トヨタ・タンドラの10速ハイブリッドトランスアクスル

アイシンが新たに市場投入した10速ハイブリッドトランスアクスルユニットは、トヨタ・新型タンドラに搭載されている。北米市場でのフルサイズピックアップトラックは、キャンピングカーやボートの牽引をこなす。牽引時の走行安定性とパワートレーンのレスポンスは商品力に欠かせない。この新型ユニットについて、アイシンの技術陣に話をうかがった。
TEXT&PHOTO:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)

モーターファン・イラストレーテッド vol.188より一部転載

 北米市場でトヨタの新しいHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)が発売された。フルサイズのピックアップトラック(PUT)「タンドラ」である。電気モーターを内蔵する10速ATはトヨタとアイシンの共同開発。組み合わせるICE(内燃エンジン)は従来のV8から水冷インタークーラー装備のV6ツインターボに変更され、最大トルクは790Nmになった。

 2000年に初代モデルが発売されたタンドラは北米専用モデルだ。日本には導入されていないものの、並行輸入車が持ち込まれ熱狂的ファンを持つ。2022年モデルで3代目となり、初めてHEVが設定された。従来型は6ATを使っていたが、新型は10AT。しかも同じ骨格設計の10ATを2種作り分けている。トヨタ/アイシンは2017年にレクサスLS500/LC500用の10速ATを新しいギヤトレーンで作った。タフな商用車としては2021年にランドクルーザー300/レクサスLX用の10速が上市された。後者をベースにタンドラ用の10ATは設計された。

「2017年に10速ATを完成させたとき、すでに次の企画として1モーターハイブリッドが控えていることはわかっていた。しかし、PUTはラダーフレームを持った商用車であり、耐久要件は乗用車よりはるかに厳しい。耐久時間は約2倍。重量物の牽引や除雪作業などATにとって厳しい使用状態にも耐えないといけない」

 そう。北米市場でのPUTはボートやキャンピングカーなど重量物のトーイング(牽引)が必須である。それと、車体前面にドーザーブレードを取り付け除雪や土木工事にも使われる。そういう作業では、前進1/2速とR(後進)を頻繁に切り替え、低速かつ高負荷で延々と使われる。ATにとっては、遊星ギヤ変速用のクラッチ/ブレーキといった摩擦材が酷使される。PUT用ATの難しさがそこにある。

(PHOTO:TOYOTA)

「タンドラの純ICE用10速ATはトルク容量600Nm、HEV用は790Nm。790Nmに合わせて600Nm仕様を作ると、そのぶんコストがかかる。そこで、790Nmのハイブリッド用は遊星ギヤの熱処理追加やシャフトへのショットピーニング加工追加などで対応した。600Nm仕様と790Nm仕様でなるべく同じ部品を使うためだ。もっとも、それまでの10速に対しては、部品をほぼ刷新しなければならなかった」

 写真でわかるように、10速AT本体の前に電気モーターがある。ICE/クラッチ/モーター/トルクコンバーター/ATという配置だ。当然、モーターのぶんだけ全長が長い。

「だからAT本体の長さは抑えたかった。短くして変速機としての剛性を高めたい。そのため既存の10速ATに対し、前側にある遊星ギヤ変速用のブレーキを遊星ギヤの外側に移動し、入力トルクを確保しながらこの部分の長さを削った。径方向には少し太くなったが、全長は短くできた。ブレーキの配置を変えれば油圧回路もかわるし、油圧装置も変わる。これらは再設計になった」

 いっぽう、3代目タンドラの商品コンセプトは「プレミアム・トーイングマシーン」になった。車両骨格としてはラダーフレームを持つ商用車という位置付けだが、タンドラはフルサイズのプレミアムPUTである。

「3代目はプレミアム性にさらに磨きをかけ、トーイング性能は最大1万1450ポンド(約4.5トン)とした。4.5トンを引っ張るとなるとATとしては熱が厳しい。スムースに発進させ加減速もスムースに行なうとなるとトルクコンバーターは必須だ。トルコンが入ると熱はさらに厳しいが、プレミアム性のためにはスムースさを犠牲にはできない。モーターの立ち上がりトルクだけで牽引するとなると大きなモーターが要るし、大電力による熱も出る。そう考えると、最適解はハイブリッドだった」

 ICEとモーターの間にクラッチがあるから、スタートはモーターだけでもできるが、4.5トンを引っ張るには簡単ではない。

「ICEでスタートし、ターボの過給圧が出るまではモーターでアシストする。過給圧が出たらモーターのアシストを下げる。過給圧が来る頃にはICEの回転数は上がっている。同軸上にあるモーターの回転数も上がる。モーターは回転上昇に伴って発生トルクが下がるがICEは回転とともにトルクが上昇する。両方をうまくミックスさせるため、ドライバーのアクセルペダル操作を見ている。どれくらいの加速感が欲しいかをペダルの踏み込む量や踏み込み加速度などから読み取る。そのトルクをICEで出すか、モーターで出すか、あるいは両方を使うかの制御は、バッテリー残量も見ながら適宜行なう」

 10ATのギヤ比は1速が4.92で、2〜3速が3.26/2.35/1.94と接近したクロスレシオ。直結は7速で8〜10速がオーバードライブ。このギヤ比の設定は徹底的に議論したという。

「本当にPUTにとっての最適なギヤ比とは何なのか。ここからスタートした。商用車としての動力性能とトーイング性能。議論の結果、2/3/4速クロス化になった。商用車にとってはいい使い方ができる。巡行からの中間加速でのスムースさも出せるし、ハイブリッドの場合はエネルギー回生もやりやすくなる。さらに悪路走破性も考慮した。そして燃費。タンドラHVは米国の市街地/ハイウェイのコンバインド燃費で27.8mpg(約11.75km/L)を達成したが、燃費の目玉を外さない2/3/4速と7速以上の高速ギヤ段の設定は議論の賜物だ」

 また、10速HEV用ATはロックアップ領域も広がったという。

「もともと10ATでも2速以上はほぼロックアップだったが、モーターが付いたことでICEからモーターを介してATのギヤトレーンにトルク入力されるので、制振制御を入れてICEの燃焼振動を緩めている。トーショナルダンパーと制御のダブルで制振しているので、スムースにロックアップしやすくなった。その結果、ロックアップ領域が広がった」

 純ICE用10速もHEV用10速も、ICEとの断続クラッチ直後に2列式のトーショナルダンパーを備える。

「とはいえ、1速でロックアップを使うとギクシャクする。そことのせめぎあいだった。1速はトルコンでスムースに発進させる。プレミアム感には必須だ。モーターだけならロックアップしっ放しでもいいが、ICEのトルク変動やドライバーのアクセルペダルの『パタパタ踏み』では前後Gの『しゃくり感』が出るので、そこはうまくなましたい。その点ではトルコンは優秀だ。北米市場では欠かせない」

 PUTでは大排気量NA(自然吸気)が好まれるが、今回トヨタは排気量ダウンサイジングを敢行し、電動ウェイストゲート付きの内製ターボ付きV6を使った。ICEとターボとモーターのマッチングも苦労したことだろう。日本で乗ることができないのは残念だ。

著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…