トヨタの連続可変リフト機構「VALVEMATIC」平行移動とスプライン構造を組み合わせたシステム[内燃機関超基礎講座]

2007年6月発表・発売のR70系ノア/ヴォクシー搭載の3ZR-FAE型エンジンで初採用となった連続可変バルブリフト機構がトヨタのバルブマチック(VALVEMATIC)。同系列の排気量バリエーション1ZR-FAE型、2ZR-FAE型にも搭載され、搭載車種も拡大していったが……。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

バルブマチックのロストモーションの発生は、回転カムフォロワー(カムロブとロッカーアームの間で動力を伝達する部位)の位置を動かすことで実現するタイプ。構成要素はステッピングモーター、コントロールシャフト(揺動カムシャフト)、スライダーギヤ、ローラーアームと揺動カムで構成する揺動アーム。回転カムとコントロールシャフトを平行に配置することで、エンジン全高に影響することなく連続可変バルブリフトを実現する点が特徴。カムキャリアから下は既存のエンジンに変更を加えることなく搭載できることもメリットとしてあげられる。

ただし、機構と作動は少々複雑。また、気筒ごとのリフト量のばらつきを管理するコントロールシャフトのピン位置精度が非常に重要な要素となっている。

回転カムフォロワーの位置と働きを示す概念図。イラストはバルブマチックではないのでご注意。(ILLUST:熊谷敏直)
入力部。奥側のカムシャフトが吸気側回転カムで、さらに奥にあるのが揺動アーム(ローラーアーム+揺動カム)。回転カムの山に対峙している部分がローラーアーム、その左右が揺動カム部だ。
可変部。手前にある外周部にスプラインを切った部品がスライダーギヤ。中央部のスプラインがすぐ左にあるローラーアーム内周部のスプラインと、左右のスプラインはいちばん奥に写る揺動カムの内周部と噛み合っている。

98ステップ/回転の分解能を持つステッピングモーターの回転によってコントロールシャフト(揺動カムシャフト)が回転すると、同軸上に置かれているスライダーギヤも回転する。スライダーギヤには斜め方向のスプラインが切られていて、回転カムが直接作用する、つまり回転カムフォロワーであるローラーアームならびに揺動カム内周部のスプラインと噛みあっている。

コントロールシャフトが回転することで揺動アーム全体が横方向に動き、その動きにともなってローラーアームに対する揺動カムの角度が変化することで、バルブリフト量を変化させる。コントロールシャフトと揺動アームの位置決めにはガイド用のピンを用い、これがリフト量の管理に大きく影響する。バルブタイミングを変化させる機能は持たないので、現状のバルブマチック採用エンジンはすべて連続可変バルブタイミング機構のVVT-iと組み合わせている。

(上)低リフト状態
ステッピングモーターの回転によってコントロールシャフトがイラストの奥側いっぱいまで回転している状態では、スライダーギヤも奥側に位置している。この状態ではローラーアームと揺動カムの角度差が最小となるようにスプラインの角度が設定されており、回転カムがローラーアームを押し下げた量と近い大きさで揺動カムがローラーロッカーアームを押し下げるため、バルブリフト量が小さくなる。構造的にはゼロリフトも可能だが、現状では最小リフトを1mmに設定している。

(下)高リフト状態
ステッピングモーターが回転するのにともなってコントロールシャフトが回転すると、スライダーギヤはイラストの手前側に移動してくる。スライダーギヤとローラーアーム内周部のスプライン、スライダーギヤと揺動カム内周部のスプラインはそれぞれ角度が異なっており、スライダーギヤが手前に来るほど揺動カムが進角する方向に角度差が大きくなることで、リフト量が増大していく。左右バルブ間でのリフト量のばらつき調整は、ローラーアームと揺動カムの間に入れるシムで調整している。

このように複雑な吸気バルブの制御で絞り損失の低減を図ったバルブマチックだが、ここ最近は外部EGRと吸気バルブ遅閉じミラーサイクルで同様の効果が実現できるために採用するエンジンは減少することになった。

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