【モーターファン・イラストレーテッド Vol.136より転載】
ガソリンエンジンにおいては、圧縮した混合気を点火後いかに素早く燃焼させるかが出力・燃費の向上に大きな要素となる。過給機や慣性過給によって、なるべく多くの空気を気筒内に取り入れることも重要であるが、吸気バルブが閉まった後は、気筒内の混合気が流動して空気と燃料がしっかりと混じり合わなくてはならない。特に筒内直噴エンジンは、ポート噴射と比べて空気と燃料の混合の時間的な余裕が少なく、燃料が霧化する前に燃焼が始まれば生焼けのガソリンが煤になり、噴射した燃料のいくらかは無駄になってしまう。
燃料の霧化と空気の混合を促進させるには、気筒内に流体の渦を作って流動を活性化させることが重要なのは以前から知られていた。DOHCが一般化する以前の2バルブ式、特にカウンターフロー(吸気ポートと排気ポートが同一方向)では流入する混合気がシリンダー壁に沿って流れ、クロスフロー2バルブでも吸気ポートにアングルを付けることでシリンダー円周上を横流れの渦・スワール流が発生する。この流れが急速燃焼に貢献する。
2バルブであれば特別な仕掛けがなくとも発生した流れも、DOHC4バルブ+ペントルーフ型燃焼室が標準化すると、ふたつの吸気ポートからの吸気同士が干渉してしまいスワールが期待できなくなった。そのため、吸気ポートからピストン頂部に向けて吸気を導き、その反転によって縦方向の流れ・タンブル流をいかに強く発生させるかが課題となったのである。タンブルはスワールと異なり、ピストンの上昇につれて渦が崩れるタンブル崩壊という現象が起きることから、積極的に流れを強くするために吸気ポートに可変フラップを設けたり、ポートをなるべく真っ直ぐに通す工夫が必要になってきている。昨今の4バルブエンジンのバルブ挟み角がどんどん浅くなっているのは、これが一因である。
ガソリンエンジンではボア壁面付近の燃焼が遅くなるので、その近傍でノッキング発生の危険が高まる。そこで適宜スキッシュが起こるようにピストン冠面形状を工夫し、混合気の流動と乱れを高めて燃焼を促進する。ただしスキッシュの発生量を大きくすると却って燃焼が悪化するため、ディーゼルエンジンよりその適用範囲は限定的となる。