むやみに固めるのではなく全体のバランスで入力をいなしている【スバル・フォレスター 深掘りインプレッション】

3世代目からオーソドックスなSUVスタイルを採るフォレスターは、現行第5世代からSGPプラットフォームを採用する。荷室幅を最大限に広く取る工夫や視界の良さなど、実直に実用性を求めるつくりでスバルファンからの信頼も厚い。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)

軽量かつ高強度のSGPを採用した第5世代フォレスター

現行モデルの5代目フォレスターは、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)を採用。ハイブリッドモデルであるe-BOXERも初搭載された。

インプレッサをベースに仕立てたコンパクトワゴンとして97年に初代がデビューしたフォレスター。最初のモデルは後席が狭く、ファミリーユースには向かなかったが、全長4.5mを切る小さなボディに2.0Lターボエンジンを搭載した快速AWDワゴンとして注目を集めた。

初代フォレスターが発売されたのは1997年2月。写真は2000年のS/tb。当初は「快速ワゴン」というキャラクターだった。

特に北米市場では、南部や西部の農業地帯で人気を獲得。かの地の大規模農場は、自宅の敷地内に未舗装路があることも少なくなく、作業用のピックアップトラックやジープより快適で、未舗装路を不安なく走って帰れるフォレスターが重宝されたのだ。

第2世代までは“快速コンパクトワゴン”路線を継承していたが、07年の第三世代以降は、オーソドックスなSUV路線へとシフト。現在のモデルは18年にデビューした第5世代となる。

フォレスターが現行モデルに通じる背の高い本格SUVスタイルを採用したのは、2007年12月登場の3代目から。

プラットフォームには、スバル車が共通使用する新世代骨格SGP(Subaru Global Platform)を採用。サイドメンバーを前から後まで連続して通し、衝突荷重を効率よく支持するほか、前後の荷重伝達をスムーズにし、軽量で高強度かつ高剛性のボディを作り上げている。

パワーユニットは水平対向4気筒のガソリンエンジンで、これを縦向きに搭載する。現在は2.0Lの自然吸気エンジンと1モーターを組み合わせたパラレル式ハイブリッドの“e-BOXER”と、レヴォーグにも搭載されている1.8L直噴ターボの2系統。グレード名に“Sport”と付くのが後者だ。

X-BREAKが搭載するのは、2.0Lエンジンに1モーターを組み合わせたe-BOXERのみ。

トランスミッションはいずれもチェーン式CVTの“リニアトロニック”を採用。4WDシステムは、前輪側から後輪側に駆動力を配分する電子制御トルクスプリット式を採用し、悪路や雪道で専用制御が選べる“Xモード”を装備する。

X-MODEは、NOMAL以外にSNOW/DART、D.SNOW/MUDをダイヤルによりセレクトできる。

運転支援システムは、ステレオカメラを使用して前方の状況を把握する“アイサイト”を標準装備。ドライバーの表情から脇見や居眠りを検知すると警報を発する“ドライバーモニタリングシステム”を、Advance以上のグレードに標準装備(ほかはオプション設定)するなど、ロングドライブ時の安全性向上や疲労軽減のアシスト機能も万全に備える。

モーター出力は小さいが40km/hくらいまではモーター走行できる

試乗車のグレードはX-BRAKE。パワーユニットには“e-BOXER”を搭載し、オールシーズンタイヤのBSエコピアH/L422Plusを装備するモデルだ。

発着点の駐車場は路面が荒れており、大きめのうねりや段差がある。一般の方にとっては迷惑だが、クルマを評価するには好都合の環境だ。

視界の良さはスバル車全般に共通する美点。特にフォレスターは、立ち気味のサイドウインドウやアップライトなポジションでとても周囲が見渡しやすい。

そうした路面を低速で斜めに通過すると、サスペンションの初動感や、ボディの剛性がわかる。最近の国産SUVはみなレベルが高く、フォレスターのサスペンションも、初動からまずまずしなやかに動く。段差通過の当たりも優しく、それほど扁平率の低くない60タイヤを前230kPa/後220kPaと高すぎない空気圧で使っているのが、良い方向に作用していそうだ。

ボディもしっかりしているが、むやみに固めているというより、全体のバランスで入力をいなしている印象。自動二輪に乗る人ならば、「ドゥカティのスチールフレームのよう」と言えば、イメージが掴めるかもしれない。

ブレーキのファーストバイトは強め。なまくらなクルマから乗り換えると、効きすぎるように感じるかもしれない。しかし、慣れれば安心感は高いし、ルーズな履き物では滑らかなコントロールがしにくい=ちゃんとした靴を履く動機付けとなるのは、むしろ良いことだ。

X-BREAKは、拭き取りしやすいシート表皮などアウトドアユースでも使いやすい仕様だ。

モーター出力は10kWにすぎないが、クリープで発進して穏やかに加速すれば、40km/hぐらいまではモーター走行できる。一般的な市街地の流れに遅れない程度にアクセルを踏むと、発進直後にエンジンが始動するのだが、改善を期待したいのがエンジン始動時のショックだ。

これはD型発売当初から指摘されていることなので、開発陣は耳が痛いかもしれないが、アクセル低開度時やSIドライブのIモード選択時には、加速応答よりスムーズさを優先する制御を導入するなど、何か工夫していただきたいところ。数値より大切なのはフィーリングなのだから。

全幅いっぱいまで開口部がを広げ、荷物の積みやすさに配慮したラゲッジルーム。

一方で、エンジンが始動してしまえば、走りは非常に滑らか。モーター出力が小さい上、車重もそこそこ重いので、いかにも「モーターアシストしてます」的な加速力はないが、エンジンがトルクを出すまでの遅れをモーターがうまくカバーしており、合流や追い越しの際には、応答性よく加速できる。「凄みはないけど乗りやすい」という感じで、リラックスしてロングドライブを楽しむSUVには適したキャラクターだと言える。

いつものコース(住宅地を約10km)をいつものように、流れを乱さない範囲でエコドライブした燃費は14.4km/Lと、WLTCモードの郊外路燃費を上回った。以前、東京から山中湖を往復したときには16.3km/Lを記録しており、ロングドライブ適性は、なかなか高いと言えるだろう。

SUBARU FORESTER X-BREAK


全長×全幅×全高 4640mm×1815mm×1730mm
ホイールベース 2670mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1630kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:ストラット式 R:ダブルウィッシュボーン式
タイヤ 225/60R17

エンジン種類 水平対向4気筒DOHC16バルブ
エンジン型式 FB20型
総排気量 1995cc
最高出力 107kW(145ps)/6000rpm
最大トルク 188Nm(19.2kgm)/4000rpm

モーター種類 交流同期電動機
モーター型式 MA1
最高出力 10kW(13.6ps)
最大トルク 65Nm(6.6kgm)

トランスミッション CVT(リニアトロニック)

燃費消費率(WLTC) 18.6km/l

価格 3,135,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…