モーター&バッテリーが不要。磁力を活用した低コストなフライホイール式ハイブリッド[内燃機関超基礎講座]

ハイブリッドといえばモーターが必須のように思えるが、それらを用いずに機械式ハイブリッドといえる方法で解決を図る。そのユニークな構造をご紹介しよう。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO&ILLUSTRATION:Ricardo Japan

日本で「フライホイール」と聞いてもピンと来ないが、ヨーロッパではイギリスを中心に活発な開発が続いている。公道を走る車両に関しては、政府が出資するプロジェクトで実証実験が進行中。競技車両ではひと足早く実用化が実現し、サーキットを走り回っている(イギリスのウィリアムズ・ハイブリッド・パワー製と、同じくイギリスのフライブリッド製を搭載)。

磁力の作用によって動力を伝える真空密閉容器を、リカルドは「マグネティック・カップリング」と呼ぶ。フライホイールは外界から完全に遮断。アウターローターにはS/N41ペア82個、インナーローターには8ペア16個の永久磁石が敷き詰めてある。よって、変速比は5.125。
アウターローターとインナーローターの間に鉄芯を入れると、アウターとインナーは連れ回りせず、磁力の作用によって反対方向に回転する。フライホイールを回すときは増速、フライホイールが駆動軸に動力を伝えるときは減速になる。

制動時に熱に変換して捨ててしまう運動エネルギーをモーター/ジェネレーターで電気エネルギーに変換し、バッテリーに貯蔵する「電気式ハイブリッド」に対し、「機械式ハイブリッド」は運動エネルギーを運動エネルギーのまま貯蔵するのが特徴。高速回転するフライホイールがエネルギーを貯蔵する。機構がシンプルで低コスト、運動エネルギーを他のエネルギーに変換しないので高効率、パワー密度に優れ、俊敏なレスポンスが期待できる利点がある。


次世代フライホイールが、この項で紹介するフライホイール。従来方式ではエネルギー密度面でリチウムイオンバッテリーに見劣りがしたが、第2世代の性能なら選択する価値はありそう。パワー密度(縦軸)の高さは魅力。

課題はフライホールを収める容器の構造だ。フライホイールを数万回転で回すと、外周部は音速に近づく。そのため、空気が邪魔。損失を減らすために容器内を真空にするのが、機械式ハイブリッドに用いるフライホイールの一般的な構造だ。ただし、構造上、動力を伝達するシャフトを容器に貫通させる必要がある。厳重にシールするのは当然だが、時間の経過とともに空気が容器内に侵入するのは避けられない。容器内を真空に保つためには、ポンプを用いて一定期間ごとに空気を抜く必要がある。容器内の真空状態を監視しながら、オンデマンドでバキュームポンプを作動させる解決法もあるが、スマートなやり方ではない。


フライホイールをを収めた容器を完全密閉し、真空性を確保したのが特徴。動力の伝達は、アウターローター(車軸側)に収めた磁石による磁力と、インナーローター(フライホイール側)に収めた磁力の作用によって行なう。

リカルドが第2世代に位置づけて開発中のフライホイールは、真空容器を動力伝達シャフトから分離したのが特徴。完全密閉状態のため、バキュームポンプは不要だ。

シャフトとフライホイールが接続していないのに、どうやって動力を伝達するかといえば、磁力を利用するのである。しかも、磁力を上手に利用することによって、増速作用を手に入れた。結果、メンテナンスの煩わしさを解消しただけでなく、エネルギー密度とパワー密度の向上を達成。今後の展開が楽しみな仕組みである。

安全率を見込みつつ、現状は6万rpmで使用。高速で回転するフライホイールと駆動系の回転を合わせるため、CVTは必須。実証実験では、イギリスのトロトラック製フルトロイダル式CVTを組み合わせる。さらに、コントロールクラッチで滑らせながら回転を合わせる。
フライホイールを配置する場所は複数が考えられる。イラスト左はトランスミッションと一体化する例。右はデフに組み込む例。乗用車(ジャガーのDプラットフォーム)に適用するKinerstor(キネスター)プロジェクトも進行中。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…