【モーターファン・イラストレーテッド Vol.136より転載】
比熱とは流体の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量で、圧力を一定に保った時の比熱Cpを体積を一定に保った時の比熱Cで割った比率のことを比熱比と呼ぶ。比熱比はオットーサイクルエンジンの性能指標であるPV曲線において、断熱圧縮と断熱膨張、端的には圧力と温度の変化による効率の基幹理論を形成するもので、理論熱効率とは幾何学的圧縮比と比熱比のみで決定される。比熱比が小さい(比熱が大きい)と熱効率が低下する。比熱比は物質の分子量に反比例して小さくなる。空気の主成分である窒素(定常でN2)と酸素(定常でO2)は2原子なのに対し、燃料が燃焼した結果発生するH20やCO2は3原子であり、気化した燃料CxHyは多原子分子で比熱比が小さい。つまりシリンダー内の残留ガスや燃料量を減らして空気量を増やした方が熱効率が上がるということで、ディーゼルエンジンの熱効率がガソリンエンジンより優れるのもこの理屈から導き出される。また、比熱比を上げると断熱圧縮時の圧力変化が大きくなるという側面もある。比熱比は温度が高くなると低下するので燃焼温度を下げることも比熱比の向上に貢献する。EGRは分子量の多いH2OとCO2を取り入れるため、空気に対して比熱比は低下するが、燃焼温度低下の取り分が多ければ効率上見合う、ということになるのだろう。
ガソリンエンジンにおいては空気の量を増やす=希薄燃焼を行なうことが容積比(幾何学的圧縮比)の向上と共に重要であり、それがマツダのSKYACTIV理論の根幹でもある。圧縮比の向上はノッキングという限界があるため、ストイキオメトリーを超えた超リーンバーンこそが、CO2削減要求に対するエンジンの採るべき最良の方策。圧縮比16.3のSPCCIのSKYACTIV-Xエンジンでは、比熱比の向上が成功のカギのひとつとなった。