WRC グラベルラリーで勝敗を分ける、最重要ファクター「スターティングオーダー」

ライン上に残るグラベルPHOTO:Msport
現代のラリー、特にグラベル(未舗装)イベントにおいて、勝利を分けるファクターとなるのが「出走順(スターティングオーダー)」だ。WRC第10戦『アクロポリス・ラリー・ギリシャ』の様子からスターティングオーダーについて考えてみよう。
トヨタのカッレ・ロバンペラ PHOTO:TOYOTA

同一周回を複数の車両によって走行するサーキットレースと異なり、ラリーは基本的に区切られたスペシャルステージ(SS)を1台ずつ走る。当然、時間の経過があるため、参戦する数十台が同じ条件で走るのは不可能となる。

突然の雨による路面コンディションの変化、日没による視界の変化、または前走者が巻き上げるダストなど、残念ながらラリーという競技は公平にタイムを競うことはできない。この条件の変化を含めて、タイムを争う競技がラリーだと言えるかもしれない。

前述のように特にグラベルイベントでは、トップスタートと後方スタートでは、条件が雲泥の差となる。

WRC(世界ラリー選手権)では、選手権ランキングトップのドライバーから順番にSSを走行。つまり、先日開催されたWRC第10戦アクロポリス・ラリーでは、トヨタのカッレ・ロバンペラがトップ。続いて、ヒョンデのオィット・タナック、トヨタのエルフィン・エバンス……と順番に走行し、Mスポーツ・フォードから久々の参戦となったセバスチャン・ローブは8番目にスタートした。

Mスポーツ・フォードから久々の参戦となったセバスチャン・ローブ。PHOTO:Msport
ローブがドライブするのはFord Puma Hybrid Rally1

ラリーカーが走行する前のSSは、走行ライン上に砂や泥が乗り、まったくグリップしない状態。一番手スタートはこのライン上に乗った砂や泥を掃除する役目を強いられる。当然、1台目よりは5台目、5台目よりは10台目の走行時の方がラインはクリーンアップされ、タイヤもしっかりグリップする。

実際、グラベルラリーにおけるスタート順にどれだけのタイム差が生まれるのか? アクロポリスにおいて、本格的な山岳路を走行が開始された9月9日金曜日を見てみよう。SS2からSS4までローブが3連続ベストタイムを記録したのに対して、ロバンペラはSS2が5番手、SS3が9番手、SS4が9番手と、たった3本のSSを走行しただけで、首位のローブから22秒も遅れてしまった。

「走行順トップで走るのは簡単なことじゃない。本当にグリップレベルが低いし、特に低中速区間でまったく前に進んでくれない。この状況でベストを尽くすしかない……」と、ロバンペラは肩を落とす。

トヨタのカッレ・ロバンペラ PHOTO:TOYOTA
アクロポリスを走るロバンペラ。カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組 (GR YARIS Rally1 HYBRID 69号車) が総合15位でフィニッシュした。PHOTO: Toyota Gazoo Racing WRT

さらに、今回のアクロポリスの金曜日は、リピートステージ(午前中と午後で同じSSを複数回走行する)が少ない1ルート設定。これにより、ロバンペラはほぼすべてのSSで、後続するドライバーたちのために、掃除役をこなすことになった。結果、金曜日を終えて、ローブが首位。2位に出走順11番目のピエール-ルイ・ルーベ(Mスポーツ・フォード)、3位に出走順7番目のエサペッカ・ラッピ(トヨタ)と、後方スタートのドライバーが上位を占めることになった。

気になるロバンペラは、約100kmを走行し、首位から1分以上も遅れた10位。この時点で、ほぼ優勝の目はなくなってしまった。ただ、荒れた路面と高い気温のアクロポリスでは、マシントラブルやアクシデントも続出。結果的に金曜日のトップ3全員が脱落し、優勝したのは4番手スタートのティエリー・ヌービル(ヒョンデ)となっている。

ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ 組(ヒョンデ i20 N Rally1 HYBRID)が優勝を飾った。 PHOTO:
Hyundai Motorsport GmbH

実はターマック(舗装ラリー)では、グラベルとは逆に先頭スタートが有利になる傾向がある。トップドライバーの多くは最短距離でコーナーを走行すべくインカットを行う。このインカットにより、コーナーの内側(えてして未舗装)から盛大に泥や砂利が掻き出される。当然、スタート順が遅くなればなるほど、コーナー付近に泥が撒かれ、走りにくくなるというわけだ。また、グラベルにおいても、豪雨が降って道がぬかるんだり、盛大にダストが残る状況であれば、先頭スタートが有利になる場合もある。

WRC次戦はこれまた出走順がキモとなる、グラベルイベントのラリー・ニュージーランド。ニュージーランドのSSは、ギリシャとは別種のルーズグラベルと呼ばれる細かい砂がライン上に堆積している。またもや出走順トップでスタートするロバンペラが、どのような走りを見せるのか。ぜひ、注目してほしい。

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