点火プラグの置かれる過酷さ、それを克服する技術[内燃機関超基礎講座]

オットーサイクル:ガソリンエンジンには不可欠なデバイス・点火プラグ。近年は直噴に高圧縮比設計、EGRは含まれリーンガス化、筒内にはタンブルが渦巻き——火を点けるにも一苦労である。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo) FIGURE:日本特殊陶業

日本特殊陶業で点火プラグ開発に携わる技術者諸氏は「混合気に火が点きにくくなった」と語る。「圧縮比が高くなるに連れて筒内圧力も高くなった」ため「火花が飛びにくくなった」と。たとえば、圧縮比10のNA(自然給気)エンジンを圧縮比12にすると、同じ程度の火花を飛ばすために必要な電圧はより大きくなる。「かつては25kV程度だった要求電圧はいま、40kVです」と言う。しかも瞬間的に高い電圧が求められる。だから、電源コイルから供給される電力を電極の先端分に集中させるよう電極の設計を工夫する。それでも、点火プラグ内の中心電極で電圧が上昇すると、先端以外の場所で電気が電極の外に漏れる「貫通」が起きやすくなるから、絶縁体の設計を工夫し貫通が起きにくくしなければならない。

どのように火花を飛ばすかは「自動車メーカーによって、あるいはエンジンによって考え方が違う」と言う。短時間にエネルギーを集中して着火機会をつくるか、それとも点火時間を長くするか、だ。この性格付けによって電極形状が変わり、電極が摩耗するプロセスも変わってくる。すべての点火プラグに共通する設計術と言えば、摩耗をできるだけ小さく、同時に燃料中のC(炭素)が「燃えかす」となって電極周辺に付着する度合いもできるだけ小さく、という部分である。

近年の傾向について尋ねると「点火プラグの細軸化」という答えが返ってきた。試作品を見せていただくと、たしかに細い。

「燃焼室設計と深くかかわりがあります。燃焼室の中央、いわば特等席に点火プラグは配置されます。火炎の形成にとって最適な位置だからですが、その周囲には吸気/排気バルブがあります。点火プラグが太いとバルブ挟み角は大きくなってしまいます。それと、点火プラグまわりの冷却です。できるだけ水路を燃焼室に近付けるため、点火プラグは徐々に細くなってきました。細くすることがエンジン側からの要求だったのです」

かつてのネジ径14mmから12mm径へ、現在では10mm径も出現し、さらに10mm以下への挑戦が行なわれている。ボア径が65mm程度で冷却損失の点で厳しい軽自動車エンジンは極細点火プラグを欲しがるだろう。ボア径が80mm以上あっても、現在より点火プラグ径が2mm細くなれば、冷却水の通路をさらに燃焼室へと近付けることができる。

「2輪車用では昔から8mm径がありますが、いまのダウンサイジング直噴過給エンジンには使えません。要求電圧の低い2輪車の製品をそのままいまのクルマに流用することはできません。細くしたうえで高い要求電圧に耐えるスパークプラグ。そういう開発です」

いまや、点火プラグの仕様は「エンジンごとに異なります」と、担当技術者は語る。たとえば、シリンダー内に吸い込んだ空気に強い縦渦(タンブル)を発生させて燃焼速度を速める設計では、電極に火花が発生しても「吹き消されてしまう」という。そのため高エネルギー化したり多重点火したりという手段で確実な着火をねらうようになった。着火性は火炎の成長に直接影響するから、とにかく確実に遅れなく着火させなければならないのだ。

「それと、意外に効果があるのは点火プラグ先端の電極の向きをそろえることです。3気筒でも4気筒でも、全気筒で同じ向きに点火プラグが位置するよう、シリンダーヘッド側のプラグホールのねじの切り始めをそろえてもらっています。点火プラグ側もネジ溝の切り方はそろえてありますから、自動組み付けを行なっても全気筒の点火プラグの向きがピタリをそろうようになります。点火プラグの電極形状の性能差もさることながら、向きをそろえることでさらに燃焼は良くなります」

では、将来の点火プラグはどういう設計になるのだろうか。ひとつの回答はプラズマ点火である。高エネルギーの溶融プラズマ状態を燃焼室内に作り、着火させる方法だ。すでにいろいろな研究発表がある。

「通常は1000分の3秒で火炎を成長させるところを1000分の1秒にできます。時間は3分の1になります。しかし、均一な混合気が生成されていなければノッキングは起きます。点火プラグだけで解決できる燃焼改善の領域ではありません。もちろん、うまくできれば相当に燃料がリーン(希薄)な状態でも燃焼させることができます」

こういう新しい点火方式の登場は、意外と早いのかもしれない。

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