80年代初頭に流行していた1リッターカーブーム。ダイハツはそこに、小型車シャレードに搭載する3気筒1ℓディーゼルエンジンを投入する。なぜ3気筒かといえば、当時ダイハツが持っていた3気筒1.0ℓガソリンエンジンをベースに開発が進められたから。エンジニアの津戸直氏は当時、「最初はもちろん、ガソリン・ベースですから耐久性に問題がありましたが、その後チューニングをいろいろしまして、出力面では驚くほどのパワーが出たのです」と説明している。
ご存じ、ディーゼルエンジンは後混合圧縮自着火で運転する。小排気量であれば燃料噴射量も少ないので微量噴射制御が難しい(当時はもちろんコモンレールシステムはなく、分配型ポンプ)。噴いた燃料が壁面付着しやすく、PMの原因となる。大排気量エンジンに対して相対的に燃焼室容積が大きく、冷却損失を招く——などのデメリットを補完する手段として、4気筒よりも単筒容積が大きくできる3気筒という形式が結果として吉と出た。当然、バルブトレインがワンセット減らせることによる小型軽量化のメリットも大きい。何せ、当時のディーゼルエンジンの圧縮比といえば20を超えるものが普通で、それだけエンジン本体も頑丈に作らなければならない。省気筒化設計は、シャレードのような小型車には必要不可欠だったのだろう。
結果として、ガソリンエンジンとの部品共通化は約20%、さらに生産設備の60%以上を共通化することができた。
燃料噴射システムは先述のように分配型、ガソリンエンジンのディストリビュータのような仕組みと働きである。最高噴射圧は12MPaであった。燃焼室形状は副室式。渦流室内に燃料を噴射してその小さな空間でまず着火させ、主室の空気を巻き込んで燃焼していくという仕組みで、現在主流(自動車用としては全数)の直接燃焼室に対して、燃焼時の最高圧力が低くできることから振動騒音性能に優れるとされていた。噴射圧を低くすることができたのも当時はメリットだった。
全開全負荷ならば「パワーが出た」小排気量ディーゼルエンジンだったが、悩みは噴射量の少ない領域での安定した燃焼だった。ダイハツはこれを実現するために、噴射ノズル先端に「ダイヤカット・ノズル」と称する工夫を凝らす。ノズル先端のニードルと本体との間はできるだけ狭くしたいが、そうするとカーボンなどの堆積で詰まりを起こしてしまう。そこでニードル先端の両側を削り落とし本体とのクリアランスを確保、堆積を防ぎながら微量噴射と両立させた。これにより、アイドルから軽負荷域での安定運転を実現させている。
ブロックは鋳鉄材でライナーレス。ガソリンエンジン由来の設計だが、ブロック長(高さ)は10mm長くなった。一方でクランクシャフトはガソリン用と共通の設計とし、ディーゼル適合のためにピストンピン径を3mm増やし21mmとした。ピストンは副室式渦流型のため浅皿形状。
カムトレーンはOHC直打式で、吸排気バルブが一列に並ぶレイアウト。バルブ径は吸気36mm/排気32mmだった。3気筒ゆえに吸排気の干渉は生じない。あまりに燃費が優れていたために『モーターファン』のロードテスト座談会においてジャーナリスト陣は舌を巻いている一方で、高速時のパワー不足を指摘。もう少し高回転まで回せるようにしてはという提案に対して、前掲の津戸氏は「もともと6気筒用を3気筒化させているわけですが、カムが6個あります。そのへんの回転限度でいまの回転数に抑えられているわけです」と、燃料ポンプの課題を挙げている。当時はターボ全盛期で、当然ダイハツもターボ化の検討は進めていたようだ。
■ CL-10
形式:直列3気筒SOHCディーゼル
総排気量:993cc
ボア×ストローク:76.0×73.0mm
圧縮比:21.5
最高出力:38ps/4800rpm
最大トルク:6.3kgfm/3500rpm
過給の種類:自然吸気
(シャレード)