ルネサス、車載AIソフトウェアの開発・評価を加速するクラウドベースの開発環境「AI Workbench」をリリース

ルネサス エレクトロニクスは、車載AIソフトウェアをクラウドで迅速に開発、評価できる開発環境「AI Workbench」のリリースを発表した。ユーザーはパソコンに開発ツールをインストールしたり評価ボードを入手することなく、車載AIソフトウェアの開発をすぐに開始することができる。

「AI Workbench」 4つの機能ブロック

クラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureの高性能なコンピューティングリソース等の技術を活用し車載ソフトウェアの開発を進めるだけではなく、クラウド上のシミュレーションツールにより、性能評価(デバッグ)や動作検証(テスト)も可能だ。これは、単に開発環境がクラウド上にあるというだけでなく、チップやECUなどハードウェアの無い初期段階からソフトウェアの開発、評価ができる「シフトレフト」を実現するものである。

例えば、開発中の第5世代R-Car SoC(System on Chip)向けの、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転をサポートするAIアプリケーション用ソフトウェアの開発も開始することができる。本環境は、ルネサスのスケーラブルなSoCやマイコンを対象に、品種やアプリケーションの種別によらない、単一の環境として提供される。

AI Workbenchとして今回リリースされるのは、次の4つの機能ブロック。ルネサスは今後、ユーザのさまざまな開発プロセスをサポートするために、一部機能のみの提供やカスタマイズも計画される。AI Workbenchは、2024年1月より限定プレビュー版として提供開始される。2024年第2四半期以降には、さらにAI Workbenchが拡大され、将来的にはマイクロソフトAzureだけでなく、他の大手クラウド環境においても同様の環境が構築される予定。また、R-Carコンソーシアムのエコシステムパートナが提供するツール類もクラウドに統合できるよう検討が進められる。

  1. AIコンパイラツールチェーンのアップグレード
    ルネサスは、従来のSoCのAIコンパイラツールチェーンを新しい「ハイブリッドコンパイラ(HyCo)」アーキテクチャにアップグレードし、AI Workbenchを通じて提供する。独自開発した新たなHyCoアーキテクチャとカーネルライブラリにより、DSP(Digital Signal Processor)やNPU(Neural network Processing Unit)などルネサスのSoCで利用可能な既存のサードパーティ製のハードウェアアクセラレータ用コンパイラだけでなく、より広範なAIモデルやONNXツールに対応する。
     
  2. AIモデルの性能検証環境
    最新のハイブリッドAIコンパイラを使ったAIモデルがルネサスのSoC上でどのように動作するのか、性能を評価するためのオンラインテスト環境「NNPerf」が提供される。テストは、ルネサスのグローバルデバイスファームにある実際のハードウェア上で実行されるため、評価ボードは不要だ。プログラムのバッチコーディング、リアルタイムの推論テスト、さまざまなAIモデル間の性能比較が可能なため、ユーザはAIモデル間のトレードオフ、メモリ使用量、レイテンシなどを確認しながら開発を進めることができる。
     
  3. ソフトウェアの開発環境
    マイクロソフトのコードエディタVisual Studio Code(VSCode)と、ルネサスの車載ソフトウェア開発キット(SDK)がクラウド上で利用することができる。アプリケーション開発者は、このツール群を使用することにより、クラウド上で開発環境を数分で立ち上げることができる。ユーザはパソコン上のWebブラウザだけで、独自に開発環境をカスタマイズし、開発を行うことができる。
     
  4. ソフトウェアの評価/検証環境
    ルネサスは、「NNPerf」で性能の検証を行ったAIモデルを用いて、アプリケーションソフトウェアをテスト、検証できる環境も提供する。シミュレータとしてSILS(Software In the Loop Simulator)、HILS(Hardware In the Loop Simulator)などを用意しており、AIアプリケーションの動作検証を行うことができる。
AI Workbenchの詳細はこちらから。

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