今回の実証試験は、CO2回収分野における最先進国の一つであるノルウェーで2021年5月初旬から8月末まで実施された。KS-21の性能確認では、TCM施設内のガスタービンから排出された排ガスに対するCO2回収率の条件を業界標準(約90%)より高い95~98%に設定して試験を行った。その結果、化学吸収法に使用される一般的なアミン吸収液(MEA)を大きく凌駕し、三菱重工既存アミン吸収液(KS-1)をも上回る優れた省エネルギー性能と運用コストの低減、および低いアミンエミッション(注3)を確認した。さらに、運転条件を変更して実施した高CO2回収率試験では世界最高水準となる99.8%の回収率を達成し、大気中に含まれるCO2濃度を下回るレベルまで排ガスからCO2を回収することに成功した。これらの試験は、TCMに隣接するモングスタッド製油所の残油流動接触分解装置からの排ガスに対しても実施され、同様の結果を得ている。
さらに、最先端の設備と専門知識を有するTCMでのKS-21の実証試験において、運転に伴う劣化物の生成量やハンドリングノウハウなどといった、KS-21のさらなる改善・改良に向けた有益な運転データを取得するとともに、環境影響評価という側面において今後の商談に必要となる第三者機関による信頼性の高いエミッション計測結果を取得することができた。今後は、各国で対応を求められる環境アセスメントについての申請や許認可などについてもこれらのデータを活用し、さらなる事業機会の拡大につなげることが可能となる。
三菱重工グループではエナジートランジションの事業強化に戦略的に取り組んでおり、CO2エコシステムの構築はその中の柱の一つである。CO2を回収して貯留や転換利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は、カーボンニュートラル社会を実現するための有効な手段として注目を集めている。また、三菱重工グループでは、MHIA(米国三菱重工業株式会社)が北米における脱炭素事業を担っているのに加え、英国および欧州におけるCCUS関連事業の強化を目的に、MHI-EMEA(欧州・中東・アフリカ三菱重工業株式会社)のロンドン本社に2021年7月1日付で脱炭素事業拠点「DBD(Decarbonization Business Department)」を設置した。
1:TCM:CO2回収技術の進歩に貢献するため2012年に設立された世界最大級のCO2回収実験施設の名称であり、運営社名でもある。隣接する石油精製工場、ガス火力発電所から年間で合計約10万トンのCO2を回収する能力を持ち、費用対効果の高い産業規模のCO2回収の実証試験を行うことが可能。
2:Advanced KM CDR Process: MHIENG(当時、三菱重工)は、1990年から関西電力と共同でCO2回収技術「KM CDR Process」の開発に取り組んでいる。KS-1は現在、KM CDR Processを使用するすべての商業プラントで使用されており、競争力があり信頼性の高い吸収液として選ばれています。一方KS-21は、MHIENGと関西電力が共同でKM CDR Processの改良を続け、新たに開発したものである。KS-21は、KS-1と比べ、さらに揮発性が低く、劣化に対する安定性が高いといった特長を有しており、今後の展開に向けて運用コストの削減など経済性の向上が期待できる。
3:アミンエミッション:吸収塔から大気に放出される微量のアミン物質の値を指し、この数値が低いほど環境影響が少ない優れた技術であることを示す。