トルク重視型エンジンはロングストロークだと言われる。右の図はS(ストローク)/B(ボア)比が2、つまりストロークがボアの2倍というエンジンを示す。コンロッドがシリンダーライナーと干渉するギリギリのところで設計されたエンジンだが、ピストンが上死点から下死点まで移動する距離が長いぶんだけ受け取る仕事量が増えると考えていい。当然、エンジン高も高くなり車両搭載性の点で実現が難しい。
一般的にはS / B比が1.0を超えればロングストロークと呼ばれ、1.0を下回るとショートストロークと呼ばれる。最近の傾向では、燃費(つまりCO₂排出抑制)に振ったロングストロークエンジンは1.3程度である。なぜそういうエンジンが燃費型なのかといえば、冷却損失の小ささが理由だ。シリンダー内壁と燃焼室部分の表面積を計算すると、ロングストロークエンジンはショートストロークエンジンよりも小さい。これは、シリンダー壁面から冷却水に奪われる熱量が小さい、つまり熱損失が少ないことを意味する。
ロングストロークエンジンは「トルク型」であると同時に燃費の点でも優位である。近年、市販車エンジンがロングストローク方向を指向している理由はここにある。計算上で冷却損失が最小になるS / Bはどれくらいなのかというと、それは6を超える実現不可能なロングストロークであり、車両搭載性などの落としどころを考えると1.3程度に落ちつく。ロングストローク化はシリンダーブロックを高さ方向に引っ張るため、実用上のロングストローク限界はS / B比2よりもずっと低いところにある。これは将来も変わることはないだろう。
現在、国産メーカーのエンジンでもっともロングストローク型なのは、ホンダのS07B型だ。軽自動車用エンジンである。
排気量 658cc
内径×行程 60.0mm×77.6mm
だから、S/B比は1.293にもなる。
名機で言われて惜しまれつつ生産中止となるスバルの2.0ℓ水平対向4気筒DOHCターボのEJ20型は屈指のショートストローク型で
総排気量(cc):1994
ボア×ストローク(mm):92.0×75.0
だから、S/B比は0.815だった。