NEDOプロジェクトで燃料物質の”油”を細胞外に生産する微細藻類の作成に成功

NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」プロジェクトにおいて、大成建設、埼玉大学、中部大学、かずさDNA研究所が、外来遺伝子を導入することなく燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功したことが発表された。

概要

微細藻類の一種であるシアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942株に対して特定遺伝子の発現を抑制・強化することにより、細胞内の燃料物質である遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)を効率的に細胞外に生産することが実現された。

今回作製された藻類の特長として、外来遺伝子を含まない非組み換え生物であることに加え、FFA生産能力の強化と生産されたFFAを速やかに細胞外に放出させる機能の向上により、燃料物質であるFFAを容易に回収できることが挙げられている。また、培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、工業利用時の製造や運用に係るコストなどの軽減が期待されている。

自然界に生息する微細藻類の中には、油脂などの燃料物質を細胞内に生産・蓄積できる細胞内油脂生産藻類※1が存在する。この燃料物質は、ジェット燃料やディーゼル燃料の原料として利用できるため、こうした微細藻類を用いたバイオ燃料生産に関する研究が世界的に進められている。従来、藻類バイオ燃料の製造では、培養した微細藻類を回収・乾燥させた後、細胞内に蓄積された燃料物質が有機溶媒などで抽出されていた(図1)。しかし、この工程では製造に係る消費エネルギー全体の50%以上を占めており、実用化に向けて消費エネルギーの低減が重要な課題であった。

図1 従来のバイオ燃料製造フロー

これらの課題を解決し、省エネルギー化を図る手段として、細胞外に燃料物質を生産させる遺伝子改変手法があ挙げられる。従来の研究では、大腸菌などの外来遺伝子を導入して生産が試みられていたが、遺伝子組み換え生物の工業利用には、環境中への拡散防止に係る規制(カルタヘナ法)※2にのっとり、必要な設備の導入や厳密な運転管理が求められる。

そこでNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(バイオものづくりプロジェクト)※3で、大成建設、埼玉大学、中部大学およびかずさDNA研究所は、外来遺伝子を導入することなく燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功した。微細藻類の一種であるシアノバクテリア※4Synechococcus elongatus PCC 7942株(以下、PCC7942株)に対して特定遺伝子の発現強化などを行うことで、燃料物質である遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)を効率的に細胞外に生産させることを実現した。なお、今回作製した藻類の特長として、外来遺伝子を含まない非組み換え生物※5であることに加え、FFA生産能力の強化と生産されたFFAを速やかに細胞外に放出させる機能の向上により、燃料物質であるFFAを容易に回収できることが挙げられる。また、培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、工業利用時の製造や運用に係る消費エネルギーとコストの軽減が期待されている。

今回作製された藻類の特長

(1)燃料物質である“油”(FFA)の細胞外への放出を強化

PCC7942株が有する特定遺伝子の発現を抑制・強化することにより、細胞内でのFFAの生産能力を向上させるとともに、細胞内のFFAを速やかに細胞外に放出させることが実現された(図2)。ここでは、遺伝子改変技術を用いてFFAからアシルACP※6への合成反応を抑制し、膜脂質からFFAの生成反応とFFAを細胞外に放出する機能を強化することでFFAの細胞外生産を可能としている。

図2 非組み換え藻類における細胞外へのFFA生産機構

(2)燃料物質である“油”(FFA)を細胞外で容易に回収可能

作製された藻類の乾燥菌体重量あたりのFFA生産能力は、1日当たり31mg-FFA/g-DCW※7と、細胞内油脂生産藻類(1日当たりFFAとして換算した生産能力:10~120mg-FFA/g-DCW)と比較すると中程度である。しかし、細胞外に生産されたFFAを容易に回収でき(図3)、また培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、培養に係るエネルギーやコストの軽減が期待される。

図3 開発した細胞外FFA生産藻類の燃料生産イメージ(左)と培養の様子(右)

注釈

※1 細胞内油脂生産藻類:
ボツリオコッカス(Botryococcus)、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)、シュードコリシスティス(Pseudochoricystis)、ユーグレナ(Euglena)やナンノクロロプシス(Nannochloropsis)などが知られており、乾燥菌体重量あたり50%程度の燃料物質を蓄積する種も報告されている。燃料物質には、植物油に相当する中性脂質(トリグリセリド)、重油に相当する炭化水素、脂肪酸と脂肪酸アルコールの化合物(ワックスエステル)が挙げられる。

※2 カルタヘナ法:
「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称「カルタヘナ法」)により、国内における遺伝子組み換え生物の使用などを用いる際の規制措置を講じている。また、遺伝子組み換え生物が生物多様性へ影響の審査や適切な使用方法について規定されている。

※3 「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(バイオものづくりプロジェクト):

※4 シアノバクテリア:
ラン藻とも呼ばれ、酸素を発生する光合成を行う原核生物。

※5 外来遺伝子を含まない非組み換え生物:
ここでは、外来遺伝子を含む生物を遺伝子組み換え生物、外来遺伝子を含まない生物を非組み換え生物と称されている。

※6 アシルACP:
細胞の膜脂質を合成するための原料となるアシルキャリアタンパク質(ACP)に脂肪酸が結合した物質。

※7 DCW:
Dry Cell Weightの略称。乾燥菌体重量を示す。

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