【海外技術情報】フラウンホーファー研究所:人工知能を使用して制御される信号機が、交通流の最適化と歩行者の安全性の向上に貢献する

The “KI4LSA” project aims to provide smart, predictive traffic light changing using artificial intelligence. Highresolution cameras and radar sensors gather detailed traffic information.
都市部の交通規制が適用されているヨーロッパと言えども、各地で道路は慢性的に混雑しており、交差点では際限なく車列が並んでいる。特にラッシュアワーでは長い渋滞が起こり勝ちである。そこでフラウンホーファー研究所では、『KI4LSA』および『KI4PED』プロジェクトの一環として、スマート信号制御に人工知能を使用して、この問題の解決に挑戦している。新しいセンサーと組み合わせた自己学習アルゴリズムにより、交差点での歩行者の安全性を向上させつつ交通の流れを改善して、待ち時間を短縮するのが狙いである。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

フラウンホーファー研究所の研究チームは、人工知能を使用してスマートで予測的な光の切り替えを可能にする『KI4LSA』プロジェクトにより、慢性的に交通渋滞が発生する状況を変えようとしている。従来の信号機はルールベースで制御されている。この厳格なアプローチは、すべての交通状況で機能するわけではない。さらに、現在使用されているセンサー(路面に埋め込まれた誘導ループ技術)は、実際の交通状況の大まかな状況しか提供していない。そこでフラウンホーファー研究所の研究者は、従来のセンサーの代わりに、高解像度のカメラとレーダーセンサーを使用して、実際の交通状況をより正確にキャプチャしている。これにより交差点で待機している車両の数をリアルタイムで正確に認識できる。このテクノロジーは、車の平均速度と待機時間も検出する。リアルタイムセンサーは、通常の厳格な制御ルールに代わる人工知能と組み合わされている。AIは深層強化学習(DRL)アルゴリズムを使用している。複雑な制御問題に対するインテリジェントな解決策を見つけることに焦点を当てた機械学習の方法である。プロジェクトマネージャーのアーサー・ミュラー氏は、このDRLアプローチについて以下のように説明した。

「テストが行われているレムゴーの交差点で現実的なシミュレーションを構築して、このモデル内で数え切れないほどの反復でAIをトレーニングしました。シミュレーションを実行する前に、ラッシュアワー中に測定された交通量をモデルに追加して、AIが実際のデータを処理できるようにしました。そして深層強化学習を使用してトレーニングしました。これは照明制御を表すニューラルネットワークです」

このようにトレーニングされたアルゴリズムは、信号機の最適なスイッチング動作と最適なフェーズシーケンスを計算することで、交差点での待機時間を短縮して、それは移動時間を短縮して、そのうえ騒音とCO2排出量を削減する。AIアルゴリズムは交差点のコントロールボックスにあるエッジコンピューターで実行される。AIアルゴリズムを使用することで得られる利点の1つは、より広いネットワークを形成する隣接するライトを含める際にスケールアップしやすいことである。

スケールアップすることで、より大きな効果が得られる

インテリジェントライトを備えた混雑したレムゴーの交差点で実行されたシミュレーションフェーズでは、人工知能を使用すると交通流を10〜15%改善できることが実証された。今後数ヵ月にわたり、さらに評価するために街頭に出て行く。このテストでは、騒音公害やCO2排出量などのパラメータに対する交通指標の影響も考慮される。「現実とシミュレーションとのギャップ」には課題が残されている。

「シミュレーションで使用された交通行動に関する仮定は、必ずしも現実を表したものではありません。それに応じて調整する必要があります」とミュラー氏は語る。「これが成功すればスケールアップ効果は非常に大きなものとなります。レムゴーのような小さな町でも、信号機の数が多いことを考えてみてください」

EUは交通渋滞が加盟国に年間合計1,000億ユーロもの経済的損害をもたらしていると推定している。ミュラー氏によれば、AI信号機は既存のインフラを流用することで、効率的に使用できる。

「私たちは実際の条件下で信号機制御のための深層強化学習をテストした世界で最初のチームとなりました。私たちのプロジェクトが他の人々に同様の取り組みを促すことを願っています」

歩行者のためのインテリジェント信号システム

The “KI4PED” project focuses on pedestrians rather than vehicles. People are detected and tracked using LiDAR sensor data and AI.

『KI4PED』プロジェクトでは、実は車両ではなく歩行者に焦点を当てている。2022年7月末まで行われるプロジェクトでは、歩行者のニーズに基づいた信号制御を開発している。これは高齢者や障害者といった弱い立場にある人々にとって特に有益である。必要に応じて横断時間を長くすることで、待ち時間を短縮したり、横断歩道の安全性を向上させることができる。研究によると、現在の歩行者のために確保された時間は、これらの人々にとっては短すぎる。現在使用されているボタンは小さな黄色のボックスにあり、交差点の数や歩行者の年齢、その他のニーズに関する情報を提供することはない。プロジェクトでは、AIを高解像度のLiDARセンサーと組み合わせて使用してプロセスを自動化して、歩行者のニーズに応じて交差時間を自動調節することを目指している。AIはLiDARセンサーから得られたデータに基づいて人物の検出と追跡とを実行して、それを組み込み、システムにリアルタイムで適用する。

プロジェクトマネージャーのデニス。スプライト博士は以下のように説明した。

「データ保護の目的で、カメラベースのシステムではなくLiDARセンサーを使用しています。これらは歩行者を3D点群として提示します。つまり歩行者を個別に識別することはありません」

 LiDARセンサー(光検出および測距)は、パルス光波を周囲に放出する。これは近くの物体に当たって跳ね返りセンサーに戻る。センサーはライトが戻るまでにかかる時間を測定して、ライトがオブジェクト(人物)まで移動した距離を計算する。ここで使われるセンサーは光、反射、天候の影響に左右されない性能を有している。交差点での最適な位置と配置を決定するために、実現可能性調査が実施される。AIアルゴリズムは最初にレムゴーとビーレフェルトの2つの信号交差点で1週間トレーニングされる。 この研究において、個々の状況に合わせたニーズに基づいた制御コンセプトを使用することで、待機する人が多い場合の待機時間を30%短縮しようとしている。また、信号無視や交通規則違反の道路横断件数を約25%削減することも目指している

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著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…