【世界初】東芝が超低消費電力無線規格「Bluetooth Low Energy」を用い電波の干渉や反射等が厳しい環境下での蓄電池の無線監視実証に成功

図1: 蓄電池システムの無線監視のイメージ図
東芝は、世界で初めて※1 汎用的な超低消費電力無線標準規格「Bluetooth Low Energy (以下、BLE)」※2 を用いて、電波の干渉や反射などが厳しい蓄電池システム内における各蓄電モジュールの状態の無線監視が可能であることを実証した。

開発の背景

東芝は、蓄電池システムの仕様を踏まえた独自の設計によりシステムエラーの発生を10年間で1回以下に抑えることが可能なこと※3を 、実際の蓄電池システムを使った実証実験および理論の両面から示した。通常、蓄電池システムの状態監視は有線で行なわれているが、本実証により汎用的な無線標準規格であるBLEを用いて、システムにおける蓄電モジュールの状態監視の無線化が可能となる。状態監視の無線化はシステムの保守の簡素化、絶縁対策、設置の自由度向上が見込め、安全な蓄電池システムのさらなる普及に貢献する。本内容の詳細は、イタリア・フィレンツェで開催される通信技術の国際会議「VTC2023-Spring」にて6月22日(現地時間)に発表される。

再生可能エネルギーによる電力の安定供給には蓄電池システムの活用が不可欠であり、鉄道や船舶、VPP(バーチャルパワープラント)といった幅広い分野への適用が進められている。例えば、定置用蓄電池世界市場においては容量ベースで2035年には2020年の約4.3倍に拡大することが予想されている ※4。蓄電池システムは、安全稼動のため、各蓄電モジュールの電圧や温度を監視するCMU (Cell Monitoring Unit) とそれを管理するBMU(Battery Management Unit) が設けられている。

通常、CMU-BMU間の通信は有線で行なわれているが、絶縁耐性や蓄電池の設置の自由度、配線ミスの防止を踏まえ通信を無線で行なうことが求められている。これまで独自の通信方式を利用して無線化を試みた事例の報告はあるが、蓄電池システムの無線監視の普及には汎用的な無線標準規格による無線監視の実現が不可欠。しかし、通信対象ではない相手からの電波の干渉や反射が厳しい特殊な環境下における無線通信となるため、標準規格の適用は非常に困難だった。

本技術の特長

先述の課題を受けて東芝は、BLEを採用した、蓄電池システムにおける蓄電モジュールの状態監視の無線化の実現に向け、世界で初めて無線監視の実証に成功した。

蓄電池システムにおいて、通常各蓄電池は、金属に囲まれた閉空間に20台以上設置されており、その中で無線通信を行う必要がある。通信を無線で行うと、各蓄電池に設置されるCMUからBMUへの信号が相互に干渉したり、筐体内部での電波の反射による影響で通信が不安定になりやすいという課題が想定される。東芝は、このような特殊な環境下でのBLEの適用検証において、蓄電池システムにおける監視周期にあわせて、単発的な遅延は許容し連続的な遅延を防ぐシステムの設計を行った。

図2: 蓄電池システムの監視周期
図3: 測定結果と計算値

具体的には、無線で許容される監視周期を100~200msとし、3連続で通信が行えなかった場合に、蓄電モジュールの充放電を止めるシステム設計とした(図2)。そして、一般的に定置型リチウムイオン電池に期待される寿命はおおよそ10年であることを考慮し、監視周期に対するエラー、つまり監視周期を超える通信遅延を10-4以下に抑えることを目標としている。実際に蓄電モジュールが設置されている蓄電池盤を利用して、各BMUに2つのBLEモジュールを設置し、11台ずつCMU側のBLEモジュールを無線で接続。延べ4日間の通信遅延測定により、160ms程度の監視周期であれば、通信遅延を10-4以下に抑えられることが示された。また、BLE通信に関して、所望の信号に対する信号の干渉をモデル化し、確率計算を行なうことにより遅延特性が説明できることが明らかにされた(図3)。

このようなメカニズム分析は、蓄電池の台数が増えたときの遅延特性の予測や信頼性の保証に繋がる。
本実証により、BLE通信機能を搭載した蓄電モジュールで、長期間駆動する蓄電池システムを構築できる見通しとなった。

※1 蓄電池システム内の各蓄電モジュールの電圧や温度を監視するCMU (Cell Monitoring Unit) とそれを管理するBMU(Battery Management Unit)を「Bluetooth Low Energy 」で接続し実際の蓄電池システムを使った実証実験に成功したことが世界初。2023年6月22日現在、東芝調べ。

※2 「Bluetoot Low Energy 」は、 Bluetoothの拡張仕様の一つで、Bluetooth v4.0で追加された。最大の特長は超低消費電⼒で、家電、自動車、産業用途など幅広い分野で活用されている。Bluetoothは、Bluetooth SIG, Inc.の登録商標。

※3 リチウムイオン電池の製品寿命は10年が目安であり、通信面でもそれを踏まえた設計されている。

※4 蓄電池産業の現状と課題について, 2021年11月18日,経済産業省 より

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