エキゾーストシステムの設計はエンジンの出力特性を大きく左右する要素だが、同時に環境性能、そして音・振動にも大きく関わってくる。商品としてのクルマを完成品レベルへ導くためには、これらの相反しがちな要素を高いレベルでバランスさせる必要がある。特に音・振動に関しては、エンジン〜排気系のみで完結するものではなく、車体構造との兼ね合いで検討しなければならない。
車体設計者からすれば、エンジン関連の部品は可能な限り占有スペースを少なくしてもらいたい。特にエンジンコンパートメント内部の「特等地」は、さまざまな重要部品が収められる場所であり、ステアリング系や排気系は「空き地」でなんとかやりくりしてくれるに越したことはない。たとえばユニークなタンクレイアウトを採用するクルマでは、理想とはほど遠い取り回しとせざるをえない。
エンジン設計者から見れば、基本的になるべく太い径のパイプを、なるべくまっすぐに、なるべく長く伸ばせるに越したことはない。もちろん、各気筒独立・直接大気開放の“直管”などという低レベルの話ではない。各シリンダーからの排気による脈動圧力波を積極的に利用しつつ、干渉を抑えて排気効率を高めるためにも、集合部分までの距離はなるべく長く取りたい。しかし、年々シビアになるエミッション要求、特にコールドスタート要件をクリアするためには、触媒を排気ポート直下に配置したい……といった事情は以前に解説した通り(下の記事参照)。
排気抵抗に関しても、低ければいいというものではない。いわゆる実用車としてのカムプロファイルを設定されている車種であれば、いわゆる“抜け”が良いほどバルブオーバーラップ時の掃気効果が高まって燃焼効率が向上する。「“抜け”が良すぎると低速トルクが…」という通説は、だからある程度眉唾だ。逆に、モーターサイクルやそれに近い出力追求型カムプロファイルを持つエンジンでは、“抜け”が良すぎると高回転時の吸気を燃焼室内に留め難くなって出力低下を招くこともある。
エキゾースト・マニフォールドは、これら多岐に渡る要求を高次元でバランスさせることを目的にデザインされる。エキゾーストシステムは全体でひとつの系を構成しており、そのすべてに意味がある。一見しただけでは、いかにも妥協の産物にしか見えない部分があることも多い。しかし、その意図を無視して手を加えると、必ずどこかに悪影響が現れる。部分的に効率が向上したとしても、その影響でトータルの性能が悪化しては無意味もいいところだ。
ここまで読み進めてもらえればいわずもがなの話だが、運用コストまで含めたトータル性能で判断するなら、メーカー純正エキゾーストシステムが「最良の妥協点」かつ「実質上の最適解」である。