JFEスチールは、CO₂排出量削減や燃費向上を目的とした車体軽量化ニーズの高まりを踏まえ、超高張力鋼板をお客様に提供してきた。一般的に鋼板を湾曲した部品形状にプレス成形する場合において、成形途中に湾曲部に発生する「プレスしわ」と成形後に元の形に復元する「スプリングバック」と呼ばれる現象への対処が必要になる。
超高張力鋼板は車体軽量化に大きく貢献する素材であるものの、鋼板の板厚が薄く強度が高いほど、プレスしわが発生しやすくなる。プレスしわが発生すると、金型が損傷する、目標形状と異なる形状になる、といった課題が生じるため、超高張力鋼板適用拡大の阻害要因になっていた。そのため、顧客においては超高張力鋼板であってもプレスしわを抑制する成形工法に関する強いニーズがあり、それにこたえるため、JFEスチールは『流入制御工法』を開発した。
今回採用された『流入制御工法』は、プレスしわの中でも特にプレス部周囲のフランジに発生するしわを低減させることを特徴とする技術である。一般的にフランジしわはプレス成形時に材料の流入を低減(最適化)することにより抑制できることから、プレス成形時の流入量を多工程で最適化することでフランジしわの低減を実現した。
寸法精度変動対策として採用された『ストレスリバース工法』は、超高張力鋼板の材料強度の上昇に伴って増加するスプリングバック量の変化(寸法精度変動)を抑制する成形工法である。超高張力鋼板は通常の鋼板に比べ、成形時のスプリングバックと材料量産時の強度の変動幅が大きい傾向がある。そのため、スプリングバック後に正しい部品形状となるように金型形状をより精密に設計する必要があり、事前の金型製作には多大な時間やコストがかかっていた。また、強度の変動幅のある材料を同じ金型で成形した場合、寸法精度の変動により部品公差から外れる恐れが生じる。
JFEスチールの開発した『ストレスリバース工法』は、バウシンガー効果とよばれる変形の方向を逆にした直後の変形応力は小さくなるという鋼板特性を活用し、寸法精度変動を抑制する技術である。本工法適用により、材料強度が変動した場合でも顧客におけるプレス部品の安定生産に貢献する。
今回の対象部品であるメンバーフロントバンパーは、岡本プレス工業が量産を実施しており、JFEスチールと岡本プレス工業の共同開発により『流入制御工法』と『ストレスリバース工法』の量産金型への適用が実現された。