日立金属:リチウムイオン電池向けに温室効果ガス排出量削減に貢献する正極材技術を開発

日立金属は、正極材でのコバルト(Co)使用量を削減しても、リチウムイオン電池(LIB)の長寿命化、高容量化を両立できる技術を開発した。この開発により、Co原料由来の温室効果ガス(GHG)の排出量削減が可能となる。また、正極材原材料の選択肢を増加させる製造技術も、このたび新たに開発した。

1.背景

LIBは、エネルギー密度が高く、小型軽量化が可能な特長があるため、携帯機器をはじめハイブリッド自動車や電気自動車など幅広い分野で使われており、今後は特に電気自動車向けの需要が急速に拡大することが見込まれている。

電気自動車が広く普及していくためには、航続距離と総走行距離を延伸することが重要で、その鍵となるのが、LIBの高容量化と長寿命化を両立する正極材である。車載向けのLIBには、正極材として高容量かつ長寿命を実現できる三元系層状材料※1 を用いるのが一般的だった。また、高容量化のため、主要元素であるニッケル(Ni)の含有比率を高め、挿入脱離※2 できるリチウムイオン量を増大させる手法もある。しかし、Niの含有比率が高まることにより充放電サイクル耐性の低下を招き、電池寿命が低下する課題があった。さらに、正極材の主要成分として必要なCoは、貴重な資源との位置付けにあるだけではなく、Co原料由来のGHG排出量が極めて多い点も、LIB製造におけるGHG排出量を増加させる要因として課題となっている。

2.概要

今回、日立金属が開発したLIB用正極材技術は、粉末冶金技術を駆使した独自の固相反応法※3 を用いて合成され、次の2点の特長が得られる。

(1) 組織制御による高容量化と長寿命化の両立
(2) 原材料の選択肢増加

組織制御技術により、充放電サイクルに伴う結晶構造の劣化を抑制することに成功し、80%ほどが一般的であった Ni の含有量を 90%まで高めて高容量化しても電池寿命を維持できるようになった。そして、結晶構造を安定化させる特性を持ち、正極材に必要不可欠なCoの含有量を、日立金属従来品対比で8割削減することが可能となった。加えて、正極材の製法として水溶性物質以外を使用できる固相反応法を用いることで、出発原料※4の選択肢が増加し、原材料由来のGHG排出量を削減することが可能。

なお、本開発技術は、5月25日からパシフィコ横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展2022」にて出展紹介予定。

正極材の電気化学特性(赤色部分が当開発技術)

※1 三元系層状材料:Ni、Co、Mn、Alを主成分とする層状構造の材料。例:NCM(Ni, Co, Mnによるもの)、NCA(Ni, Co, Alによるもの)など
※2 挿入脱離:LIBの電気発生の仕組みにおけるリチウムイオンの動き。充電時は正極材から脱離し負極材へ挿入され、逆に放電時は負極材から脱離し正極材へ挿入する動き。
※3 固相反応法:粉末冶金技術をベースにしている製法で、構成元素のリチウムや金属を含む原料粉末を粉砕混合して造粒後に焼成して反応させる方法。一般的な製法では粉砕混合や造粒はせず、前駆体と呼ばれる金属の水酸化物粒子を化学的に合成した後、リチウム原料粉と混合して焼成する。
※4 出発原料:化合物(正極材)の生成時に最初の化学反応で必要な出発点となる原料のこと。

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