ガソリンと軽油、燃料としての図抜けた優秀性[内燃機関超基礎講座]

人類が古より慣れ親しんできた「燃える水」、石油。自動車文明の現代においては、ガソリンと軽油として重宝され、非常に高いエネルギー密度の特性を誇る。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

ガソリンと軽油は常温・常圧下で液体であることが最大の特徴と言える。容器に入れて手軽に持ち運ぶことができ、しかも、ある程度の期間は保存できる。つくり溜めが難しい(二次電池の性能が低い)電気と違って貯蔵が簡単であり、現在ではインフラも整っている。依然として自動車燃料の主役である理由はここにある。ちなみに、大人ひとりが1日8時間の一般的労働を行なうときに必要なエネルギー量(150Wh)をガソリンに置き換えると、ガソリン1ℓは約1週間分に相当する。唐突な例えだが、2ℓ入るPETボトル1本の液体が2週間分の労働エネルギーに相当するという点は、考えてみれば驚きである。

常温常圧で液体であるという点は自動車燃料にとって大きなメリットである。しかも、このグラフに示したようにガソリン/軽油の「エネルギー密度」は極めて高い。ほかの燃料の追随を許さず自動車を独占してきた理由はここにもある。ちなみに、電気は200bar水素の半分以下だ。


しかし、ガソリンは簡単に製造できるわけではない。とくに、現代に流通しているような環境負荷を抑えた良質なガソリンとなると、一定の製造装置が必要である。原油を蒸留して得られる軽質成分をさらに分解・改質し、それらをブレンドすることでガソリンは精製される。

ところが、厄介なことがひとつある。原油は産地によって成分が違うのだ。同じ油井から得られる原油でも、日によって微妙に成分が違う。元来が地下深くから掘り出す天然資源なのだから、金属や泥水の混じり具合が時と場所によって違うというのも無理はない。たとえば、中東産原油の代表格であるアラビアンライト種を例に取れば、高温に熱してガス化し、蒸留する段階で得られる成分は下の円グラフのようなものだ。総じて「軽い」成分が多く、だから「ライト」と呼ばれる。

中東産の代表的油種であるアラビアンライトを常圧蒸留して得られる成分は、この円グラフに示したように分類される。産地によっては重質成分が極端に多くなる場合もある。ただ、中東原油は硫黄分が中国産や北海産に比べて多く、ガソリンにするには入念な脱硫が必要だ。

同じく中東で算出されるアラビアンヘビー種と比べても、アラビアンライト種は比重(15/4°C)が0.858、粘度(37.8°C)6.14、硫黄分1.80%であるのに対し、アラビアンヘビー種は同0.886/18.9/2.40%である。硫黄分だけで見ると、クウェート産は2.50%でアラビアンヘビー並み。いっぽう粘度では中国・大慶産は29.8もあり、流動点も飛び抜けて高く「常温では流れない」という不思議な原油である。

原油産地別に硫黄分と比重をまとめてみると、このようになる。これ以外にも粘度/蒸気圧/沸点/流動点などの判断指標があり、まさに原油は百花繚乱かつ十人十色なのである。日本はおもに中東産原油を使用している。

性状の違いは、常圧蒸留で得られる成分の違いとなって表れる。沸点が低い順に石油ガス/軽質ナフサ(20~100°C)/重質ナフサ(100~150°C)/灯油(150~235°C)/軽質軽油(235~343°C)/重質軽油(343~565°C)/残油(565°C以上)と分類すると、中東産は総じて軽質成分の抽出比率が大きい。ただし硫黄分が多いため脱硫工程が厄介になる。また、つねに変動する石油製品事情に対応するため、精製技術の革新も求められる。

その昔は「石油資源には限りがあります」というテレビCMが流れていた。原油可採年数が「期待値」を含めても60年である、と。この60年はなかなか変わらない。それどころか、原油相場が上がるといきなり可採年数が増える。掘削コストをかけても採算が取れる、ということだ。
日本国内での原油利用の内訳がどのように推移してきたかを見ると、非常に興味深い。かつては重油類も商品だったが、現在ではその価値が薄れた。だから、重油をさらに分解して軽質成分に転換する技術が進歩した。

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著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…