ヴァレオが電動ニューモビリティの加速に力を注いでいる。メガサプライヤー各社が乗用車や小型商用車の電動化を進めているところ、ヴァレオはこれらに加えてニューモビリティ——自転車から二輪車/三輪車、ドロイドや超小型EVなど——にも電動パワートレインを展開。その理由は、低電圧系のモーター市場ですでにプレゼンスを発揮しているため。とくに48Vシステムで大きなシェアを持つことから「小さな移動体」にもモーター駆動を次々と適用している。
そのヴァレオの電動ニューモビリティに、また新しいシステムが登場した。「48V eRide」と称するその装置は、電動モーターバイク(電気モーターで駆動するモーターサイクル:ややこしい)に搭載されていた。システムの根幹はもちろんモーターユニットで、SMMG(Small Mobility Motor Generatorの接頭語)はヴァレオお得意の48V駆動機ながら、eAccess(48V-BSGを駆動機に使っている電動パワートレイン)のモーターユニットの丸断面線ステーターに対して角断面線を採用、巻線密度を高めることで小型ながら効率を高める設計としているのが特徴。モーターサイクルに搭載するということで、汚損耐性を高めるために筐体を密閉構造としているのもポイントで、冷却方式は空冷ながら放熱フィンを設けることで積極的に熱交換する思想。走行風が積極的に導かれれば、高温に陥ることはないという。
このSMMGをVmotoのSUPER SOCOに搭載した試作車に乗る機会をいただいた。ストック車から「48V eRide」システムに各種変更した仕様である。
モーター最高出力 4.5kW ▶︎ 9.5kW モーター定格出力 3.9kW ▶︎ 6.0kW バッテリー総電圧/総電力量 72V/3.2kWh ▶︎ 50.4V/1.5kWh バッテリー重量 23kg ▶︎ 10kg×2 車両重量 104kg ▶︎ ほぼ同等 航続距離 110km@45km/h定地走行 ▶︎ 約35km@サーキット走行
試乗はカートコースで開催、タイトなターンを繰り返すコース設定。概してバイクのエンジンというものは回転上昇に伴って出力が高まっていくと理解していて、しかし駆動機がモーターとなると回転し始めから最大トルクが発揮されることとなり、非常に神経質な特性になってしまっているのでは——とかなり警戒していた。まして本試作車は出力が増強されている仕様。さらに「走行モードが3つありまして、3がいちばん強力。このコースだと速すぎて使えないかもしれません」などと走る前から追い討ちをかけられ、すっかり縮こまっているスタートとなっていた。
モード1で走ろう……と固く心に誓い、とにかくそっとスロットルをひねると——思いの外ジェントルに48V eRideは走り始めた。あれ、怖くない。そのまま第一コーナーへ。スロットルを戻したときの減速感はまったく違和感なく、一方でコーナー脱出時の出力発揮は瞬時で心地良い。これ……むしろこういうコースだから走りやすいのかもしれない。そう思ったらすっかり楽しくなり、軽い車体とも相まってひらりひらりとツイスティなコースを堪能している自分がいる。バッテリーパックやモーターユニットは重たくて重心も高いはずなのだが、自分の近くに寄っているのでとにかく軽く感じる。
個人的に、モーター駆動車というものは「とにかくお金を積んでパフォーマンスを追求する」あるいは「使い道を絞り、小型、軽量、低廉、静粛を目指す」の両極であるべきと考えている。ヴァレオの48V戦略はまさに後者にあたる提案で、「電気だからできること」を果たしている。
さらにヴァレオは、電動ニューモビリティの次なる一手も用意していた。Smart eDriveというそれは、Aセグメント車さらには日本の軽自動車も視野に入れた電動パワートレイン。最大の特徴は、冷却サーキットを外部に頼らず、ユニット単体で完結する思想としていること。冷却の手段はギヤオイルで、電動オイルポンプ(これは12V系での駆動を想定しているとのこと)による積極冷却と筐体に大きく設けられた冷却フィンで高温発熱を最小限に抑えるという。
しかし水を用いないとなるとパワーエレクトロニクスの発熱は相当に厳しいはずで、そこはどのように対処したのかときくと、まさにそこがSmart eDriveの目玉のひとつであり、パワーエレクトロニクスに直接接触する特殊な冷却フィンがオイルと触れ合う構造とした。なお、特許を取得しているという。冷却サーキットがなくなることでコストが圧縮できることはもちろん、これだけ小さくなるとクルマのパッケージングも大きく変化するだろう。軽くなりすぎて駆動輪荷重が稼げずトラクションに難が——などという新たな悩みも生じそうだ。積極的に冷やせるからフロントに載せて走行風を積極的に当てたい、という一方で、導風板で床下整流〜冷却という手段で後軸駆動にも使えそう。いずれのケースでもユニットにとって厳しいのは高負荷の低速走行。ただし、中国のAセグメント車搭載想定では、彼の地の走行モードは十分にクリアできるだけの温度耐性は確保できている、とも答えてくれた。