まさか21世紀の世の中に、大国による侵略戦争が勃発するとは……老人になりつつある専制君主は、せめて自分が生きながらえる間は権力を保ちたいと思うのだろうか。ロシアと中国の民主主義恐怖症は、ふたりの自称専制君主が自らの権力維持に固執していることが唯一の原因だろうと筆者は思う。憂国などちゃんちゃらおかしい、
せっかくCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)流行の出口が見えたかに思えたが、これで2022年の自動車市場は大きなマイナス定要素を抱えた。戦火が収束しても、ロシア国内の自動車生産がすぐに再開されるだろうか。世界の自動車メーカーのなかでロシア依存度が最も高いのはルノーだ。利益の8%程度をロシア市場に依存している。
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ロシアのウクライナ侵攻が開始された直後、ルノーはロシア工場の休止を決めた。部品の運搬ができなくなるおそれがあるためだという。ロシア圏へ向かうトラックが「厳しくなった国境検問によって配送ルートを変更しなければならない可能性」と「戦域がどこまで拡大するかわからないため」だと、フランスでは報じられた。
車両生産のための部品には半導体を含む電子部品が多く、ロシア向けの輸出制限にひっかかる可能性もあるだろう。ルノー傘下にあるアフトワズの工場も「操業停止する可能性がある」と、ルノーは現地メディアにコメントしている。たとえ軍事作戦が短期に終了しても、経済への打撃は小さくないだろう。すでにロシア通貨ルーブルの国際為替相場は下落している。
2014年の暮れ、ロシアで一時的に新車販売台数が伸びた。ウクライナで親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊し原油価格も下落し、ルーブル相場も急落したときだった。そのころ、ロシアへの投資は「ほぼすべてストップしている」と筆者と旧知の金融関係者は言ったが、ルーブル危機を察知したロシア国民は「金をモノに換えておこう」とクルマを買った。
ロシア屈指の自動車商社であるロルフに尋ねたら「ロシアではよくあることだ。誰もルーブルなど信用していない」と言っていた。ロルフは元KGB幹部が興した自動車輸入販売商社であり、その立ち上げを支援したのは三菱商事だった。KGB将校に三菱商事がビジネスのやり方を伝授し、「相互に信頼できる同志で興した」会社がロルフだった。
この、2014年12月に売れたのは日産のインフィニティ(前年同月比69%増)、マツダ(同61%増)、スバル(同59%増)、三菱(同51%増)など日系ブランドのSUVだった。「日本は寒い国だとロシア人は思っている。シベリアの向こうにある国だから寒い。そういう国で設計・生産された4WDがいちばん信頼できると考えている消費者がロシアには多い。だから日本製のSUV が売れた」という。今回はどうなるだろうか。
海外取材で仲良くなったロシア人記者諸氏と最後に会ったのは2019年の東京モーターショーだったが。彼らに言わせると「大統領支持率の数字はデタラメだ。独立系調査会社だと公言しているところの調査データもまったく信用できない。誰がそういう会社を経営しているか、だれが資本を出しているか、我われは知っている。本当にプーチンを支持している人は10%以下というのが我われの実感だ」という。日本の内閣支持率の数字とは信頼度がまったく違うと考えるほうが正しいだろう。
J.D.パワーとLMCオートモーティブが先週金曜日に発表した共同予測では、ウクライナ侵攻は世界販売台数を40万台引き下げるとされた。2022年世界の市場8580万台という予測に対して40万台減である。数のうえでは誤差の範囲と言っていい。しかし、筆者が信頼するアナリスト諸氏はもっとシビアに見ている。ひとりはこう言った。
「原油価格高騰も懸念される。諸外国のロシアへの嫌悪感もある。影響は40万台ではおさまらないだろう。ウクライナ侵攻そのものが長引くとは思えないが、侵攻の後始末でロシア国内の経済は打撃を受ける。世界経済への影響も我われは見積もっている」
ウクライナで自動車の組み立て(完全に部品を現地調達しての生産ではない)を行なっている海外自動車メーカーは、VW(フォルクスワーゲン)グループのスコダ、韓国の現代・起亜グループと双龍自動車(資本は中国)、中国の吉利汽車と第一汽車、奇瑞汽車、インドのタタである。現在、操業がどうなっているかは確認できていない。