トヨタ、デンソー、豊田中央研究所の3社が共同開発を進めるSiCパワー半導体はHEVの燃費を10%改善する可能性を持つ。SiCのパワー半導体開発でトップランナーを自認するトヨタ陣営。2020年の実用化を目指し、晴れてトヨタ新型MIRAIに採用された。
SiC=シリコン・カーバイドは、シリコンと炭素の化合物でダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、研磨剤や触媒担体などに広く使われている。とはいえ、これは産業用のSiCのことで、トヨタ、デンソー、豊田中央研究所が共同で開発したパワー半導体で使用されるSiCは、高純度・単結晶で生産が非常に難しいタイプだ。
パワー半導体は、HEV(ハイブリッド車)で多数使用されるが、その約25%はPCU(パワーコントロールユニット)で使われている。HEVの心臓部であるPCUは、バッテリーとモーター間で電流を制御する重要なデバイスだ。低燃費を謳うHEVの車両全体の電力損失の約20%がパワー半導体によるものだという。つまり、パワー半導体の効率アップは直接燃費向上に効果があるということだ。
トヨタは初代プリウスからパワー半導体を自社で開発している。このSiCパワー半導体もトヨタグループであるデンソーと豊田中央研究所が1980年代から基礎研究を始め、2007年にトヨタが参加して実用化に向けた技術開発を進めてきたものだ。
SiCパワー半導体は、現在主流のSi(シリコン)パワー半導体より高効率で小型であり、より高周波で駆動できる。トヨタはSiCパワー半導体を使ったPCUをプリウスに搭載した試作車で5%を超える燃費向上を確認した。細かな調整なしで5%もの向上が見られるほどパワー半導体の存在はHEVにとって大きいのだ。将来的には10%の燃費向上を目指すという。先頃発表した内燃機関の進化も考えれば10%以上の燃費向上も可能だろう。PCUの大幅な小型軽量化もHEV開発で大きなメリットを生むはずだ。
パワー半導体の効率がHEVより直接的に燃費(電費)に効くEVに今回開発したSiCパワー半導体を使用すれば「正式に試算はしていませんが、10%どころではない燃費向上があるはずです」(濱田公守氏:トヨタ第3電子開発部・取材当時)という。まさに、バッテリーと並んで自動車の電化でキーになる技術といえる。
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