エンジンの根幹・クランクシャフトの構造はどうなっているか[内燃機関超基礎講座]

ホンダK20C型のクランクシャフト
ピストンが受ける燃焼圧力をコンロッドを介して往復運動から回転運動に変換して動力として取り出す、レシプロエンジンの心臓部であるクランクシャフト。構造上屈曲部が多く、燃焼圧力と慣性力の変動を常に受けるため、強度とともに高い剛性が求められる。

剛性は長さの二乗に反比例するため、クランク長を短くするのが肝要であるが(振動面で最良の直6の唯一ともいえる弱点がクランク長の長さである)、そのためにはコンロッド大端部が取り付くピン部と軸受け部であるジャーナルの幅を狭くする必要がある。ピンとジャーナルの幅を狭くするにはボアピッチという制約があり、またオイルの油膜を保持するために一定量の幅が必要となる。

剛性を上げる手段として、ピンとジャーナルの径を上げる方法もある。クランクのねじれ剛性は、ピン&ジャーナル径の4乗に比例して高くなるので、剛性向上には効果が大きい。ピンとジャーナルはクランクウェブ(アーム)を介してオフセットしているが、両者の径がストローク量に比して小さいと(オフセット大=オーバーラップ小)ウェブにかかるねじり力が相対的に大きくなり、クランク全体の剛性に影響する。かといって径を大きくすると周速が上がってフリクションが増大し、遠心力の増大でクランク内部に入ろうとするオイルの供給を阻害する。また、ピン径はコンロッドの大端部がシリンダーに当たらないように収める必要がある。ピンとジャーナルの径と幅は、燃焼圧力から導き出される軸受メタルの許容圧力から両者の積が決まるが、そのバランスをどこでとるかは、エンジンの形式や出力によって異なる。

クランクウェブの厚さもやはり剛性確保には影響が大きい。ウェブ部にはカウンターウェイトが取り付くため重量が大きく、ボアピッチの制約がここにも反映されるので、厚くすればよいというものでもない。ウェブ厚が泣き所となるのは水平対向エンジンで、対向するシリンダーのオフセットを小さくするため(エンジン長と偶力の発生に影響する)他の形式より薄くしなければならない。従ってクランク単体で見れば全長こそ短いものの水平対向のクランク剛性は低くなる。それを補うためにジャーナル&ピン径は大きくし、強固なクランクケースで両側から挟み込んで支持剛性を上げる必要がある。

スバルFB16のクランクシャフト。クランクウェブはご覧のように極薄。「カミソリクランク」といわれる所以。

V型エンジンでは対向するシリンダーのコンロッド大端部をひとつのピンで共有する。V型のなかでもV6は理論的なバンク角である120°バンクを搭載条件から成立させることが難しいため、共有するピンをオフセットさせる。60°バンクはオフセット量が60°と大きいのでピン間にウェブを挟む。90°バンク(30°オフセット)ならばピンなしでも可能。前者はクランク長が長くなり、後者は剛性面で不利。いずれにせよV6のクランクには構造上の無理が多い。

トヨタ2GR型のクランク。対向する気筒のクランクピンはウェブを介して30度のオフセットを与えられている。

カウンターウェイトはピストンの上下に伴う一次の慣性振動をキャンセルすると同時に、ジャーナルにかかる上下慣性力で微視的にクランクが曲がりメタルが外側に片当たりすることを防止する役割を持つ。また、市販用エンジンでは低周波の加振力を低減して静粛性を上げる目的もある。理論的には慣性力とウェイトが釣り合うように両者のバランス率を100%にすべきだが、そうすると重量が増えるため、典型的な直4エンジンでは50~70%とすることが多い。不足分は他の気筒の加振力を利用して充当することになるので、多気筒エンジンの方がバランス率については有利となる。ただし高回転を多用するレーシングエンジンではバランス率をもっと高める必要性がある。

ウェイトの効果を高めるためにはクランク中心から離れた位置に配置して遠心力を利用する方が効果が高い。最も負荷のかかるピンとジャーナルには応力が集中し、破損のリスクを内包するため、ピン&ジャーナルとウェブの境目には隅Rを付けるほか、R部に加圧ローラーを押しつけて局所的に塑性変形させ圧縮残留応力を付加するフィレットロール加工が施される。

ピンとジャーナルにはオイルを供給するための孔が開けられる。ピンとジャーナルを一直線に貫通するストレートドリル式と油圧低下を防ぐためにT字型ドリル式があり、後者が一般的である。

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