【そこが知りたいEVのこと】最終回です! 最後は未来へ向けての提言、お伝えします(3)

各国の状況、欧州は強硬姿勢をどこまで貫けるのか? #そこが知りたいEVのことPART10(3)

これまで9回にわたりEVを中心に環境に配慮したクルマについて取り上げてきたこのコーナーもいよいよ最終回。桃田先生の思いを“本音”で総まとめ!

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よく、テレビのニュース番組などで、海外の国が「20XX年に完全BEV化が決まった」という感じでの資料を紹介した上で「BEVがこれから一気に普及する」とか、「日本はBEV普及で海外に出遅れている」といった形で報道されることがあります。

国が動けば、それに自動車メーカーも従わざるを得ず、そうなればユーザーにとってクルマ選びの選択肢も変わらざるを得ない、という推論から、そうした報道になるのだと思います。

ところが、実態としては、BEV規制が法律として施行されることが確定しているケースは、現時点ではけっして多くはありません。あくまでも、国や地方自治体による政策や方針としてBEVを軸足とした積極的な電動化を目指すという段階であり、これから先に産業界や国民の声によって政策が軌道修正される可能性は十分にあります。

この点を上手く捉えた事業戦略を立てているのが、メルセデス・ベンツでしょう。前述のように「市場の環境が整えば…」という”枕詞(まくらことば)”で表現しているところが、実に巧妙な経営手法だと言えます。

そのメルセデス・ベンツのBEVシフト事業にも大きな影響を与えている行政の政策が、欧州グリーンディール政策です。

欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が2021年4月に「2035年にEU域内で発売するクルマは(事実上)BEVまたはFCVとする」といった内容の方針を打ち出したのです。この前後に、メルセデス・ベンツのほか、アウディ、英国のジャガー、スウェーデンのボルボなどが、2020年代から30年代初頭にかけてのBEV専業メーカーへの転身という大胆な決断を下したのです。 

ところが、2022年に入ってから各方面から聞こえているのは「やはり欧州グリーンディール政策の目標達成は難しいのではないか?」という声です。

繰り返しますが、現状ではあくまでも政策としての方針であり、完全な義務化をしている訳ではありません。今後、現実的な路線に向けた軌道修正が行われる可能性が否定できないのではないでしょうか。

各州の独立性が保たれている、本当にアメリカは変われるのか?

BEVシフトの震源地が欧州であることから、アメリカについてのBEVシフトについては重要視する声が強くなかった印象があります。

ところが、2021年8月のバイデン大統領による自動車の電動化に対する大統領令の発令によって、事態は大きく変わり始めているようです。

これは、“連邦政府の関わり方”という観点で、「ついにアメリカがBEVシフトに本気になった」と捉えている自動車業界関係者が多いということです。

もう少し詳しく見ていきますと、キモは1990年に施行されたカリフォルニア州のZEV法(ゼロエミッションヴィークル規制法)の存在です。

ZEV法は施行後に何度か、その内容が書き改められてきたのですが、基本的にはBEVやFCVを筆頭とする完全なる電動車の普及に向けて、ガソリン車やハイブリッド車での燃費向上と排出ガスの規制を強化する流れでした。

その中で、同州内で新車販売数が一定数に達した自動車メーカーに対して、BEV等の販売台数を義務化してきました。

長年に渡り、こうしたBEV販売台数規制という形で法的に義務化したのはグローバルでZEV法だけでした。

一方で、アメリカ国内では大きな課題が残ってきました。アメリカは、50の州による合衆国のため、法的に各州の独立性が高いのが特徴の国です。ZEV法についても、あくまでもひとつの州の法律なのですが、ZEV法に準拠する州が徐々に増えていく中で、合衆国を取りまとめる連邦政府のEPA(環境局)との考えとZEV法との整合性を取ることが難しくなってきました。これを、一般的にはダブルスタンダードと呼んできました。

ここに最初にメスを入れたのが、あのトランプ大統領です。「(BEV規制を含む)燃費基準は連邦政府の考え方で一本化する」と言い切ったのです。その後、政権は共和党から民主党に移り現在のバイデン政権になり、ZEV法のあり方を考えるという解釈ではなく、今回のような大統領令という形をとったのです。

それによれば「2035年までに新車50%以上を電動化する」としており、この電動化にはBEV、FCV、そしてプラグインハイブリッド車は含めますが、ハイブリッド車は含まれないという解釈です。

この大統領令について、自動車メーカーはもとより、自動車ディーラーやアメリカ国民は「連邦政府による電動化の義務化」として捉えているようです。

そのため、アメリカではテスラだけではなく、トヨタ「bZ4X」やスバル「ソルテラ」など新しく市場参入したBEVの売れ行きがとても好調になっています。

アメリカ市場は、その7割がSUVとピックアップトラックを合わせた「ライトトラック」で占められています。1日の走行距離も多めな生活をする人が多い中で、果たしてアメリカのBEVシフトは今後どのように進むのかを、世界が注目しているところです。

伺い知れない中国の動向、韓国やインド、中東はどうか?

では、アメリカを抜いて世界最大の自動車製造・販売国になった中国市場でのBEVはどうなっていくのでしょう。

中国の電動化については、中国政府によるNEV(新エネルギー車)政策があります。

NEVは、米カリフォルニア州のZEV法をベースに同州政府と中国の国立自動車研究所が共同で開発した法規制です。そのため、NEV政策は一部にZEV法に似た解釈があります。

そのうえで、2010年代後半からNEV政策に加えて、企業平均燃費(CAFE)を合わせたかたちでの厳しい規制が段階的に始まっています。

ただし、そうした規制がいつどのように変わるのかなど、外部からはうかがい知ることが難しいという状況にあります。

中国在住の日系自動車業界関係者によりますと、自動車に関する法律や規制が変わったことが、その施行当日に自動車メーカー側に告知されることは珍しくないとも言います。

そのため、NEV政策が今後どのように進化していくのか正確に予測することは困難なのです。

そのほか、中国でのBEVで気になるのは、中国から海外に向けたBEV完成車の輸出増加です。例えば、テスラ「モデル3」や、今後生産が拡大するアウディ「Q4 e-tron」では、日本市場向けは中国からの輸入に頼る数が増えそうなのです。また、中国地場メーカーのBYDが2023年から日本市場で販売を開始予定です。

中国は2000年代から本格化した経済成長において、自動車産業は国内向けでの地産地消を基本としてきました。それが、中国でのバッテリー製造工場の拡大など、BEV関連部品の中国地場化の強化に伴い、BEV完成車の輸出強化の方向に中国政府として舵を取ったといえるのかもしれません。

欧米、中国、日本、そしてBEV生産国では韓国があります。そのほかの国や地域については、BEV普及の目途はいまのところ経っていません。

ただし、その中で注目されるのはインドでしょう。これまで国策としてBEV強化を打ち出していて、乗用車市場の半数近くを占めるスズキはトヨタと連携してBEVモデルの現地生産を進めています。

インドは電気インフラの整備状況が地域によってかなり大きな差があるため、一概にBEVシフトが全国的に進むとは言い切れないと思います。

ただ、人口では近い将来に中国を抜いて世界第1位になると見られているインドですので、BEVシフトの今後はやはり大いに気になります。

また、オイルマネーで潤ってきた中東でも、複数の地域でいわゆる空飛ぶクルマの実用化なども含め、IT技術を駆使したスマートシティ構想があり、そこにBEVシフトが重なってくることも十分に考えられるでしょう。

著者PROFILE●桃田健史
1962年8月、東京生まれ。日米を拠点に、世界自動車産業をメインに取材執筆活動を行う。インディカー、NASCARなどレーシングドライバーとしての経歴を活かし、レース番組の解説及び海外モーターショーなどのテレビ解説も務める。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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[スタイルワゴン・ドレスアップナビ編集部

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