に貢献
なんとパワートレインまで専用化だ。クラッチの容量アップ、エンジン特性に合うギア比への変更、シンクロの改善、前輪デフの強化そして等長ドライブシャフトの採用など、駆動系もワークス用に大改良。
で、RS-Rのフルタイム4WDだ。ビスカスカップリングが4輪の回転状況に応じてリヤの駆動力を増やし、後方から車両を押す。そんな強みに加え、社外パーツに2WAYのリヤデフ用L.S.D.が登場し、RS-Rはラリーで速さを発揮した。
フロントデフはL.S.D.化が難しく、もしそれができていたら、FFのRS-Xとともにモータースポーツでもっと活躍していただろう。
しかし、初代の販売期間はわずか1年半
小径ハンドルと、左右非対称形状のバケットシート、と内装でも運動性能を誇示する。メーターはゼロ点が真下にあり、真上が1万回転・100km/h。タコメーターの表示はMAX1万2000rpm。まさに新ジャンルカーの初代だが、力をつけたミラTR-XXの姿がミラーに映る。ミニカの最強化も観測。
そして1988年9月、わずか1年半という販売期間で代替わりをしたのだ……。