BluE Nexus×アイシン×デンソーで共同開発した新型クラウンのデュアルブーストハイブリッドのスゴイ中身

新型クラウン・クロスオーバーRSの走りの心臓「デュアルブーストハイブリッド」とは?

新型トヨタ・クラウン クロスオーバーRSのハイブリッドシステムは新開発の「デュアルブーストハイブリッドシステム」だ。
大注目の新型トヨタ・クラウン。パワートレーンは、2.4ℓターボ+ハイブリッド+リヤEアクスルと2.5ℓのTHSⅡ+リヤEアクスル。トヨタ車初採用となった前者の名称は「デュアルブーストハイブリッドシステム」である。この新しいハイブリッドシステムが新型クラウンの心臓となる。どんなシステムか?
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:TOYOTA/BluE Nexus

クラウンRSはデュアルブーストハイブリッド

新型トヨタ・クラウン クロスオーバー

2022年7月15日、トヨタ自動車は新型クラウンを世界初公開した。16代目となる新しいクラウンは、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの4つのバリエーションを持つ。第1弾として登場するのはクロスオーバーで、2022年秋頃に発売が予定されている。

2.5ℓエンジンと組み合わせるシリーズパラレル式ハイブリッド「トヨタ・ハイブリッドシステムⅡ(THSⅡ)
2.4ℓターボと組み合わせる新しいハイブリッド・システム「デュアルブーストハイブリッドシステム」

クラウン・クロスオーバーのパワートレーンは2種類だ。どちらもハイブリッドで、ひとつは2.5L直列4気筒自然吸気エンジンを軸にしたシリーズパラレル式。駆動用と発電用の2つのモーターを持ち、動力分割機構を介して両モーターを最適に制御する仕組みである。1997年の初代プリウス以来、進化を遂げているトヨタ伝統のハイブリッドシステムだ。

もうひとつは「デュアルブーストハイブリッドシステム」と名づけたシステムで、トヨタ車としては初採用となる(6月1日に世界初公開されたレクサスRXに設定がある)。2.4L直列4気筒ターボエンジンと駆動用モーター、6速ATの組み合わせだ。2.5Lハイブリッドシステム、2.4Lターボ・デュアルブーストハイブリッドシステムともに、リヤに高出力モーターを搭載するE-Fourとなる。

レクサスNXとRXが搭載する同じ2.4ℓターボエンジンとデュアルブーストハイブリッドシステムのトランスミッション
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:T24A-FTS
排気量:2393cc
ボア×ストローク:87.5mm×99.5mm
最高出力:272ps(200kW)/6000rpm
最大トルク:460Nm/2000-3000rpm
燃料供給:筒内直接+ポート噴射(D-4ST)

システム最高出力は2.5L版が172kW(234ps)なのに対し、2.4L版は257kW(349ps)、WLTCモード燃費は2.5L版が22.4km/Lで、2.4L版は15.7 km/Lだ。これらの数値から、2.5Lハイブリッドシステムは燃費と走りを両立したシステム、2.4Lターボ・デュアルブーストハイブリッドシステムは、より走りに振ったシステムと推察することができる。

開発を担ったのはBluE Nexus×アイシン×デンソー

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2.4Lターボ・デュアルブーストハイブリッドシステムを構成する「1モーターハイブリッドトランスミッション」(以下、FF1Motor)は、BluE Nexusとアイシン、デンソーの3社が共同で開発した、横置きレイアウト(前輪駆動)用の新しいハイブリッドトランスミッションだ。BluE Nexus(ブルーイーネクサス)は、アイシンとデンソー、トヨタの電動化における強みを結集した、電動駆動モジュールの開発・販売会社である(2019年4月設立)。これら3社は7月22日にオンラインで説明会を実施し、FF1Motorに関する技術について説明した。

FF1Motorはトヨタからの要求をBluE Nexusがティア1(自動車メーカーに直接部品を供給する一次請け)として受け、BluE Nexusからアイシン、デンソー各社に各コンポーネントの要求を提示し、開発を行なったという。アイシンがモーターとトランスミッションの開発を担当。デンソーはインバーターを開発し、それらを一体にしたアッシーをBluE Nexusが担う役割分担としている。デンソーが開発したインバーターとアイシン側のモーター&トランスミッションを合体してアッシーにするのはアイシン(安城第2工場で生産)で、BluE Nexusがアイシンに委託する格好だ。

フロント
「1モーターハイブリッドトランスミッション」
トヨタの呼称は「1ZM型」
ダンパー:乾式高減衰タイプ
発進機構:湿式クラッチ
モーター:最高出力61kW(82.9ps)
     最大トルク292Nm
インバーター:片面冷却パワーモジュール
減速部:6段変速
体格:前後531mm×幅411mm×高571mm

「1モーターハイブリッドトランスミッション」開発のポイント

FF1Motorは最高出力61kWの駆動用モーターと6速AT、発進クラッチ、エンジン切り離しクラッチ、インバーターで構成される。クラッチはどちらも湿式多板だ。開発のポイントはふたつで、「走行性能の向上」と「小型化・搭載性向上」だと説明する。AT(オートマチックトランスミッション)と組み合わせる発進デバイスはトルクコンバーターが一般的だが、流体を介したトルク伝達では狙いとするダイレクト感は実現できないと判断し、湿式多板クラッチを選択した。

背反として発進時にギクシャクした動きが出やすいが、そこは油圧センサーの採用と、そこから得られる情報に基づいてリアルタイムに油圧補正を行なうといった制御技術の磨き込みにより解決しつつ、高い応答性を実現したという。また、6速ATをベースとしたトランスミッションを介してレスポンス良く動力を伝えることにより、ダイレクト感ある走りを実現している。

Direct-shift 6AT。8ATではなくあえて6ATを使う。

織り込み技術 トランスミッション/駆動モーター

アイシンは横置き8速ATも持っているが、6速を選択したのは全長短縮や低コスト化を含め、総合的な判断からだという。ハイ側のギヤ比は8速と同等として、燃費に対する影響を最小限に抑えた。そうなるとロー側が不利になるが、モーターのトルクアシストにより、充分な要求駆動力を確保することができたと説明する。

走行中にエンジン始動を行なう際は、発進用とエンジン切り離し用のふたつのクラッチを協調制御することで、ショックのないスムーズなエンジン始動を実現。変速時は駆動モーターを積極的に活用することで、スムーズさとダイレクト感の両立を図っている。

右の写真の左部分の拡大がこちら
1モーターハイブリッドトランスミッション

小型化に関しては、駆動用モーターの内側(軸側)にふたつのクラッチを収めたのがハイライトだ。2.4L直列4気筒ターボエンジンは200kW(272ps)の最高出力と460Nmの最大トルクを発生する。クラッチの諸元的には460Nmのトルクが難題。大きなトルクを滑らせながら伝えようとすると熱が発生するからだ。この熱の問題を解決するため、高電圧の電動オイルポンプを採用し、大流量潤滑制御によってクリアしたという。

駆動モーターは、コイルエンドの高さを抑えた新開発の同芯カセットステーターを採用。従来は軸方向に配置していた溶接継手を径方向に配置することにより、従来ステーターに対して軸長を約13%低減することに成功した。これを実現するため、新たな生産技術を開発している。ひとつはカセットコイル技術だ。従来はセグメントコイルと呼ぶU字型のコイルを480個円環状に並べる構造だった。新開発のカセットコイルは六角形を複数重ねた3D形状とする成形技術で、これにより溶接箇所が96ヵ所に低減。少なくなった溶接箇所は、軸方向ではなく径方向に配置できるようになった。

従来はセグメントコイルをステーターコアに対して軸方向に組み付けていたが、カセットコイル構造にすると軸方向から組み付けられなくなる。そこで、カセットコイルをコアの内側にあらかじめセットし、径方向に変形(ふくらませる)させながら組み付ける新たな組み付け(=コイル拡張組み付け)技術を開発し、同芯カセットステーターを実現させた。小型化の実現に寄与したブレイクスルー技術といっていい。

織り込み技術 インバーター

インバーターは従来、ブラケットを介してトランスミッションに固定していたが、FF1Motorではダイレクトにボルトで固定することでブラケットやロワーカバー、接続ハーネスを削減し、小型化と低コスト化を図った。また、パワーモジュールはデンソーの特徴である両面冷却ではなく、片面冷却として薄型化を図った。冷却性能よりも(もちろん、必要な性能は担保している)薄型化による車両搭載性を重視した格好だ。

BluE Nexus、アイシン、デンソーそれぞれの強みとノウハウを持ち寄り、小型、高効率、低コスト化を図りながら、新しいプレミアム車両にふさわしい高い走行性能を実現しようと開発したのが、新開発した1モーターハイブリッドトランスミッションである。ちなみに、リヤに搭載するeAxle(イーアクスル)はbZ4X用を転用。bZ4X用のeAxleは最高出力が80kWなのに対し、クラウン・クロスオーバー用が59kWなのは、バッテリー電圧の違いに由来する。

リヤに搭載するeAxle

リヤ eAxle
トヨタの呼称は「1YM型」
モーター:最高出力59kW(80.2ps)
     最大トルク169Nm
インバーター:両面冷却パワーモジュール
減速部:固定ギヤ比
体格:前後444mm×427mm×高303mm

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…