「ユーロ7」はまるで全体主義 ICE(内燃機関)は本当に存続の危機なのか・その2

PHOTO:Volkswagen
EU(欧州連合)委員会が「ユーロ7」排出ガス規制案を発表した。これはまだ決定ではなくEU閣僚理事会と欧州議会で審議し議決を取らなければならないが、近い将来は「BEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)だけに走行を認める」という案であり、BEV以外の選択肢については「提案なし」だった。旧ソ連や中国のような一党独裁国家が人民に下した「命令」をつい思い出してしまうICE(内燃機関)車否定である。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

EU委員会はICEを廃止したいのだろう

去る10月27日にEU閣僚理事会と欧州議会は、車両重量3.5トン以下の乗用車とLCV(ライト・コマーシャル・ビークル=小型商用車)のCO₂(二酸化炭素)排出基準をどうするかについて、もろもろ暫定合意していた。これは議論をはぐらかす手段だったのだろうか。

暫定合意には「年間販売台数1,000台未満の小規模OEM(自動車メーカー)への配慮」「CO₂排出量50g/km以下のZLEV(ゼロ・アンド・ロー・エミッション・ビークル)を乗用車25%、LCV17%以上の比率で販売するOEMについて、2025〜2029年はインセンティブを与える」「2035年以降のCNF(カーボン・ニュートラル・フューエル)使用車両販売を議論・検討する」「2026年にBEV普及度合いや関連技術の開発状況、社会的影響などを調査・評価し、必要に応じて規制を見直す」などが掲げられていた。

しかし、今回の「ユーロ7」EU委員会案では、ZLEVインセンティブは廃止、小規模OEM特例も廃止、CNFと規制案見直しは「提案なし」だった。さらに暫定合意では「2025年までに乗用車とLCVのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)手法を策定する」とされていたが、これも提案なしだった。1年前の暫定合意は時間稼ぎだったことになる。

「提案なし」とは、「その必要はない」という意思表示か、「今回は提案を控える。いずれあらためて提案する」か、あるいは「無視を続けて黙殺」か。この3つのうちのどれかだ。

EUは、日本がBEVで使用する電力を「燃料換算」してCO₂排出量を計算していることも「間違いだ」と言う。EU規制ではBEVは無条件で「CO₂排出ゼロ」だからである。一時期は「LCA手法を確立してBEVもICEも同列に扱う」と言いだし、その内容が暫定合意に盛り込まれたLCA条項だったが、これは無視したいのだろう。

この「ユーロ7」規制案発表は11月10日。エジプトでCOP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)が閉幕したあとだった。本来なら夏場までに発表される予定だったが、なぜか遅れた。この間、ユーロ7に関する実務者会議はあまり開催されていなかったと聞いている。

現在のEU委規制案では、乗用車/LCVと大型トラック・バスの区分を廃止することも盛り込まれている。乗用車・LCVについては、現状では大型トラック・バスだけが対象のアンモニア排出規制を適用し、大型トラック・バスについては乗用車/LCVだけが対象のホルムアルデヒドと亜酸化窒素の規制が導入される。

さらに驚きなのがブレーキパッドとタイヤから出る微粒子状のマイクロプラスチックを規制することを盛り込んだ点だ。まだ測定技術も開発されていない案件を規制に持ち込もうとしている。

EU委が狙う「ユーロ7」導入時期は、乗用車/LCVが2025年07月01日、大型トラック・バスは2027年07月01日だ。この日までにマイクロプラスチック測定方法を確立し、確実に「自動車からの排出」と識別できる測定方法とともに、EU加盟国内のすべての排出ガス測定局に設置するのは絶対に不可能だ。

RDE(リアル・ドライビング・エミッション)規制導入を急いだとき、EU委は測定方法の確立をほぼ放棄し在欧ESP(エンジニアリング・サービス・プロバイダー)などに丸投げした。これと同じことを考えているとしか思えない。

また、2024年に完成し、新車装着が始まるといわれている車載データロガーOBFCM=On Board Fuel Consumption Measurementのデータをもとに排ガス中の成分を記録し、各国の管轄当局が排ガス不正を監視するという項目もあるが、ここでわかるのは燃料または電力の使用量と走行距離であり、おそらくこの規定は走行距離に応じて何らかの税金を徴収することが目的だろう。

だとしてもOBFCMが新車装着装備である以上、すべてのクルマからデータを吸い上げられるようになるまでは10年以上かかる。BEV/PHEVだけを対象にすれば後付けも可能だが、そのコストは誰が負担するのか。

EUでも燃料課税の収入は落ち込んでいる。BEVが流行ればガソリンと軽油は売れなくなる。電力は、家庭でもオフィスでも「自動車に使われたのか照明や家電製品に使われたのか特定できないエネルギー」であり、だからOBFCMが考案された。日本でも2024年以降に新車装着されるということは、ほとんど知られていない。

まだある。EU委は自動車の環境性能保証期間を現在の2倍、20年または走行10万kmの「どちらか短いほう」を適用することを盛り込んだ。筆者はこれが「消費者保護が目的」とは思わない。BEVの製造段階も含めたCO₂排出量を計算するときにOEMに使わせるための数字だと考えている。走行10万kmと20万kmとでは、20万kmのほうがBEVには圧倒的に有利だ。製造段階でのCO₂排出を、より薄めることができる。

これらの規制案に「技術的な裏付けがある」ことを世の中に示すため、EU委はAGVES=Advisory Group on Emission Standard(排気規制諮問会議)の中にCLOVE=Commission consortium of consultants tasked to work on Euro 7という助言チームを置いている。その構成メンバーはESPであるリカルド、FEV、政府機関であるオランダの輸送技術協会TNO、そしてグラーツ工科大学などであり、たしかに科学的エビデンスを得るには充分な布陣だ。

とはいえ、CLOVEが2020年10月に公開した「軽量車および重量車のユーロ7規制に関する予備調査」をすべて読んだが、排ガス測定技術や大気中での二次生成のことしか書かれていない。規制内容についてCLOVEが検証以上のアドバイスをしたという証拠は、この文面からは読み取れない。

おそらくEU委はICEを廃止したいのだろう。そう考えるのが妥当だ。NOx(窒素酸化物)やHC(炭化水素)の測定方法、とくにOEMが気にしている低温下試験の方法などは、発表文ではなく実施規則として発表されるのだろうが、オリジナルの英文からは「お前らは従っていればいい」というような態度を感じた。

EU委はなんとしてでもBEV全体主義に移行したいのだろう。しかし、それで本当に諸問題は解決するのだろうか?

著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…