【海外技術情報】ヴィテスコ・テクノロジーズ:モーターサイクルをハイブリッド化することで二酸化炭素排出量を削減しつつ楽しさを増強する

独コンチネンタルからパワートレイン事業が独立・法人化して2019年に生まれたヴィテスコ・テクノロジーズが、今秋開催されたミラノショー2022にて、モーターサイクルの『ハイブリッド・コンセプト』を発表した。ハイブリッド化がモーターサイクルの二酸化炭素排出量の削減を実現しつつ、楽しさを増強し、快適性と利便性を向上させるという。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

モーターサイクルをハイブリッド化する試み

ヴィテスコ・テクノロジーズ(以下、ヴィテスコ)が、オートバイのハイブリッド化を進めている。その成果として同社は、2022年11月に開催されたEICMA(ミラノショー2022)にて、二酸化炭素排出量を大幅に削減できる、電気駆動装置を追加装備した(ハイブリッド化された)モーターサイクルを展示した。実現するのは二酸化炭素排出量削減だけではない。操縦する楽しさが増し、新たな機能が付与されることで快適性と安全性が向上する。この『ハイブリッド・コンセプト』は排気量125cc以上のモーターサイクル用に設計されており、48V電気モーター、自動マニュアルギアボックス、それにコントロールセンターとしてのパワートレイン・ドメイン・コントロール・ユニット (PDCU)、いわゆるマスターコントローラーで構成されている。

実はヴィテスコは昨年のEICMAで最初の『ハイブリッド・コンセプト』を発表していた。前回の発表では、近い将来モーターサイクルのうち3~7kWセグメントは全電動ドライブへと急速に移行するものの、中~大型モーターサイクルにおいてはハイブリッド・ソリューションが、移行段階として重要な役割を果たす、としていた。今回発表された『ハイブリッド・コンセプト』はそのアップデート版であり、実物が初めて展示された。モーターサイクル&パワースポーツ製品ライン責任者であるトルステン・ベロン氏は以下のように述べた。

「エンジンを搭載した中~大型のモーターサイクルが将来の排出ガス規制をクリアするには、電気エンジンとのハイブリッド化と自動化されたマニュアル・トランスミッションとを組み合わせるしかない、と予想しています。そのため『ハイブリッド・コンセプト』開発の焦点は当初、二酸化炭素排出量の削減に向けられていました。過去12カ月間、乗用車セグメントで生まれた技術(48V)をモーターサイクルに適合させ、電動パワートレインでのみ可能な多くの追加機能を開発しました。その開発を通じて、『ハイブリッド・コンセプト』がモーターサイクルをよりダイナミックに、より快適に、より安全にする可能性を感じ取ったのです」

ハイブリッド化は強力かつ効率的、費用対効果が高い

『ハイブリッド・コンセプト』の電気エンジンは、ヴィテスコが乗用車として2016年から48Vハイブリッド化に使用している、標準的なベルト駆動スタータージェネレーターである。同じく乗用車部門のマスターコントローラーが制御を担う。48Vエンジンを制御して、燃焼エンジンのM4Cエンジン・コントロール・ユニットと通信して、いつ電気駆動に切り替えるか、いつ従来型=エンジンのみで駆動するか、いつ両方の駆動タイプを組み合わせるかを決定する。自動化されたスマート・トランスミッションには、遠心クラッチとインテリジェントアクチュエータが装備される。マスターコントローラーは経済的な燃料消費を実現するため、最適なタイミングでクラッチを作動させることなく独立してギアを変更できる。

12kWの電気モーターと取り外し可能な1.5kWhのバッテリーにより、このコンセプトは最大30kmの距離を純粋な電気モード60km/hで移動できる。『ハイブリッド・コンセプト』のエンジンの出力は32kW、最高速度は160km/hである(ベースとされたのは373cc単気筒エンジンを搭載したハスクバーナ『Vitpilen 401』であるようだ)。この構成により『ハイブリッド・コンセプト』は二酸化炭素排出量を最大75%削減する(WMTC;World Motorcycle Test Cycle)。このシステムは全体の重量を約20kg増加させる。それによりこの『ハイブリッド・コンセプト』の車両重量は170kgとなり(ベースの『Vitpilen 401は151kg』)、同様の性能を備えた完全に電動のモーターサイクルよりも軽く、大幅に安価となる。乗用車においてはハイブリッド化は非常に高価になる傾向があるが、このシステムで必要となる追加コストは1,000ユーロ未満であるという。

ヴィテスコはモーターサイクルにも深い造詣を有する

モーターサイクルへの適合において、ヴィテスコは社内の自動車製品にアクセスできるという大きな利点を持っている。その自動車向け技術とコンポーネントをモーターサイクルに適合させることができるのは、同社が有するモーターサイクルに関する幅広い知識のおかげである。『ハイブリッド・コンセプト』プロジェクトの責任者を務めるクリストフ・ゲニン氏は以下のように述べた。

「当社の開発チームはモーターサイクルに乗るときに何が重要であるかを理解しており、そのうえで多様なユーザー層を念頭に置いています。例えば、バイクに乗り始めたばかりの初心者にとって最大の課題はクラッチ操作です。これが電気始動機能を開発する動機の1つとなりました。これにより20km/hまでの速度で走行する際、クラッチ操作とエンストのリスクがなくなります。特にストップ・アンド・ゴーの多い交通において、快適さと安全性の両方が向上します」

電気モーターとスマート・トランスミッションを組み合わせることで、電動モードでの始動が可能となる。しかし『ハイブリッド・コンセプト』のすべての新機能と同様、それに対応するマスター・コントローラーの制御戦略を開発する必要があったという。

電気エンジンはライディングの楽しさを増強し、利便性と安全性を高める

スロットルを開いた瞬間の俊敏な反応もハイブリッド化の恩恵である。電気エンジンは内燃機関よりも機敏に反応する。電気モーターは特に低回転域で優れた出力を提供する。この追加のe-ブーストにより、最大トルクは60Nmに達する。アシストなしの最大トルク:は37Nm@7,000 rpmである。これは排気量373ccの中型モーターサイクルが、1000ccエンジンを搭載したモーターサイクルよりもパンチの効いたトルクを有することを意味する。

『ハイブリッド・コンセプト』はライディングの新基準を設定する。電気始動に加えて、電気による車両の後進も実現する。この便利な機能は、特に狭い駐車スペースや下り坂の駐車スペースで役立つ。ヴィテスコは他にも幾つかハイブリッド化の利点をあげている。例えば、電気モーターはギアチェンジ中に発生する短いトルク中断を補正して、シフトアップおよびシフトダウン時にホイールトルクを一定に保つことができる。またバッテリーの充電に使用される電気モーターの発電機機能は、急激な減速が必要な場合にのみ機械式リアブレーキが必要になるよう、追加のエンジンブレーキとして使用できる。さらに、『ハイブリッド・コンセプト』のエネルギー管理は、ナビゲーションシステムと接続して、例えば都市に入る前や長い登坂になる前に、バッテリーが完全に充電されていることを確認できまる(予測走行機能)。ツーリング時のルート計画においても柔軟性を提供できる。『ハイブリッド・コンセプト』は航続距離が約260kmであり(ガソリン+電気)、これは同等の電動モーターサイクルよりも長く、そのうえガソリンスタンドで素早く給油も可能できる。

キーワードで検索する

著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…