清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第25回 

脱・温暖化その手法 第25回  —太陽電池も半導体—

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

最終的に地球を救うのは太陽電池だ

第23回のダイオードについて述べた際に、太陽電池もダイオードの一種であることをわずかに触れた。

今回は太陽電池についてより詳しく述べることを目的としたい。それは本シリーズの最後の目標は地球を最終的に救うエネルギー源は“太陽電池”だと考えているためである。

太陽電池は1954年ベル電話研究所のダリル・シャピン、カルビン・フラー、ゲラルド・ピアーソンによって発明された。シリコン製のダイオードのN型とP型のジャンクションに光を当てると、接合面で結合していた正孔と電子が、光から得たエネルギーで分離して、電子がN型に集まり、外部で接続された回路を通して電流が流れることを利用している。シリコンの場合、接合部でのN型とP型の電圧の壁に相当する段拡散電位は0.7Vなので、最大でこの電圧の電流がダイオードから外に流れる。

太陽電池の性能は効率で表される。また寿命と価格も重要な要素である。効率は何で決まるかについては、まず赤外線から紫外線に分布する太陽光のうちのどの波長を吸収できるかがある。シリコン太陽電池では主に赤の領域の光を使って電気を起こす。その他の波長の光は反射するため、色は深い青色をしている。従ってシリコン太陽電池の理論的最大効率は約29%とされている。

その他に一旦分離した正孔と電子が再結合してしまい双方とも消滅することによる電力の損失がある。またパネル表面からセル内に入らずに直接反射して光により太陽光エネルギーとして有効に利用できない分および、表面と裏面に取り付けられた電極の電気抵抗による損失がある。

効率向上とコストダウンをさらに実現

これら有効に利用できないエネルギーがあることにより太陽電池の効率が決まるのだが、発明当初は6%の効率であった。このために発電装置として実用的に使うことができず、人工衛星の電源のように特殊な用途にのみ用いられるのみであった。

太陽電池が発電源として実用的かどうかを示す指標として、エネルギーペイバックタイムとコストペイバックタイムがある。エネルギーペイバックタイムは製造から廃棄までのライフサイクル中に投入されるのと同じだけのエネルギーを、発電によって節約できるまでに必要な稼働期間である。現在は太陽電池の寿命は20年以上とされている。また、作るための電力は大幅に下がっていて、電池の種類にもよるが、1年を切るものも出てきている。このためにエネルギーペイバックタイムの観点では、太陽電池は明らかに有利なエネルギー源である。

地上で使う太陽電池の寿命を決める最も大きな要素はセル内に侵入する水分である。これまで太陽電池はガラス基板の上にセル材料をはさみ、表面もガラスで覆う構造であったので、これらの表面からの水分の侵入は無いが、端部でのシールの材料や製造法によって水分が入ることが多かった。それが改善されて、上記のように20年以上の寿命となっている。寿命も今後は伸びる方向であるし、製造するエネルギーは下がる方向なので、エネルギーペイバックタイムの観点からは、太陽電池は、まだまだ期待が持てる。

コストペイバックタイムは、太陽電池設備を導入した場合にどの位の期間で投資が回収できるかを測るものである。発電量は太陽光の単位面積当りのエネルギー量と電池の効率及び1日平均日照時間を掛けることで、1年間の発電量が求められる。これに寿命が来るまでの年数の掛け算が全発電量である。コストは今までのところ、セルを作るための電力が主流であった。このために電力が安価な地域と、小さな地域とではその差がでる。例えば日本と中国では中国の方が電力が安い。このためにコストペイバックタイムの点では、日本が不利である。

太陽電池は発明以来コストペイバックタイムとエネルギーペイバックタイムを下げるための努力が長く続けられ、現在ではこの双方とも十分に実用的な水準に達するに至っている。

しかし、ここまで来た太陽電池であるが、まだ地球を救うエネルギー源にまで成長していない。その実現法についての明解な答えを生むのが、この連載の最終的な目標の1つである。

量子力学の発見から、その応用で、20世紀に最も人類に貢献したのは半導体であったことを述べてきた。 科学上の発見は、20世紀初頭に主にヨーロッバ人により行われてきた。それが、ここまでの応用になると一転してアメリカ主導であった。

 私の解釈では、アメリカの近代化は1856年の南北戦争がスタートだと考えている。独立後のアメリカは、西部劇でも理解できるように、インディアンと戦い、メキシコからカリフォルニアを奪い、ついには南と北に分かれて戦うということを含めて争いを繰り返してきた。それが南北戦争で、争いの歴史を終わり、近代国家に生まれ変わった。

 その結果、安定したアメリカからはヨーロッパに向けての農産物の輸出が増え、その収益で、近代工業を起こした。鉄の生産でアメリカがヨーロッパを抜いたのが、1900年のことである。車の大量生産を始めたのもアメリカであった。これによってさらに豊かになったアメリカ人は教育に力を入れ始め、ヨーロッパに大量の留学生を送った。それで、教育を受けた人々がオリジナルな研究、開発を始め、量子力学の面での時代を変える発明をしていった。

 同時期に、文化の面でヨーロッパに留学をした人達は、音楽の素養を身につけて帰った。その結果、アメリカの映画音楽に代表される素晴らしい音楽が世界中でヒットすることになる。

 こうして、少なくても、アメリカは1970年にベトナム戦争で負けるまでは、常に成長し、常に輝き続ける社会であった。

1998年に慶応の学生たちが作った電気自動車
この年も鈴鹿での電気自動車レースのために本田プレリュードを改造して
製作。車体は廃車にするという学生の車をもらい受けたもの。夏休みに合
宿をして完成させ、学生たち自らが鈴鹿まで運んで、レースに参加した。
告知 セミナー開催 ”電気自動車の時代についての最新情報”

清水浩氏の経営する株式会社e-Gle(イーグル)では、2014年以来、電気自動車、自動運転、再生可能エネルギー、スマートエネルギーに関して、セミナーを開催。今年から年間4回として開催中。次回の第2回目は ”電気自動車の時代についての最新情報” というテーマで開催が決定。

日時:9月16日(金) 13:00〜16:30
場所:AIRBIC 1階 第5-8会議室(神奈川県川崎市幸区新川崎7-7 新川崎駅より徒歩10分)
内容:講演(予定)
① 電気自動車化の世界的流れ 川端由美様(自動車評論家 電動モビリティシステム専門職大学准教授候補)
② e-プラットフォームへの動き(清水浩)
③ NdFeB 磁石の最新情報 佐川眞人様 (NdFeB 磁石発明者、エリザベス女王工学賞受賞者)
会費:1社(原則2名様)5万円
問い合わせ・申込み:e-Gle プロジェクト事務局 新井、森野 メールアドレス project@e-gle.jp

また、参加企業の皆さんで自由な話し合いをしていただくワークショップの案として、ワークショップテーマ案 ”電動化の世界的流れに対する自社の動き、目標、対応" を考えております。終了後、AIRBIC レストランでお茶会を催します。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…