NEDO: キラー欠陥を従来の10分の1に低減した第3世代酸化ガリウム100mmエピウエハーの開発に成功

図1 第3世代β-Ga2O3100mmエピウエハーを用いて試作したショットキーバリアダイオード 最大のチップサイズは10mm×10mm
NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において「β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」に取り組むノベルクリスタルテクノロジーは、このたび佐賀大学と共同で第3世代酸化ガリウム100mmエピウエハーを開発した。本開発では、エピウエハー製造技術を改良し、酸化ガリウムパワーデバイスの大電流化を阻害していた耐圧特性を劣化させる欠陥(キラー欠陥)を従来の10分の1に低減させた。

本開発の成果により、電車や産業機器、電気自動車などの100A級のパワーデバイスが求められる市場に酸化ガリウムパワーデバイスを広く展開することが可能となり、省エネルギー化とともにカーボンニュートラルの実現に向けた大きな前進が期待できる。

1.概要

酸化ガリウム(β-Ga2O3)は、電力損失の小さいパワーデバイスを低コストで実現できる新材料として注目を集めている。パワーデバイスは家電や自動車、電車、産業用機器などあらゆる電気機器の中で、電圧や電流を制御するために使われている。従来のパワーデバイスはシリコンを使って作られてきたが、電力制御の際の電力損失の発生が課題であった。その損失の低減のために、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を材料としたパワーデバイスの開発が進められているが、β-Ga2O3を使うことで、さらに電力損失を小さくし、電気機器の消費電力を削減することができる。また、SiCやGaNより高速な製造手法を用いることができるため、低コスト化が期待できる。このため現在国内外において、β-Ga2O3パワーデバイスの早期実用化に向けた研究開発が進んでいる。

こうしたなか、ノベルクリスタルテクノロジーは佐賀大学と共同で、NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において、β-Ga2O3パワーデバイスの製品化を目指す「β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」に取り組んできた。今回、β-Ga2O3のエピウエハー※1製造技術を改良することにより、デバイスの耐圧特性を劣化させる欠陥(キラー欠陥※2)を従来の10分の1まで低減させた第3世代β-Ga2O3100mmエピウエハーの開発に成功し、300A~500A級の大型酸化ガリウムショットキーバリアダイオード※3を試作した(図1)。これを活用することで、電気自動車などの100A級のパワーデバイスが求められる広い市場へ、β-Ga2O3パワーデバイスの展開が可能となる。これにより、2030年代におけるその省エネルギー効果は原油換算で年間10万kL以上にもなり、省エネルギー化とともに2050年カーボンニュートラル実現に向けた大きな前進が期待される。

2.今回の成果

ノベルクリスタルテクノロジーではすでにβ-Ga2O3エピウエハーを100mmまでスケールアップしたエピ成膜装置を開発※4し、第2世代β-Ga2O3100mmエピウエハーとして製造・販売を行ってきた。しかし、この100mmエピウエハーにはデバイスの耐圧特性を劣化させるキラー欠陥が10個/cm2程度存在するため、大型のデバイスを作ることができず、電流値は10A程度に制限されていた。この課題の解消を目指して、佐賀大学との共同研究により、キラー欠陥の原因が主にエピ成膜中に発生する特定の粉体であることを突き止めた。そして、エピ成膜条件を改良することにより、キラー欠陥を従来の10分の1以下の0.7個/cm2まで低減した第3世代β-Ga2O3100mmエピウエハーを実現した。

【1】膜厚およびドナー濃度の面内分布の検証

最初に、改良した条件で作製した第3世代β-Ga2O3100mmエピウエハーの膜厚分布と、ドナー濃度※5の分布を調べた。結果を図2に示す。パワーデバイス用のエピウエハーには、キラー欠陥の密度だけでなく、膜厚およびドナー濃度の高い均一性が求められる。エピウエハー面内9点の膜厚分布とドナー濃度分布を測定したところ、それぞれ10μm±5%程度、1×1016cm-3±7%程度と非常に小さく、パワーデバイス用として問題ないうえ、第2世代エピウエハーのおよそ7分の1に改善していることが明らかになった。

図2 第3世代β-Ga2O3100mmエピウエハーの(a)膜厚分布と(b)ドナー濃度分布

【2】キラー欠陥密度の検証

つぎに本エピウエハー上にβ-Ga2O3ショットキーバリアダイオード(図1)を試作し、電気特性とキラー欠陥密度を評価した。図1に示したウエハー表面の複数の電極パターンの中で、一番大きいものが今回の評価に用いた10mm×10mmのβ-Ga2O3ショットキーバリアダイオードである。これらのダイオードの電流‐電圧特性を示したものが図3。図3(a)の順方向特性を見ると、電流は0.8V程度から流れ始めて一定に上昇しており、正常な順方向特性が得られていることが分かる。最大電流値は50Aとなっているが、これは測定に用いた機器(プローバ)の制限によるもので、本デバイスは最大で300A~500A流すことが可能。次に図3(b)の逆方向特性を見ると、200V程度加えてもリーク電流は10-7A程度に抑制することができている。今後、デバイスに電極終端構造※6を設けることで、600V~1200V程度の耐圧が得られると推定される。

試作した10mm×10mmのβ-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの逆方向特性歩留まりは51%であり、その値と今回実証に用いた電極サイズから、キラー欠陥密度は0.7個/cm2程度と推定された。これは、100A級のβ-Ga2O3パワーデバイスを、80%程度の歩留まりで製造可能なことを意味している。

図3 ショットキーバリアダイオードの(a)順方向と(b)逆方向の電流‐電圧特性

3.今後の予定

ノベルクリスタルテクノロジーは新開発した第3世代β-Ga2O3100mmエピウエハーの製造ラインを構築し、早期に販売を開始する。今後、ドナー濃度および膜厚の指定範囲の拡大を進めるともに、キラー欠陥のさらなる低減と大口径化に取り組んでいく。また、NEDO事業において同社はすでに、トレンチ構造※7を導入した1200V耐圧の電力損失が小さいβ-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの実証にも成功※8しており、今後、本開発製品を用いた1200V耐圧トレンチ型ショットキーバリアダイオードの量産技術の構築を進めていく。

NEDOは本技術開発をはじめ、今後も経済成長と両立する持続可能な省エネルギーの実現を目指し、「省エネルギー技術戦略」で掲げるエネルギー・産業・民生(家庭・業務)・運輸部門などにおける重要技術を中心に、2030年には高い省エネ効果が見込まれる技術について、事業化までシームレスに技術開発を支援する。

※1 エピウエハー 単結晶基板上に結晶膜が形成されたウエハーをいう。主に結晶膜に機能を持たせるため、結晶膜の品質が重要となる。
※2 キラー欠陥 デバイスに重大な特性不良を発生させる欠陥の総称。結晶の不完全性に起因する欠陥や、ウエハー表面の研磨傷、デバイスプロセス不良などがキラー欠陥になり得る。大型(大電流)の素子を高歩留まりで製造するためには、キラー欠陥の密度を低減することが重要。
※3 ショットキーバリアダイオード ショットキー電極と半導体との接合によって生じる電位障壁を利用したダイオード。低い順方向電圧と、低スイッチング損失を特長としている。
※4 β-Ga2O3エピウエハーを100mmまでスケールアップしたエピ成膜装置を開発
参考:(株)ノベルクリスタルテクノロジーリリース(2021年6月16日)「別ウィンドウが開きます高品質 β 型酸化ガリウム 100 mm エピウエハの開発に成功
※5 ドナー濃度 半導体中に添加された、電子を生成する能力を持った不純物原子の濃度。ドナー濃度で半導体デバイスの耐圧が決まるため、高い均一性と制御性が求められる。
※6 電極終端構造 オフ状態の半導体デバイスでは、電極の端部に最も電界が集中する。その電界集中を緩和して、耐圧を向上させるために用いられるのが電極終端構造になる。一般的に、フィールドプレート構造、ガードリング構造などが存在する。
※7 トレンチ構造 エッチング技術により半導体表面に形成された溝構造。
※8 1200V耐圧の低損失β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの実証にも成功
参考:NEDOリリース(2021年12月24日)「サイト内リンク世界初、アンペア級・1200V耐圧の「酸化ガリウムショットキーバリアダイオード」を開発

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