ジープのようでジープじゃない! ウクライナ軍事侵攻のニュース映像で見かけるロシア製オフロード車の正体は? 「UAZ-3151」は日本でも買える!

UAZ-3151 HUNTER
ロシアによるウクライナ侵攻はまだまだテレビのニュースを賑わせており、そのニュース映像には現地のさまざまな車両が映る。そこに映し出されるちょっと古いジープの姿……さすがジープ!ウクライナでも使われているのかと思いきや実は違った。そんなロシア製のジープ「UAZ(ワズ)-3151」が日本でも買えるって知っていますか?
REPORT:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

その名も「UAZ-3151」

第2次世界大戦時に誕生し、戦後は各国軍隊に採用され、冷戦期は各地の紛争で活躍したのがウィリスMB/フォードGPW」に端を発する”ジープ”ファミリーだ。開発国のアメリカでは1980年代からHMMVY(ハンヴィ)に更新されてその姿を消し、1990年代に入ると同盟国もそれに倣ってジープ系の車両からHMMVYへと切り替えていった。
現在、西側諸国で軍用ジープを使用しているのは、ラングラーベースのAILストームを運用するイスラエルだけだが、ロシアとその友好国ではジープに系譜を持つ小型4WDが現在でも軍民で広く普及しており、ロシアのウクライナ侵攻でも両軍によって使用されている。

ウクライナ警察が使用するUAZ
東ドイツのUAZ-469
東ドイツ仕様のUAZ-469(マニア所有)
チェコ軍のUAZ-469

ロシア製4WDヒストリー

ここでちょっと時計の針を巻き戻してUAZ-3151に至るロシア(旧ソ連)製軍用4WDの歴史を振り返ってみたい。

■GAZ-61とGAZ-64
ロシア製4WDの始祖とされるのは、1938年にニジニ・ノブゴロドにある「ゴーリキー自動車工場」(GAZ:Gorkovsky Avtomobilny Zavod)で少量生産されたGAZ-61まで遡ることができるのだが、これは乗用車を4WD化しただけのモデルであり、本格的な軍用4WDの登場は独ソ戦開戦後の41年4月から生産を開始したGAZ-64を待たなければならなかった。
GAZ-64はアメリカから漏れ伝わるジープの原設計となったバンタムBRC-40の情報に基づいて開発された車両であり、レンドリース法によってアメリカから大量のジープがもたらされてからは、実車を検分した上でソ連軍の軍用トラックとパワートレインを共通化するなどして、性能と生産性、保守管理性を向上させた改良型のGAZ-67(タミヤのプラモデルになっている車両だ)を43年9月に誕生させている。

GAZ-61
GAZ-64
GAZ-67(戦後型)

■GAZ-69とUAZ-69
大戦終了後の1953年には後期型のGAZ-67Bの基本設計を踏襲しつつ、車体をより大型化したGAZ-69が誕生。派生車種としてピックアップトラック型も登場した。同車の開発は引き続きGAZが務めたが、この時期のGAZは民間向け乗用車の生産で工場ラインに余裕がなく、ほどなくしてUAZに生産を移管することになる(UAZで生産された車両はUAZ-69とも呼ばれる)。そして、同車の設計を流用してバンボディを載せたのが前回紹介した「ブハンカ」ことUAZ-452(UAZ-3909)になるというわけだ。

GAZ-69
UAZ-469

その後は開発主体がUAZへと移り、GAZ-69の基本設計はそのままにさらに大型化した近代的なボディ(あくまでも当時の話)を載せたのが、今回紹介するUAZ-469である。85年にカタチはそのままにメカニズムを近代化したマイナーチェンジ版が登場する。それが現在もロシアやその友好国で運用が続けられているUAZ-3151である。

西側諸国へ輸出……日本でも買える?

冷戦終結後、UAZ-3151は西側各国へも「タフで実用的で安価なCCV(クロスカントリーヴィークル)」として民生仕様の輸出が始まった。
2000年代に入ると年々厳しくなる欧州の排気ガス規制に対応するため、同車は心臓部を新開発の2.7L直4DOHCに換装し、合わせて燃料噴射装置を気化器(キャブレター)からインジェクションに変更している。

UAZ-469のエンジン

ロシアのウクライナ侵攻直前までは日本へも舗装路での使用を前提に車高を300mmから220mmへと変更した派生モデルのUAZ-31512が「UAZハンター」の名称でルパルナスやオートリーゼンといった代理店が輸入販売しており、日本政府の対ロシア制裁発動後はカザフスタン工場生産の車両に切り替えて輸入販売が継続されている。
日本での新車価格は400万円オーバーとランドクルーザープラド(367万6000円〜)を超える高額車となっている。しかも、昨今の急激な円安によって販売会社では現在価格を調整中という。ロシアでは中古車が50万円程度から選べるということで、日本でのUAZハンターの新車価格を知った彼の地の人々は驚嘆の声を上げるが、少量輸入のマニアックな車種であることを考えると、これは仕方がないことかもしれない。

一応は現行車として最低限の環境基準をクリアはしているようだが、基本的にはオリジナルの軍用ジープに連なる古い設計の車両であり、快適性や安全性(民生仕様の場合)、舗装路での走行性能は最新型のオフロード車とは比べるべくもない。

UAZ-469の運転席

しかしながら、シンプルで簡素な作りのためにメンテナンス性は良好で、万が一のトラブルの際にもオーナーに多少の心得さえあれば車載工具で簡単に修理できるという。
また、冬季には氷点下40度にも達する過酷な環境での運用を考慮して車内の気密性が高く、アフリカや中近東、ソ連によるアフガニスタン侵攻でも活躍したことから寒冷地や砂漠地帯でのサバイバビリティに関しては、並の民生用SUVでは太刀打ちできない性能を持っていると言えるだろう。

前回紹介した「ブハンカ」ことUAZ-3909が2006年から輸入販売され、これまでに100台程度がユーザーの手に渡っているのに対し、UAZハンターの販売は2018年から始まったということもあり登録台数は非常に少なく、日本の道で見かけることは極めて稀。クルマ自体も希少さもまさに”走るシーラカンス”である。

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ウクライナ戦争とUAZ-3151の今

■運用方法と後継車
第2次世界大戦から冷戦期までは、TVドラマ『ラット・パトロール』よろしく、荷台に銃架を設置して威力偵察やコンボイの護衛などの戦闘任務につくロシア製軍用4WDの姿を戦場で見る機会もあったが、歩兵火力の増大やIED(Improvised Explosive Device:即席爆弾) の脅威、ドローンの登場により、非装甲車両でそれらの任務につくことは危険な行為となった。
そのため、各国の軍ではかつて軍用小型4WDが担ってきた任務の多くを歩兵機動車と呼ばれる4~10人乗りの小型の装輪装甲車で代替されるようになった。

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ロシア軍でもそれは例外ではなく、前線で戦闘が伴う任務はGAZ-2330ティーグルなどが当たることが多く、UAZ-3151は後方での連絡や司令部要員の移動、小規模な輸送などに従事することが多いようだ。
ところが、こうした後方任務では舗装路を走ることが多く、それならばSUV型の乗用車の方が使い勝手が良いということで、軍警察や占領行政を担当する部隊へはUAZ-3103パトリオットの配備が進んでいる。
ロシア軍から完全に姿を消すことは当分ないだろうが、UAZ-3151の活躍の領域は次第に狭まっている印象だ。

GAZ-2330ティーグル
UAZ-3103パトリオット

■ウクライナのUAZ-3151
ウクライナからの分離独立派に対してロシアは旧式装備を押しつけており、こちらは前線で歩兵機動車の代わりにUAZ-3151を使用する姿を見ることができる。

2022年2月、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域「ドネツク人民共和国」の庁舎近くで車両が爆発したとして世界に流れたニュースに映ったのがUAZだった。

いっぽう、ウクライナ軍ではソ連からの独立直後はUAZ-3151を運用していたものの、その後はHMMVYなどの西側供与の車両に置き換えられつつあり、開戦前の時点では二線級の装備として少数が後方で支援任務に当たるに留まっていた。
だが、ロシアによる侵攻後、とくに9月のハルキウ(ハリコフ)解放後は戦車や装甲車両、自走砲などとともにロシアからある程度まとまった数のUAZ-469やUAZ-3151を鹵獲したらしく、ある物は旧式でも使わなければ損だということなのだろう、後方のみならず前線部隊でも人員の移動、物資の移動、連絡、偵察、負傷兵の移送などに同車を活用する姿を動画や画像で確認できる。

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