中華まんのような丸みに癒される? きれいな水をその場で大量に作る「浄水セット」地味装備シリーズ②【自衛隊新戦力図鑑|陸上自衛隊】

写真の手前が貯水タンクで、奥のトラックが浄水セットの本体。貯水タンクは水をためて膨らんだときの丸さ具合が愛らしいと思う。
飲料水や生活用水が使えなくなることは現代の日本の普段の暮らしではイメージしにくい。しかし、たとえば戦時下や被災時を生き抜いて生活している状況を想像した場合、どうだろうか? かなりシンドイものであるはず。水は人間にとって必要不可欠なもので、最重要の戦略物資でもある。だから自衛隊は自前の浄水装備を持っている。地味だが重要な装備だ。

TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

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安心・安全な水をスピーディーに

浄水セットとは「あらゆる自然水(淡水)の細菌、化学物質を濾過して飲料水にできる」器材のことを指す。陸上自衛隊の後方支援連隊補給隊などに装備されている、自然水をその場できれいな水にすることができる装備だ。
この装備はシステム化された装置類が1台の3 1/2トントラックに積載されているのが特徴。機動性の高さが光る。

水処理システムは長毛濾過器、限外濾過器、逆浸透濾過器の各種水処理装置からなり、水処理の工程は自動化されている。これらに水を汲み揚げる揚水装置、浄化処理した水を貯める貯水装置を加えたもので浄水セットは展開される。

浄水セットの本体となるトラックには3タイプの濾過器を搭載する。車載型だから高機動で、その走破性を活かして水場に接近可能。高機動性は平時の災害支援などでも光る特性だ。

浄水能力は「3.5トン/1時間」というからスピーディだ。水処理の行程はおよそ次のように行なわれる。
まず取水。小川や湖沼などの取水したい水辺近くの場所(取水点)まで浄水セットの3 1/2トントラックを進入させる。

浄水セットに組み込まれた揚水ポンプで川から取水している状況。画面左下で川面に接しているのが取水口。揚水ポンプは水面からの高さが18mまでなら、1分間に150ℓもの水を汲み揚げる性能だ。

次に構成品で組み込まれた揚水ポンプを使って水を汲み揚げる。汲み揚げた水は積載した各種の濾過器で浄水され、きれいになった水は展張式の貯水タンクに蓄えられる。
貯水タンクは半球型の自立式で、水を溜め込んで膨らむと中華まんのような形になる。貯水容量は5トン/1個だ。

演習時の浄水セット。トラックには幌が装着され、システム全体は迷彩ネット(バラクーダネット)でカモフラージュしている。

貯水タンクや揚水・配水ポンプ以外は、1台の3 1/2トントラックに車載されているので完結性や機動性も高い。トラックの走破性を活かせば地形の良くない取水点にも入って行かれる。
高機動性の点では、3 1/2トントラックならC-130H輸送機に車両ごと搭載可能だから、遠隔地への長距離移動や海外展開も可能な点が注目される。過去にはイラク派遣や東ティモールにも運び込まれ、PKOや人道復興支援などで浄水・給水活動にあたったこともある。

浄水セットなどの装備は陸自の職種でいうと需品科に属する器材で、この需品科や化学科、衛生科などが扱う器材は支援器材と呼ばれる。戦闘職種を支援する職種の装備という意味だ。
災害対応面で見ると、大規模災害時には被災地で直接的に我々国民の避難生活をサポートしてくれる装備となる。被災時には、それらの装備を運用する隊員ともども、頼もしい存在となるはずだ。

貯水タンクから清水を取り出すための配水給水装置を取り付けた状態。清水はポンプで送り出し、配水経路の末端は一般的な水道の蛇口になっていて使いやすい。同時に複数の蛇口から水を使うことができる。
写真左のペットボトルは川から汲み揚げた原水、右は浄水セットで濾過してキレイになった飲料水。飲料水は原水の濁りが消えて雑菌も無い状態。システムは3.5トン/毎時という高い浄水能力を持つ

ウクライナでの戦争は冬を迎えて破壊されたインフラの機能不全が心配される。停電や暖を取れないのは厳しいことだし、水(とくに清潔な水)が使えなくなることは生活のあらゆる面で影響が大きい。
災害時も同様に清潔な飲料水の確保は最優先事項だ。優れた水浄化技術システムを使って、その場できれいな水を作り出す装備が陸自にあるのは安心できる要素だ。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…