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ホンダはGMと組んで調達 それでも当面のLIBが足りない
ホンダの発表は8月29日だった。韓国のLGエナジーソリューション(以下=LGES)と共同で総額44億ドルを投資し、北米で生産するホンダ/アキュラのBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)に搭載するLIB(リチウムイオン2次電池)を生産する。2025年中の量産開始をめざし、年産能力は最大40GWh(ギガワットアワー=1ギガは10億)だという。この工場はホンダ向け専用になる。
ホンダは2035年までに世界の主要市場で販売する4輪乗用車の80%をBEVまたはFCEV(フューエル・セル・エレクトリック・ビークル=燃料電池電気自動車)にすることをすでに発表している。北米ではGMとの提携で車両およびLIBの供給を受ける。GMからホンダへのBEV供給は2024年から始まる予定で、そのBEVにはGM調達のLIBが搭載される。また、GMが主体となって開発した「アルティウム・バッテリー」の量産が2027には始まる予定で、ホンダ向けBEVにもその新型電池が搭載されるという。
しかし、当面のLIBが足りない。「Honda e」の発売当初、国内顧客向け予約が途中で打ち切りになったのもLIB調達の影響だったという。ホンダにとってのBEV主戦場は当面、全米LV(ライト・ビークル=車両重量3.5トン以下)販売台数の25%を占めるカリフォルニア州ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無排出ガス車)規制採用州であり、そこで罰金を払わないで済むようにBEVを投入する必要がある。
米国では韓国の電池メーカーが活発に動いている。LG(ラッキー・ゴールドスター=金星財閥)傘下のLGES、サムスン(三星財閥)系のサムスンSDI、SK(鮮京財閥)イノベーションが3大メーカーであり、車載用LIB生産能力はすでに日本を抜いている。米中経済摩擦というより、世界の覇権を中国と争う米国の企業は中国のLIBメーカーと組みたがらない。かといって日系企業は投資をしたがらない。消去法で考えても韓国勢になる。
トヨタは2030年には年間280GWhの電池が要る。
ホンダはGMとのFCEVでの連携の延長線上でBEV領域でも提携関係を築いた。いっぽうトヨタは、米・ノースカロライナ州の電池工場に新たな投資を行なう。8月末の発表では、日本国内と合わせて年産40GWhのLIBを増産できる体制になることを明らかにした。
トヨタは昨年9月から12月にかけて、今後のBEV投入と電池開発・生産の計画概要を明らかにしている。電池については、HEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)用は瞬発力重視のバイポーラ型NiMH(ニッケル水素電池)を、PHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)は持久力を重視した性能向上型のLIBと全固体電池(SSB=ソリッド・ステート・バッテリー)を、それぞれ主力に据えると語っていた。
また、車載電池のパートナーとしては、長年の盟友であるパナソニック(プライムアースEVエナジー)だけでなくGSユアサ、東芝、世界最大のLIBメーカーである中国のCATL(寧徳時代新能源科技)、中国・比亜迪(BYD)子会社である弗迪電池(フィン・ドリームス・バッテリー)などとも連携することを明らかにしている。
これは、電池の調達先と電池の種類を広げ、全方位でxEV(何らかの電動駆動系を持つクルマ)展開に当たるためだ。豊田章男社長が言う「BEVも本気」「HEVもPHEVも本気」「ぜんぶ本気」という発言を裏付ける電池戦略と言える。しかし、2030年までに電池分野に2兆円を投じるという大枠以外の具体的な投資計画は明らかにされていなかった。2030年にBEVだけで350万台を生産するという計画には年間280GWhの電池が要る。
今回のトヨタの発表は、昨年12月までの施政方針を実行するための具体策であり、今後も順次、電池工場の新設・拡張計画は発表されるだろう。中国ではCATLとBYDから電池を買う。国内外に自前の電池工場を建てる。パナソニックとの関係は持続させる。SCiBという安全性と寿命(充放電回数)に優れた東芝独自の電池もトヨタ車に取り込む。額面からはそのような展開が見えて来る。
日産 電池技術はつねに手元に置いておく判断
日産は去る9月7日、日立グループや官民ファンドINCJが出資するビークルエナジージャパン(VEJ)を買収すると発表した。かつてNECと共同で立ち上げたLIBメーカーのオートモーティブ・エナジー・サプライ(AESC)は、日産の業績が悪化した2018年に当面の決算対策として中国の遠景集団(エンビジョン・グループ)に一部の株式を残して売却している。このとき日産は電池調達の多様化を打ち出し、現在は中国のCATLからも電池を調達している。
2018年のAESC売却は、かつてルノーが日産に資本参加したときに行なった「業績悪化したら縮小均衡」「業績が戻ったら拡大」という欧州流の外科手術療法そのものだった。しかし、日産が独自開発したラミネート型電池の量産も引き続きAESCが担当すると言うことは、エンビジョン・グループへの技術移転でもある。同時に、米国流のドライな経営を好むAESCは、日産に対し「出資比率に見合った技術情報しか開示しない」ようになった。
開発も生産もコントロール下に置くことができる電池メーカーを持っているほうがいい。VEJ買収は、おそらくそういう判断だろう。中核となる企業を確保したうえで調達は柔軟に行なう。電池技術はつねに手元に置いておく。2030年までに23車種以上のxEVを投入し、2028年度にSSBを量産化したい日産にとっては、かつてのAESCのような会社を持つほうが確かに得策だろう。
さて、この一連の発表の背景は何だったのか。続きは次回に。